第3章:誕生日なのに

第8話:誕生日のお願い

 それから2か月がたった。


 あのトラブルがあってから、夢叶はLINEのアカウントを作り直し、Twitterは自分だと分からないようにアカウント名を改名した。元カレは警察行きになったから、もう何もないとは思うけど、念のためだ。


 絵星とのお付き合いも何かと順調だ。血液型の相性1番の力なんだろうか。そう思っていた頃、絵星が短期のバイトをやることになったのだ。何故なのか、本人からは何も言ってこない。


 7月のある週末、たまたま休みが合った2人。夢叶が住むアパートでお家デートをすることになった。その時に、誕生日プレゼントの件で話題になる。


「来月の誕生日、絵くんはプレゼント何欲しいとか希望ある?」


「そうだなぁ……。」


絵星はそれしか言わず、スマホで何かをじっくり探していた。


「今欲しいのは、これかな。」


絵星が夢叶に見せたのは、戦いモノのアニメで出てくる機体のプラモデルだった。


(あの件のお礼もきちんとできてないし、それも兼ねたら金額的にそうでもないか…なー。)


「おーい、夢叶? 高すぎたか?」


悩む夢叶を前に、絵星が呼びかける。


「あ、ううん。全然、大丈夫よ。無くなる前に、早いうちに買っとく。給料入ってからなるべく早めに。」


「あー、よかった。こんなこと頼むの初めてだから、加減が分からなくて。」


「私もかも。」


何がおかしいのか分からないが、お互い笑う。


「夢叶は何が欲しいとかある?」


「うーん……絵くんが買える範囲で全然いいんだけど、候補教えておくね。」


夢叶が候補にあげたのは、推しのアニメキャラクターのフィギュア、キャラクターがデザインされたスマホケースとペンケースだった。


「なるほど。後で写真送ってもらっていい?」


「はいよー。」


 その後アニメ映画のDVDを鑑賞した2人。手を繋ぎ、最後まで真剣に観ていた。


(誕生日の時も、こんな風にいられたら――)


夢叶が映画の余韻に浸っていると、


「夢叶?」


「んー?」


夢叶が振り向いた瞬間、絵星が唇を奪ってきた。夢叶もお返しをした。そして抱きつく。


「――幸せ。」


「――ああ、俺も幸せだよ。」


 夕方になり、絵星が帰っていった。夢叶はこの幸せを噛み締めつつ、夕ご飯の材料を買い足しに行くのであった。


☆☆☆


 夢叶は次の休みの日、アニメのグッズ屋さんへ行き、誕生日プレゼントとして絵星が欲しいと言っていたプラモデルを探すことにした。


(あるとしても、この辺だよな?)


フィギュアやプラモデルのコーナーを覗くも、見つからず。


 夢叶はグッズ屋さんの近くのうどん屋さんで昼食を食べた後、帰宅した。スマホから通販サイトを開き、覗いてみた。


(あったわ!)


見つけたものの、絵星の誕生日当日は仕事だ。付き合っているという事実は、お互いに両親には黙ったままなのだ。


(絵くん、まだ講義中かな?)


そう思いながら夢叶は、


『絵くん、私当日仕事入ってるんだよね。近くのコンビニで受け取れるようにするけどいい?』


と、LINEで連絡を入れた。


 約1時間後、絵星から返事が来た。


『分かった。そうしてもらえると助かる。』


返事を見てから、夢叶はあるうちに確保しておいた。


 その頃絵星は大学の多目的ホールにて、佑仁と何かを打ち合わせしていた。


「絵星、宿の予約取れたぞ?」


「ああ、ありがとう。後はどうやって行くかだな。」


「あそこも行きたいよねー。」


「行けるところは、全部行こう!」


 絵星が短期でバイトをしていた訳は、佑仁から、夏休みにアニメの聖地を巡礼しに行こうという誘いがあったからだ。そのための旅費を確保するため、短期でバイトすることにしたのである。


 短期バイトは7月いっぱいで終わり、8月の15日頃に給料が入る。


 ただ、絵星の目的は夢叶には黙ったままだ。


 絵星の本心が夢叶には分からないまま、8月の誕生日を迎えようとする――

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