第7話:俺が守るから

 翌日、出勤してきた夢叶に真っ先に声をかけたのは啓太だった。


「おはよう! どうだった?」


「はい、楽しかったです……が――」


夢叶は昨日、自分宛に届いたのメッセージの内容が頭によぎる。


「どうかしたのか? 絵星が失礼なことでもしたのか?」


「い、いえ全くそうじゃないんですけど――」


始業時間が来てしまった。仕方なく、夢叶は仕事に取りかかることになった。


 この日の仕事が終わると、夢叶は啓太に話の続きをする。


「矢間さん、実は昨日こんなのが…。」




『また男作ったのか。彼氏募集中でもしたのか。俺の時も合わなくて別れたんだからすぐ別れる。おめー、性格悪いし。』




「何だこれ…前の男から?」


「そうです。前いたところで知り合った年下の男です。実は、絵くんと付き合う前からずっと…LINEでもTwitterでも、私のアカウント探されるんです。どう頑張っても。」


「そんな暇あるなら、蒲本ちゃんにやったこと詫びろってな。絵星にはその話はしたのか?」


「帰ってからLINEで事情は話しました。一瞬辛そうに見えたから心配だったって、言われちゃって。」


その後アパートの前まで、啓太に送ってもらった夢叶。身の危険を感じたのだろう。


(何だか嫌な予感がする……。)


夢叶のこの嫌な予感は、現実となってしまう――


☆☆☆


 それから数日がたった。この日は啓太が休みで、夢叶はベテランのパートさんと相談しながら、売り場作りに励んでいた。


 パートさんが先に帰った後、夢叶は荷物を取りに倉庫へ行こうとしていたその時だった。


「すみません、ちょっといいですか?」


「あっはい!」


夢叶が振り向くと、そこには見たことのある青年がいた――


(何で……何で来たのよ!?)


この青年の正体は、夢叶の年下の元カレだった。


 同じ頃、絵星は4限目が休講になり、佑仁と一緒に帰ることになっていた。しかし、何かを察したのか、電車を降りたところで絵星が小走りになる。


「佑仁ごめん、先に帰っててくれる?」


「あっああ…。」


駅で佑仁と別れた絵星の目的はただ1つ。


(夢叶、何故か無性に君に会いたいんだ。あの男から、守ってやらないと…!)


絵星は急いで、夢叶がいるスーパーへ向かった。


 夢叶は元カレから距離を置こうとするが、元カレもついてくる。


「分かってるでしょう? 新しく彼氏できたこと。だから、貴方には用はありません。仕事の邪魔になるから、帰ってよ!」


「男できたからって、仕事ないがしろにしてるんじゃないだろうね?」


「そんな訳ないじゃない! ここの人達皆優しいから、仕事しやすいのに――」


喋りながら、夢叶はつまづき転んでしまった。つかさず元カレが近寄る。


「あーあ。何もないところで転ぶなんて、情けない。今の男となんて別れ――」


「それだけは嫌。今の子は、思いやりがあって、とっても……いい男だから!」


「あらそう。だったら――」

 

 今日は啓太が休みで、近くに助けを呼べる人がいない。夢叶は、この男に言いなりになりそうで、もうダメだと思っていた、その時だった。


「俺の夢叶に何してんだ!!」


絵星が息を切らしながら、駆けつけてきたのだ。


「あらあら、彼氏さんのお出ましかい。よくこの女と付き合えましたねぇ。」


「どの口が言ってんだ。お前さんの話は全部夢叶から聞いたからな! 夢叶を散々酷い目に遭わせておいて、絶対許さん…!」


夢叶は隙を見て、絵星のもとに歩み寄る。絵星が抱き寄せる。


(夢叶、すごく身体震えてるな。こいつだけは絶対排除しないと!)


 絵星が来て数分後、近くにいたお客さんが呼んだのか、店長と私服警備員が駆けつけてきた。


「蒲本さん、大丈夫かい!? 警備員さん呼んだからもう大丈夫だよ。」


「何があったのか分からないけど、女の子に恫喝どうかつしちゃいけないよ。警察へ連れていくよ!」


元カレは参ったという顔をして、大人しく警備員の言うことを聞き、そのまま警察署へ連れていかれることになった。


 店内が平和に戻ると、夢叶はほっとしたのか絵星に抱きついて泣いていた。


「申し遅れました、店長さん。自分は夢叶さんとお付き合いさせていただいている、橋渡絵星です。今、大学4年生です。」


「そうでしたか。君が来てくれなかったら、あの男の子に暴力振るわれていたかもしれません。」


「夢叶さんから話を以前聞いていたせいか、何となくそんな気がしていたんです。だから、居ても立っても居られなくなって――」


「でも、未然に防いだ意味でお礼をしておきます。ありがとうございました。」


「いえいえ。これからもここのお店利用させていただくので、よろしくお願いします。」


 その後夢叶は店長命令で早退することになった。明日は休みのため、店長の方から啓太へ引き継ぎしてくれるそうだ。


「次またこんなことがあっても、夢叶は俺が守るから。絶対な。」


「うん、ありがとう。今日のことも。あとね――」


「ん?」


「絵くん、大好きです。えへへ。」


「も~どうしようもない奴め。俺も大好きだよ、夢叶。」


夢叶の頭をなでつつも、絵星は彼女が住むアパートまで送ってから帰路についた。

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