第3話:決意

―昨日の夜―




 絵星は啓太に電話をかけた。


「もしもし、ケータ?」


『お、絵星じゃん。お前から電話かけてくるとは珍しいな。何かあったのか?』


絵星は一呼吸おいて、話しだす。


「じ、実はね……、蒲本さんのことが、気になってる。俺今まで恋愛経験したことないから分かんなくて。こんな気持ち初めてかなって。21年間生きてきてさ」


『そうかぁ。誰かに相談はしたのか?』


「いーや、言い出しづらくて。誕生日近いし、あんなに可憐で可愛い子取られたくな――」


『本音出たな。ハハハッ』


 やってしまった。そう思った絵星は頭を抱えた。


『蒲本ちゃんの連絡先ってまだ知らんよな?』


「あ、うん。まだ知らない。なかなか会うタイミングないし。仕事中にそんなこと言っても迷惑かなって思って」


『まあ、だろうな。俺から教えるのもアレだし、次会えたら声かけてみれば?』






 それが、翌日になるとは。まさかの展開に絵星は驚いているが、目的は果たした。絵星は啓太にある約束をしていた。


『このことは、蒲本さんには内緒にしてほしい。言いたいことは、俺から全部言うから』


 絵星は月輝との外出を終え、帰宅した。スマホを見るとLINEが届いていた。


『改めまして、夢叶です! 教えて欲しいなんてどうしたのかなって思っちゃったけど。まあ何かの縁だよね。よろしくね、橋渡くん』


何て返事するか。少し考えて送った返事は。


「急にごめんな、こんなことになっちゃって。少しでも多く話せたらいいなって思ったから」


 すぐに返事がやってきた。写真付きだ。


『そうだったんだね。こっちに転勤してきてから、ろくにアニメの話できる人いなかったから、橋渡くんと出会えてよかったなーって思ってたよ。今日の収穫がこれ!』


アニメキャラのストラップと夢叶本人が一緒に写った写真だ。わざわざ自撮りにしたのだ。


(出会えてよかった。可愛い)


何も文句はない。いつかこの子を自分のものにしたいと決めた絵星だった。


☆☆☆


 スマホ上でのやり取りが始まってから、夢叶も絵星も充実した日々が続いた。あんなにアニメを語り合える人が身近にいるんだという喜びだ。それとプラスして、ますます夢叶への思いを募らせた絵星。


 夢叶が仕事を終えて帰ってから、啓太が絵星に電話をかける。


『もしもーし、絵星よぉ』


「んー? ケータ? まだ仕事中なんじゃないの?」


『もうすぐ帰るとこだ。で……今事務所俺しかいないから今のうちに聞いとくけど。告白はしたのか?』


「……うっ」


 啓太からどストライクな質問が飛んでくる。絵星はビクッとする。アニメの話ができる人、としか夢叶はまだ思ってないのかもしれないが、絵星としてはこのままではいられない。


「……まだしてない……。直接言いたいとは思ってる。いざ本人が目の前にいるって想像しちゃうと怖くて……」


『そこはビシッと決めるのがかっこいい男や。俺とは違ってお前は男前なんだから。蒲本ちゃんにいいとこ見せてやれ〜! 連絡先聞けたんだからできる! 俺が保証する!』


歳上の言うことは説得力があった。保証するなんて言われたらもうやるしかない。


「分かった。できる気がしてきた! あの子の次の休み、いつか分かる?」


『んーっと……明後日やな。お、やるんだな? 結果楽しみにしてるわ〜』


絵星が何か言い残そうとすると電話は切れてしまった。


 告白ってことは、好きって言って、上手くいけば付き合うってことである。絵星は今までドラマやアニメではそういうシーンは観たが、そんな感じになるのは間違いない。


(これで、店員と客の関係ってやつは終わるのかもな)


そう思いながら、絵星は夢叶にLINEを送る。


『お仕事お疲れ様。明後日、時間合ったら直接会って話したいことがあるんだ。いいかな?』


 夢叶からOKだと返事を貰い、翌々日を迎えた。やっと直接、想いを伝える時だ。場所はファンザの近くの公園だ。人気はない方だ。先に着いた絵星は落ち着かず、ウロウロしながら待っていた。


「お待たせー!」


後ろから夢叶の声が聞こえ、振り向く。絵星は大丈夫だと自分に言い聞かせていた。

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