第2話:ただの知り合いなんかじゃない!
バレンタインが終わって、夢叶は長かった髪を切った。
絵星が『髪が短い人がタイプ』というのを啓太からちらっと言っていたような気がしたのもあるが、そろそろ美容室に行かないといけないと考えていたから、丁度良かった。夢叶はタイプの話については聞かなかったことにし、絵星の反応を伺うことにした。
「髪切ったんだね。スッキリしてていいと思う!」
啓太からそう言ってもらえて、まずはほっとしていた夢叶。
この頃、大学は春休みだ。だからなのか、昼前に絵星が訪れたのだ。どこか出かけるのだろうか。
「いらっしゃいませ、橋渡くん」
「あ、どうも、蒲本さん。髪、切ったんですね。見た感じが変わりすぎて分からなかったです」
そんなことを言うが、彼の胸の内は――
(こんなに短髪似合う女の子初めてだよっ……)
絵星は冷静を保とうとし、飲み物とお菓子を買ってレジへと歩いて行った。
夢叶がお昼休憩の頃、絵星はぼんやりとしてうわの空になっていた。
「おーい、かーいーせー! 戻ってこーい!」
声をかけたのは、絵星の数年来の友人で同じ大学に通う
「え、あれ? ごめん佑仁」
「お前にしては珍しいな。何かあったのか?」
「いやー、何でもないよ。さっさと飯食おうぜ」
絵星は上手くはぐらかし、足早にファストフード店へ向かった。
ひな祭りコーナーの売り場を完成させたところで、この日の仕事は終了。夢叶は帰る支度を終え職場を出ると、後ろから声をかけられる。
「あのー、蒲本夢叶さんで合っていますか?」
「あ、はい。どちら様ですか?」
「自分ですか? 眞城佑仁です。絵星の友達です。あいつ今どっか行ってるんですけど、あいつからアニメ好きの同い歳がここで働いてるって聞いたもので」
絵星と前回会った時にそんな話は確かにした。
「おーい、待たせたな佑仁。あっ……蒲本さん、お仕事お疲れ様でした」
「ありがとう。同い歳なんだし、なるべく敬語なしでいこう。少しずつで」
絵星は頷くだけで何も言わず、佑仁と先に帰っていった。
次の日は休みだが、特にすることがないのだ。夢叶は両親に近況報告することにした。年始に帰省してから、ゆっくり話せていない。ひとり娘でかなり心配しているだろう。電話でゆっくり話すことにしたのだった。
☆☆☆
3月に入ったある日の休み、夢叶は遊びに出かけていた。雑貨物もそうだが、アニメのグッズに目を光らせ、時間を忘れて見入っていた。気がつくと午後2時を過ぎていた。
「いけない! お昼どこかで食べなきゃ――」
一旦アニメのグッズ屋さんを後にして、近くのレストランへ向かった夢叶。お昼時を過ぎて空いていたのか、注文してそんなに時間がかからずご飯が届いた。注文したのはビーフシチューだ。
お昼ご飯を食べ終え、ゲームセンターに寄っていこうと歩き出した夢叶は誰かとすれ違った気がして後ろを向いた。絵星だった。ゲームセンターがある方向に行っているみたいだ。自分も用事があるからと、夢叶は見なかったフリをして向かった。
絵星と一緒にいたのは、この間初対面だった佑仁ではなく別の男だった。絵星達が寄ったのは、ゲームセンターの近くにあるディスカウントストアだった。
(へぇ、こんな店もあるんだなぁ……)
興味をそそられた夢叶は思わず店の中へ入っていった。
夢叶は隅から隅まで店内を歩き回っていると、絵星とその友人の男のすぐ近くまで来てしまった。足音を立てずそっとその場を離れた。
「すげーなここ。俺が前いたとこなんてこんなのなかったぞ? 都会はすごいなぁ」
「だろー。
絵星と一緒にいたのは、月輝という男だった。前いたとこ……って言っていたから、何処かから引っ越してきたのだろうか。そんなことを考えていると、2人にばったり会ってしまった。
「お、おっとっ!? 蒲本さん!?」
「ど、どうも〜橋渡くん、偶然だねーお邪魔しちゃったね……」
月輝はその子は誰? とぽかんとしていた。
絵星は月輝に事情を説明し、ただの知り合いだってことにしておいた。
「よく行く店で働いてる人、ってことだったのねー。俺は
「あ、はい。よろしくお願いします。私は用事あるのでそろそろこの辺でー……」
夢叶が先にその場を後にしたが、絵星は何か腑に落ちない表情で立ち尽くしていた。
(月輝には悪いけど、ホントはただの知り合いなんかじゃないんだ――)
「可愛い子だったなーって絵星どうした?」
月輝の問いかけに我に戻る絵星だったが、
「ごめん月輝、ちょっと待っててくれないか?」
夢叶はまだ、近くにいた。絵星は彼女の事をまだまだ知りたい、そんな気持ちでいっぱいだった。
「――蒲本さんっ!」
思わず腕を掴んだ。
「……どうしたの橋渡くん?」
様子が気になった月輝は後ろから見ている。
「……連絡先教えて欲しいな。ダメかな?」
「あ、うん。いいよ?」
夢叶は素直にOKしてLINEを交換した。
(なんかいい雰囲気だなぁ……あの子の事気になってたんだな、あいつは)
月輝がそう思っていると、絵星が戻ってきた。
「用事終わったよ。蒲本さんとはすぐそこで別れたよ。帰る前にあそこ行くか」
「ああ……うん、ならよかった」
何事もなかったかのように月輝と歩き出す絵星の心の内は――
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