第11話 世上物騒我が身息災/光芒一閃
目に留まった箱は、棚の端の方にあった。
たま~にある、レトロモデルの復刻版。
こんなん誰が買うんだ? という種別のものだが、店長の趣味かなんだか分からないが、それはそこにあった。
自分は、量産機が好きだ。
自分は量産機が大好きだ。
……と、よくあるテンプレフレーズではないが、ホントに好きなのだ。
逆に主人公機は好きくない。
人型起動兵器のくせしてリアル機体とはコレ如何に? なのだが、そこら辺は横に置いといて、飽く迄リアルであると見せたいのなら、何故に主人公機は皆が皆して尖ったモンにするのかと問いたい。
整備とか部品とか特注品にしかできひんやろがい。補給一つとっても手間が増えるだけやんけ。統一規格でええやろが!
とまぁ、こんなツッコミを入れてしまう、拘りの強いクソ面倒な男なのである。
だからこそ、安定した性能とコストパフォーマンスを叩き出せる量産機というものが大好きなのだ。
しかし、そんな彼であるが、そんな拘りをかなぐり捨てるような機体も存在する。
特機……所謂スーパーロボット系だ。
コレならよい。見た瞬間に強い(確信)とされてしまう説得力が、整備性やらコストやらの理屈を頭の端に追いやれる。
拳をロケットで飛ばす意味? 浪漫じゃないか。
謎のエネルギーで動いて謎ビームを出す? スーパーなロボットだしな。
何か気合で出力上がるんだけど? ロボに根性があるんだろう。
今やデフォとなったでっかい剣とかは……別にいいや。自分は力こそパワー派だし。
機動戦士的な量産機プラモを式神のベースにするというトンチキな理由で探しに来た学義であったが、それが目に入ってしまったものだから堪らない。
数十年前のカシマ社製、伝説鋼機ロボのノンスケールモデル。
明らかに箱の絵と違うんですがこれは…と言ってしまう荒いディテールと、単色プラスチックが堪らない。
パーツに
これは中々燃えてくるジャマイカ。
訳の分からないノリのままそれを購入し、そのノリのまま自室の結界の中で素組み氏し、デザインの偏向…もとい、変更と改造行程を思案。
家にあるプラモのあまりパーツ等を組み合わせつつ、型取りレジンパーツも取りつけて細かい部分はパテで形成し、戦闘で必要な個所を強く固くしてゆく。
どうせ結界内と外界の時間の進み方は違うので、好き勝手絶頂且つ丁寧に改造ができる。何より以前より気力が長続きするのだから始末が悪い。
言うまでもなく原形をとどめない魔改造物へと昇華していった。
元々のデザインが、リモコンで動くロボと、腕時計の命令で動くやつを足して割ったようなパチモンだった事も手伝い、ロボというよりゴーレムっぽくなってしまったが……コレもまた良し。
ゴテゴテした飾りは不要! 戦闘用だし。
代わりに両腕を前面でぴたりと合わせると盾っぽくなるようデザインされている。
如何にも重厚そうなのがポイントだ。
背中に二連ロケットブースターなんてものがあるが、それは御愛嬌である。
色は散々悩んだ末にガンメタルに。イメージから分かる良い渋さ。
丁寧に色を塗り、
果たして式神にそんなものが必要なのかという疑問もないではないが気にしない。だって神は細部に宿るというじゃないか。
そんなこんなでそれは完成した。
制作日数、表時間で一週間。結界内時間は計ってないから不明。
見るからに遺跡から復活した伝説の都市防衛人型巨人っぽい感じに、それは出来上がった。
何だか無駄な方向に凝りまくっている気がしないでもないが、全体としてまとまったデザインではある。
そしてその努力の結晶に向かい、学義は力を吹き込む。
世界と完全な別種の理をそこに注ぎ込んでゆく。
物質変換。 材質、
存在拡大。鉄巨人!
宿れ命、存在命名――……ええと、『バリキ』!!
『 Y e s . S i r !! 』
完成してから、やり過ぎたか? と感じる。
気が付いたら、ちょっとどころではないくらい力入れて作ってしまった所為で、式鬼といって良いのか首をかしげるものが出来上がってしまったのだが……まぁ、生まれてしまったものはしょうがない。
全体に認識阻害をかけて、バリキと名付けた初めての式神の肩に乗り、しゅごごごごと空に飛び立つ。
水平飛行に移ってから、その背に仁王立ちで立ってみた。
誰に見られているという訳でもないが、こんなシチュエーションに言いようのない満足感が湧いてくる。
しかし、落ち着いてからチラリと後方を見ると、二連のロケットブースターから『しゅごー』と、如何にもな火が出ているのが見えてしまった。
液体も個体も燃料なんか無いんだけどなぁ……と、微妙な気持ちになるが、バリキが悪い訳じゃない。不思議な力で生まれたんだからしょうがない。
『Master.
How did you do it?』
と自分の意思で問いかけてくるくらいなのだし。
「いや何でもないよ。調子は良いみたいだね」
『 Yes.Sir』
しかし何で英語なん? と疑問が湧かなくもないが、意識を形作った時のノリだから覚えてないので気にしない事にした。
変なテンションでやらかした事は、大体は取り返しがつかないものである。
兎も角、しばし飛行テストを兼ねた空の旅を堪能してから、着地場所を探す。
何しろこの巨体。ずしんっと降り立ってしまう事に間違いはない。
いやそれを言ったら飛び立つ時はどうしたのかという話になるのだが、あの時は結界から直接発進したので誰にもバレていないだろう。
どこか無いかと探してみると、公園に人気がない事に気が付いた。
これ幸いと公園に着地させる。
思っていた通り、ずしんっと重い音を立てて地面に足がめり込んだ。
無論、足跡はきちんと消すのだが。
次は式神としてコンパクトに収められかどうかのチェックも行う。
「バリキ、戻れ」
そう命じると、その巨体が淡く輝き、光の渦となって風の音のような音と共に学義の手の中に納まった。
彼の手の中にあるのは銀色のアンプル。
某特撮番組で使用された怪獣を収納していたアレを参考にしてみた。
いやまぁ、確かに使役していた訳であるから、アレも式神みたいなものと言えなくもないが、趣味と勢いでとんでもないものを生み出してしまったと、今更ながらやり過ぎたかと反省する。
何しろサイズもアレだ。全高が5mもある。
そりゃあテレビの巨大ロボには劣るとはいえ、リアル全5mの巨体が動き回るとなると迫力が半端ない。
ノリと勢いで設定貼り付けたのは流石に拙かったなぁ……と後悔し切り。
まぁ、それでも大切な最初の式神だ。大切にしようと心に誓った。生み出したのは自分であり、全て自業自得なのだし。
「……ま、これからよろしくな」
と、手の中のカプセルに言葉を伝え、腰に拵えたケースに収めた。無論、このケースも特撮に使われたものを参考にしている。
何はともあれ、さぁ帰ろうとした矢先に、ちょいと遠くに出過ぎてしまっていた事に気が付いた。
着地時にはとりあえず適当に広い所にとここを選んだのであるが、何しろ空から選んだ訳であるから、実質的な距離はかなり離れている。
今日日、漫画等に出てくる空き地なんぞひょいひょいある訳ないのだから、どこかの駐車場や学校の校庭とかを選ばなければならない。
しかし、いくら認識を阻害できても街中となるとずしんと着地するのは気が引けた。
だからやたら人の気配の少ないところを選んだ訳だが……流石に区の東の端の公園は遠い。
極力、力を使わない様にと自らを封じているのだから、自力で家に帰るのにも一苦労だ。
何より、
「遅くなったら都岐がなぁ……。」
食事に遅れると、地味に怖い。
何しろ麺類は時間との戦いだ。伸びたら台無しになるので機嫌が悪くなる。
昨日、タコ糸で豚肉縛ってるのをみたから、恐らく拉麺とは思うのだが……。
「あの情熱はなんなんだろう?」
集中したら突き進むところは、流石は兄妹よく似ている。自覚はないだろうが。
兎も角、麺類……もとい、夕飯に間に合わせるべく家路につこうとしたのであるが。
唐突に爆音がした。
「うぉっ?! な、何だぁ?」
流石にビビって周囲を見渡す。
まほう使いとなった学義であるが、普段はあらゆる能力を一般人レベルに落としている。
だから咄嗟の事態には反応が鈍いのだ。
そして夏の夕暮れにしては異様に暗い事にようやく気付いた時、離れた場所で戦っている人間たちと異質なものが目に入った。
「……なぁにアレ?」
呆気にとられた声が出た。
戦っているのだろう清掃員の格好をした人間たちは横に置いといて、明らかに異様な三体。
霊的構成は式神の様なのだが、明らかに雑だ。
荒いドット絵というか、マイクロブロックでそれっぽく作った置物というか……神霊を再現しようと無理矢理集めて組み込んだ代物にしか見えない。
傍目にはそれらは化け物然と見えていただろうが、学義からすれば出来の悪いモザイク画だ。
目に痛いという意味で気分が悪い。
しかし、何だかんだでそれなりの霊力はあるのだろう、白い鬼っぽいのは電気エネルギーを持っているようだし、何か黒っぽいやつは火気が妙に強い。
戦っているのは清掃員っぽく変装した局員だと思われる。
今になってこれは怪異事件という奴だと気が付いた。
前線にいる局員三人を見たところ、物凄く練り込んだ霊基が感じられる。真っ当に鍛え、高めてきたのだろう事は容易に理解できる。
これならそう簡単に局員たちが破られるとは思えない。
が、周辺の被害は間違いなく出るだろう。
いや、式神の雑な作りからして、行動不能になった際に
それなら、と一瞬力を行使しようとしたが、
先日、あれだけ『いなかった事にして』と要求していたというのに、今になって『気が変わったから、ちょいと手助けにきました』は無いだろう。
となると――
ああ、手があるじゃないか。
正に実戦テストの好機、とばかりに学義はケースからしまったばかりのアンプルを取り出し、ノリノリで彼らのところに投げた。
――バリキ、
当然、これが発動ワード。
コンっとカプセルが地面に当たり、光の渦が発生してその光は巨人の姿をとった。
学義の式神第一号。
先代を参考にした彼にとっての前鬼。
全身超金属のロボ…もとい式神。
鈍いガンメタルカラーの渋い奴。
半月型の目に黒い瞳付きという三白眼。
命令を受けるとその目が光るのはデフォルトだ。
――行け、バリキ。
あの白い鬼っぽいのをやっつけろ!
『Yes.Sir!!』
その命令に、バリキは目をビコンっ!と光らせてアンサーバックを返した
場に居合わせた全員が呆気に取られていた。
無理もない。何しろ唐突に鉄巨人が出現したのだから。
三体の式神ですら新たなる敵……いや、脅威に対し、戸惑っているよう見える。
混乱といった思考能力があるのかは不明であるが、戦いの真っ最中に動きを止めるのは頂けない。
バリキは、新米とはいえ本物のまほう使いが精魂込めて作り上げた式神だ。
そんな隙を見逃さすはずがない。
ずしんっとアスファルトを踏み砕きつつ、雷神モドキに接敵し、首から上は獲物を睨み据えたまま上半身を半回転させ、たっぷり180度の捻りを加えた鉄拳を白鬼の顔面に叩き込んだ。
重たく、鈍い、鉄塊がかち合うような轟音を立てて白鬼が吹き飛んでいった。
「きゃっ!」
その音の衝撃に彩里は蹲ってしまう。
何しろ周囲にいた人間達の下腹に重く伝わるほどだったのだから。
白鬼が吹っ飛ばされた事により、ここに来てようやく敵対象だと認識だきたのだろう、阿修羅モドキと風神モドキが猛然とバリキに飛び掛かった。
が、
『Get Out.』
しかしバリキは上半身を旋回させて易々とこれを薙ぎ払う。
顔が雷神モドキを向けられたまま、先ほどと同様に腕を上半身ごと扇風機の羽の様に旋回させて二体を吹き飛ばしたのだ。
どむっと重い音とともに、二体の身体はくの字に曲がって吹っ飛んだ。
「のわっ?!」
丁度、風神モドキが吹っ飛んでゆく線上にいた勝治が、慌てて避けた。
幸いにも彼を掠める事もなく、地面と平行にすっ飛んだ風神モドキはそのまま公園の樹に直撃した。
凄い痛そうな音を立て、びしゃりと口から体液らしきものを吹いたから、かなり効いたのだろう。
「危ねぇだろが!!」
当然、巻き込み事故に遭いかかった勝治が吼えた。
『My Fault.
I’m Sorry』
バリキも自分のミスを認め素直に謝罪する。
頭に手をやりペコリと謝罪する様は、何かコミカルだ。
「え? あ、ああ、おう」
勝治も毒気が抜かれているし。
いや虚を突かれただけかもしれないが。
しかしそのどこか愛嬌すら感じるバリキであるが、与えられた役目を忘れはしない。
意外に素早い動きで雷神モドキの元へ突進し、そのゴツイ指でむんずと掴むと、恰もビーチボールの様に軽々と宙にぶん投げた。
狩野らが目を見張るほど、それは高く飛ぶ。
結界の所為か空はかなり暗い。そんな暗さ故に一瞬見えなくなる程に。
しかし実体を持っている為か直ぐに自由落下を始め、ジタバタもがきながら大地に戻ってきた。
バリキは、雷神モドキの落下に合わせて上半身を高速で旋回させる。
風が轟々と鳴る。
早い、そして怖い。
プロペラの回転速度で丸太が回っているようなものだ。空気抵抗が桁違いなのだから轟音もするだろう。
狩野らは見えていないだろうが、実は拳も高速回転していたりする。
この無駄のない無駄な仕様、はっきり言って学義の趣味だ。浪漫の欲張りセットだ。
敵対象を絶対に破壊せんとする強い意志すら感じられた。
心なしか雷神モドキの顔も恐怖に歪んでいるようにも見える。
しかし残念。慈悲は無い。
『Ascension.』
風船が炸裂したような音が響いた。
大旋回して遠心力マシマシの上、無駄に回転する拳がぶち込まれたのだから。
力学的に無駄多くね? という説も無きにしも非ずだが気にしてはいけない。
現に式神の核が物理的にぶち壊されたのだから。
拳を突き上げたポーズで静止しているバリキを呆然と見つめていた一同。
皆の認識外にいる学義は大はしゃぎだったりするが知る由もない。
しかし、超越存在の彼は兎も角として、対策局側は異常事態が続きに続き精神が飽和状態である。
ただでさえ起こり得ない事件の最中、正体不明なロボが登場して戦うという異常事態が発生しているのだから無理もない。
そして、物理で半霊半実体を殴り壊すという理解を超えた事態に、皆は放心していたのだ。
そんな時、徐にバリキが拳を下ろして、狩野らに向かってこう放った。
『
ザラザラした合成音だが、その意味は強く理解させられた。
反射的に繁が身を翻して錫杖を阿修羅モドキの口に突き込んだ。
「喝っ!!」
下腹から練り上げた氣を、体内で旋回させて腕から錫杖に流し、解放。
咥内でそんなものをぶち撒けられたら敵わない。
ばぁんっ! と阿修羅モドキの顔の下半分が弾け飛び、悲鳴のような咆哮が上がる。
そこらの怪異ならばこの一撃で絶命し、霧散する程の霊圧だったのだが、その耐久力は大したものだと言えよう。
この式神らに痛みを感じる器官があるのかどうかは知らないが、弾けた顔を両手で隠すようにして仰け反った。
「ナイス!!」
そしてそのがら空きになった胸部に、轟音と共に風穴が空く。
絶叫と共に阿修羅モドキの霊基が砕け、今度こそ飛び散った。
その様は燃焼爆散に近い。
辺りに焦げ臭さと破片が飛び散ったのだから。
二体の最期を認識した風神モドキは、戦力差を悟ったか周囲に霧を吐いて身を隠す。
式によっては自己判断できるものがあるのだが、やはりこの個体もそれなのだろう。敵わないと見るや逃げを打った。
しかし、一歩遅い。
撒き散らされた濃霧は、風を纏う水柱に全て吸い込まれてしまう。
「逃がすかいな」
摩耶が既に態勢を持ち直し、印を組んで術を行使しているのだ。
そしてその水柱は大蛇の様にうねりがら撒き上がり、風神モドキの真上から叩きつけられた。
流石にそれで潰れるほど柔ではないが、膝を屈しさせるのには十分な勢いと重さはある。
そしてその額、胸と腹に札が付いた刃物が突き刺さった。
其々の符には、『識刻』『霊刻』『動刻』が描かれており、刃物からは長い長い緒が伸びており、それは狩野が握っている。
「
次の瞬間、符によってモドキ式神は核と呪が切断され、籠っていた霊気がばぁんっと大きな音を立てて飛び散った。
終わってしまえばほんの僅かな戦闘時間。
あれだけ手古摺っていたのが嘘のように呆気なく勝負がついてしまった。
「終わった…か?
雨宮、見鬼してみてくれ」
「え…? あ、ハイッ!」
荒い息のまま、狩野がそう指示を出すと、ようやく我に返った彩里が周囲を見渡す。
式神を構成していた霊基が霧散した為、ここら辺一帯の霊気は無駄に上がっていて、言うなればジャミングが掛かっている様な状況だ。
しかし彼女の目をもってすれば、そんな目くらましもほぼ通用しない。
「異常……ありません。
周囲一帯の怪異反応は消えてます」
「分かった。
状況終了だ。
全員、撤収準備」
彼女はその言葉を聞き、ようやく力が抜けたかその場にへたり込んだ。
あれだけ霊圧が高いものと対峙する事に慣れていないし、こういった前線に出るのも初めてだったのだから緊張は無理もない。
尤も、狩野らベテラン達にも滅多に出逢わない相手であったのが。
「支部長サン、お疲れ~。
せやけど、もっと早う
「馬鹿言え。
あれだけの隙を作ってもらわなけれゃ行使も出来んスカスカの呪禁だぞ?
当てに出来るか」
「ああ、確かに」
そうも簡単に納得されると立つ瀬がないのだが。まぁ、今更だ。
軽く苦笑したところで、はっ気付いた。
慌てて辺りを見回すが、いない。どこにも。
影も形もない。
「お、おい、あのゴーレムみたいなの何処いった?!」
「え? あ、ホンマや。おらん」
狩野は悔やむように舌を打つ。
彼とした事が意識を離してしまっていた。
いや、離してしまったというよりは――
「くそっやられた!!
認識介入か!!」
意識を背けさせられる。不可思議な様子が目に入ったとしても、不自然に思わせない。
一々事柄に注意していなければ、僅かに意識を外してしまえばつけ込まれる。
自分らの様な怪異に対抗する組織は勿論、魔術に関わる者がよく使う手だ。
「助かった事は助かったけどよ、何か美味しいトコ持ってかれた感じだな」
勝治の口調にはやや悔しさが滲んでいる。いや面白く無さそう、が正確か。
繁は黙って使用していた道具を片付けている。内心はどうだか分からない。
「彩里ちゃん、あのロボが逃げるの見えたん?」
「あ、いえ、その、見逃してました……。」
申し訳なさげに頭を下げるが、摩耶はひらひらと手を振って「ああ、ちゃうんや。責めとるんやないで?」と慰める。
「あんなでっかい代物やったに、支部長が目ぇ離してしもたんやで?
せやったらそれなり以上の手練れやん。
だーれも責められへんて」
「悪かったなっ」
公園の一部に被害が出たが、想定内――というより、想定外に少ない被害で済んだ。
何しろ中央防衛用の拠点の一つなのだから、多少の損壊程度なら一般人の認識を阻害されて気にもされないのである。無論、限度はあるが。
兎も角、後はかえって調書をまとめるだけだ。
準備していた簡易結界やら法具等を片付けると、後は現場清掃員にバトンを渡して撤収する。
「……辰田から東区の方も終わったと連絡が入った。
よし、帰るぞ。
気疲れはしたが、こちらの支部に怪我人が無かったのは不幸中の幸いだ」
「まぁ、困るのは中央の奴らだしな」
「さぁ~て、西条サンとこがどんな言い訳準備してくるか楽しみやなぁ」
そう駄弁りつつも速やかに公園から去って行く五人。
彩里は最後にチラリとあの巨人が出現した辺りに視線を向けるが、街灯の灯りを受けて地面が明るくなっているだけ。もう何も残っていない。
彼女は直ぐに意識を前に向け、皆の背を追った。
あの最後の時、
――バリキ、戻れ。
という、誰かの命令を感じたのであるが、その記憶が頭の隅をちらりと掠めた気がしたが……。
調書を纏めていく時にはすっかり忘れ去っていた。
まるで、他愛のない事柄だったかのように。
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