第1話 大山鳴動して鼠一匹/時に遇えば鼠も虎になる
東京の一地方、その端に公立坪内高等学校があった。
時にはGWが明けた次の週の月曜日。
連休が続いてからの更に日曜明けなので教師含めた生徒達もどこかダラケ切っていた。
二年ともなれば、本気で大学進学等を目指している者ならば、この辺りから先を見据えた態勢に入るのであるが、そのクラスは完全な進学科ではない事もあって、顕著に気が抜けた態を曝している。
しかし、時は放課後。LHの号令を口にするクラス委員の声にも張りが無い如何なものか。
とはいえ、担任も何やら眠そうなのでお互い様だ。
それで良いのか? と思わなくもないが、これで良いのだろう。若干一名、すっかり寝入ってるし。
何しろ中央で一番後ろの席だから担任の目に留まり易い。
眠気に耐え切れなかったか、手枕でぐっすりと眠っていた。
気持ちは分からぬでもないが、居眠りは帰ってからにしてほしい。
こっちも眠いの我慢してるってのに…、と本音は口に出さず、担任教師はぐっすりと寝入っている生徒に向かって、
「おい、起きろ加賀…」
そう声を掛けようとした正にその時。
ドシン…っっ!! と、教室が…いや、校舎が揺れた。
日本などに住んでいれば、否が応でも震度二~三程度の地震には合うもの。
多少の驚きはあっても左程慌てたりはしないものだ。
しかし、今のは違う。
一瞬だけとはいえ、体感的には七以上はあった。
先にHRを終えて部活に帰宅にと校庭に出ていた学生たちも座り込んでいたくらいだ。
その衝撃の強さにより窓ガラスが割れたり、窓そのものが外れ落下しているほどなのである。
余りに咄嗟の事であり、人々の理解を越えた衝撃。
近所にミサイルが着弾したと言われても納得できしまうレベルのものであった。
しかしも予兆はおろか爆発音等は何一つも起こっておらず、ただただ強力な衝撃だけが校舎を襲ったのだ。
「ひ…っ」
と、誰かが小さな声を漏らしたがそれだけ。
揺れ続けば悲鳴も起ころうが、事の直後は余りに唐突過ぎて反応ができない者が大半だ。
変化は、一拍の間を置いた時。
下の階 ―― 一階の教室から起こった。
今の衝撃で外れて落下した窓が、地面に叩きつけられ大きい音を立てて砕け、その破片が教室に飛び込んだのだ。
破片によって負傷した者の声……ではなく、怪我人の出血を浴びた者のが叫んだのである。
その声が呼び水になったか、各教室からも大きな動揺が起こった。
混乱、そして焦燥感。
コンクリートの校舎が軋むような衝撃なのだ。只事ではないのは分かり切っている。
我に返った教師らが落ち着くように声を掛けるが、何しろ教師も落ち着けているのか怪しいもので、生徒らの不安感は拭えない。
職員室から飛び出した教師らが、あちこちの教室に安全の確認に走り回る。
騒ぎの基点となった教室の負傷者は三人。その出血を目の当たりにして気分を悪くした生徒は多数。
幸いにも死に至るような怪我人は出なかったものの、他の教室には怪我人らしい怪我人は出なかったようだ。
しかし――
「お、おい、しっかりしろ!!」
廊下に響く男性教師の声。
その声は、校舎二階の二年C組の教室から発せられていた。
落ち着きを取り戻しつつあった生徒達は、好奇心からその声の出どころが気になってくる。
隣の教室や、更に隣の教室からも何名かが野次馬に向かう。
生徒らは無論、そんな彼らを止めようと教室から追って来た教師も見た。
二年C組の担任含む、生徒全員が意識を失っている光景を。
「き、救急に連絡を!!」
「警察に、警察に!!」
慌てて電話を掛けようとする者、現代っ子らしく写真を撮ろうとする者も続出。
無論、そんな彼らを教師らは止めようとした。
しかし、止めるまでもなく生徒たちは次の事態に慌てふためく事となる。
「何で?! 使えないよ!!」
「電源が入らねぇ?!」
「スマホ使えないんだけど!?」
何と全員のスマートフォンが使用不能になっていたのだ。
その声を耳にした他の生徒達も慌てて自分ものを確認し始める。
「うっわ!! マジか?!」
「嘘っ この間買い替えたばっかなのに!?」
全員、一人残らずスマートフォンの電源が切れて動かなくなっていた。
いやそれどころか、一部の生徒がこっそり持ち込んだ携帯ゲーム機すらも起動不能に陥っていた。
一気に冷静さを失い出す生徒達。
それでも何とか鎮めようとする教師達であったが、事は上手く運べない
中には教室を飛び出して、野外で動作確認をする者や、他の学年教室に確認しに走る者まで出る始末。
謎の衝撃云々よりも、現代社会においてコミュニケーションの道具として欠かす事の出来ないツール、スマートフォンをはじめとする携帯電話が使用不能になった方がショックが大きいのは如何ともしがたいが、今の状況下では不安は測りしえない。
何しろ、何一つ外部の情報も得られないし、何一つ中の情報を伝えられないのだ。
情報化社会の現在では耳と目を塞がれているに等しい。
教師の中で冷静さを取り戻した者は、職員室に駆け戻って備え付けの電話を使おうとした。
が、これも駄目。備え付けの電話も全て使用不能になっていた。
解決に動いたのは、謎の衝撃が起こってから二十分近く経ってから。
学校の近くのコンビニに駆けこんだ生徒による通報からだった。
救急車は勿論、自衛隊と思われる人員まで出張って周囲を警戒しつつ、二年C組の生徒達以外で意識のあるものは体育館に集められて検査を受け、不幸にも騒動で負傷した者や意識を失った者は急遽誂えられた専用テントの中で治療が行われる。
尤も、その最中にもストレスからか体調を崩す者まで出始め、二年C組の生徒と教師、その他重軽傷者を含めると100人以上が一時病院へと送られる大事件となってしまった。
――尤も。
「そのお陰で、その他大勢の不幸な人の中に紛れた訳だけど……。
何とも嬉しいやら悲しいやらだなぁ」
誰かにぶつかられて頭を打ち、気を失った――という態にできた自分を見下ろしつつ、溜息を吐いている何かがいる等と知れるはずもないのだが。
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