7.「ほんと、俺らって性格悪い」
【王都ゼルディアル】
王城のあるUnlimited唯一の城下町
他とは違う…かどうかは他の町に行ってないから知らないが、王都というだけあって随分と活気に溢れている都市
城壁に囲まれ建物が並び立つ景色をぐるりと見渡せば、中々にファンタジックで心躍る。プレイヤーはもちろんNPCも多く、飛び交う中身のない会話は本当にリアルの街並みのようで。
ここを拠点に動くのが常道だろうなと思いながら、見える景色に思わず苦笑する。なんというか…
「俺の装備が明らかランク低い件について、って感じだな…いや当たり前っちゃ当たり前なんだろうけど」
最初の町から王都まで道なりに行けば結構な長さになる。その間に街はいくつもあるし普通はクエストをこなしながら装備を揃えていくのだろう…普通は。
「町とかフル無視で来たからな…まあいいわ。マップマップ〜」
さすが王都、建物や何やらの表示が多い多い。1つ1つ見ていくのは骨が折れるし、んな面倒なことしたくない。
「ん〜色々興味深いものはあるけど…とりまギルド作んのが最優先か。なら冒険協会っと…お?」
ふと顔を上げた先は、食堂らしき1つの店。その前にある丸い木製の舞台を10人程のプレイヤーたちが囲んで騒ぐ様子に、ほぉと納得してマップを閉じる。なるほど、飲み屋の賭け勝負か…うん
ちょっと寄り道、だな
舞台の上には2人の男。1人は大剣をどっしり構えた体格のいい男。頭から足までガッチリと装備されたあの感じ…前線タンクのブルドーザーか
もう1人は金色のメッシュを入れた水色の髪を短く後ろで結ぶ青系統の装備を纏う男。重装備とは真逆で、かろうじて腕と足は篭手や防具で守られているが、着ている防具は見ただけで分かる軽装備。遠距離魔法か瞬発力の囮かとも思わせるその身で、タガーをくるりと回している。
そして彼らをそれを取り囲む、テンションの高い男たち
「さあさあ今日の賭け初戦!どっちに賭ける!」
「そりゃあダルクだろぜってー!」
「タガーは大剣相手の装備じゃねえだろー」
「ふうー!ダルク〜やっちまえー!」
「ちょ、お前ら酷くない!?俺にも賭けてよ!?」
最前列にいる男たちが大剣の男―ダルクに声を掛ければ、細身の男が不貞腐れたように文句を言う。それもまた囃し立てる様子からして、おそらくそれなりに顔見知りなんだろう…ったく、舐められすぎだっつーの
ただの遊び事なのか軽いノリで大剣の男に賭けていく常連たちと、装備やら何やらを比べてやはり大剣の男に賭けていくその他プレーヤーたち
それぞれに賭けられていくのを見て……そう言えば、俺武器もこの街で買うんだよなぁ―金、いるよな
ゲームの初手で装備とともに持たされる初期アイテム。有難いことに、速攻最初の村を出た俺は全額残っている。
日本円と同じ数え方でイェール…Yが単位ってのは、日本の技術者のやっつけ仕事感満載だが…分かりやすいのでまあ別にいいわ
盛り上がる舞台へ近づき、声を掛けて参加を表明。さて、"お仕事"だぜ?
「賭け参加希望、【イズミ】に5000Yで頼むわ」
輪の外から掛けられた声におっと少し驚きがあり、けれどそれなりの額にまた盛り上がりが続く。
その盛り上がりの中心、舞台の上に目をやれば…冷や汗をかく男が1人。おいコラどういう反応だ
「ふうー!イズミに5000Yだと!博打だねえ兄ちゃん!」
「ほらほら賭ける奴もういねえかあ!そろそろ始めんぞ!」
「あ、待ってください!」
プレーヤーとNPCの声が飛び交う中、ふと高い声が聞こえる。その声がしたほう…体格のいい男たちに埋もれていた小さな身体がひょっこりと隣に並んだ。
「せっかくだし私も賭けようかなぁ。同じく、イズミくんに1000Yでお願いします」
小柄な少女がそう言えば、またざわめきが大きくなる…このざわめきは賭け人が増えたことにか、それともこんな少女が参加することに、か。
その中でも1層顔色を変えるのは、賭けられた当の本人で。
そうビビるなよ、まさか"わざと負けようとしてたわけじゃあるまいし"
綺麗に笑顔を向ければ、隣でクスクスと小さく笑う声…見下ろした視線がパチリと合い、互いに思わず吹き出す。
ほんと、俺らって性格悪い
そんな笑顔を見て、目を泳がせ冷や汗をかき、口をパクパクさせてから肩を落とした男が諦めたように溜息をついてタガーを腰に直した。そう、それでいい。
「ふぅー…よっしゃあお前ら見とけよ!イズミ様の本気ってやつを見せてやんよ!全員破産しろや!」
「イズミ武器替えかー?大剣相手に勝てんのかー?」
「よっしゃやれやれー!ぶっ飛ばせー!」
観客に答えるように空中からタガーとは全く異なる武器が出てくる。男の身長を超える長さのそれをクルクルと見せるように回し堂々と掲げれば、大きくなる歓声と口笛
「イズミ槍とか持ってんのかよーいいじゃんいいじゃんやれー!」
「槍とかホントに使えんのかー?派手にやれよー?」
「槍vs大剣!さあさあどっちだ!」
ホントに酒呑んでるんじゃないかと疑いたくなる高いテンションで男たちが騒ぐ。良い盛り上がりだが…悪いな、こちとら金欠なんだ。荒稼ぎさせてくれや
「全員賭けたなー?んじゃあ始めんぞー!」
ヒューと甲高い口笛とともに舞台の上の2人が向き合う。遊びの一環だからか双方パフォーマンスじみた動きで手を掲げて…けど、僅かにこちらにやる視線は緊張が入り交じる。ほら、さっさとやってこい
「ほんと、相変わらず性格悪いねぇ」
最前列から離れ店の壁にもたれて見守る体勢になった隣に、着いてきた小柄な少女がクスリと笑う。
「せっかくイズミくんが手を抜いて楽しんでたのに、酷いなぁクロナくんは」
「そういうお前も結局乗っただろ、なぁ…アカネ」
そう言って視線をやる。他のゲームでも見慣れた夕焼け色のタレ目と、クリーム色のリボンで飾られた三つ編みツイン。そして赤系統を多く取り入れたニットっぽい萌え袖の服と足首まで届くスカート…服に興味のない俺でも分かる、RPGに並ぶ服じゃねえだろ普通…
「このゲームは服まで多種多様なのか?まさかそれ防具じゃねえよな?」
「違うよ、防具屋とは別に服屋もある…って、他の町では見てないの?このゲームほんとに色んなお店があるよ?」
「へぇ…」
「びっくりするくらい興味無さそうだねぇ」
そりゃそう、と視線を賭けに戻せば、今まさに勝負が始まろうとしていた。
「んじゃ行くぞ?バトル…スタートだ!」
NPCがコインを投げる。クルクルと回転したそれが地面に落ち―瞬間、響く金属音。横薙ぎ槍が両手剣に止められ、剣を握る腕が足で蹴り上げられる。流れるように槍が回転し、柄が相手の顔面を狙う。それを間一髪で避けた次に飛んでくるのは地面に突き刺した槍で体勢を変えた鋭い蹴り
「おぉ凄い、さっきの避けたよ相手の人!」
「あぁ凄い凄い。それでアカネ、今どこまで進んでる?」
「もう…クロナくんが割り込んだんだからもうちょっと興味持ってあげたらいいのに」
「勝敗わかってるゲームに興味とか沸かねえんだよ」
ガンッと弾く音とともに大剣が男の手から落ち、その首元に槍が突き付けられる。一瞬静まった歓声は、力なく横に振られた首と空中に浮かぶ【イズミ WIN】の文字にまた沸き上がる。
「イズミの勝ちだ!すげえ!」
「今のまじかよすっご!何やったんだ!?」
「おいイズミー!どんな隠し玉だよー!」
歓声を尻目に手元の画面を開く。所持金の表記は、元々持っていたより倍近い…思ったより少ないな
「あんだけ盛り上がってた割に意外と金額賭けてないのか?」
「だってあれデイリーイベントだからねぇ、バトルも賭けもかるぅいノリでやってるよ」
「道理で…て、じゃあなんでアイツはこんな所で遊んでんだ?」
「情報収集のためっすよ!?」
割り込んで来た声に顔を上げる。あのテンション高い奴らから上手く抜け出せたのか
「遅えぞイズミ、賭け勝負に参加するならもっとレート高いとこ参加しろよ」
「お疲れ様イズミくん、邪魔しちゃってごめんね?」
「いや別にアカネちゃんが邪魔だったわけじゃ…ってクロナさん無茶言わないでくれません!?俺別に勝負したかったんじゃないんですって!」
うぎゃっと顰められた顔をスルーしてそれで?と話を促す。賭け勝負にバトル目的じゃないってことは…
「情報収集ね…クエストか?」
「そうと言えばそうだし違うと言えば違います。ってか分かってます?俺らはマシロさんから情報貰ってんですよ?
あんたのための、情報に決まってんじゃないですか」
「そうだよクロナくん、マイペース個人主義の私たちが待つのなんて1つしかないよ?」
溜息を吐きながら文句のように言うイズミの後ろで、うんうんと笑顔のアカネが頷く。
あぁなるほど、マジで情報知って速攻で来たのか。相も変わらずゲム廃暇人どもめ
つまりアレだろ、いつもの自由で傲慢な俺らの遊び方…
「おかえりですギルマス、ほらほら早く遊びましょうよ!」
「おかえりなさい、私たちのマスター。今回はどうやって遊ぶ?」
ようは―――さっさと暴れたい、だろ?
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