5.争奪奏装A:幹部:アミスタA

【ラウル山にてランクBのワイバーン討伐】


ただそれだけの、いつも通りのクエストのはずだった。




ギルドランク評価A―ギルド【争奪奏装】

Unlimitedの中でも古参、メンバーも100を超える大きなギルドで、ゲーム進行の最前線に身を置く本格派ギルドの1つ

それが私―プレーヤーランキングAにして争奪奏装の幹部、プレーヤーネーム【アミスタ】が所属しているギルドである


普段はゲーム最前線に身を置きゲーム攻略に四苦八苦し、時にクエストで材料を集めて装備を鍛える日々

いつもならギルドの常連メンバーとクエストに走るが、今日は少し違った



ギルドにはそれぞれルールがある。パーティ編成だったり取得アイテムだったりゲーム時間だったり…特に攻略系のギルドはかなり条件を付けている所が多い。実力がないと最前線じゃ足引っ張るだけだから当然と言えば当然

その中で争奪奏装は名前に似合わず手広く受け入れているほうだ。ゲーム初心者だってそれなりにいて、攻略以外にもやることが多くある。


その最もたるのが、新参者の訓練だ


数あるギルドの中でもトップクラスを争う争奪奏装は、それに比例して人数も多い。あらゆる状況に対応するためあらゆる人材を歓迎しているから当然ではある。あるのだが…


実力が…ゲームスキルが、足りない


これは、どこのギルドでもぶち当たる問題

レベルの概念がないこの世界ではレベ上げで鍛えられない。だから足りない実力は自分たちで戦って身に付けなければいけないのだが…実力が足りない者たちだけでは、ゲーム慣れしたトップランカーたちには追いつかない。


だから時々、上位ランカーたちが下位を率いてバトルの方法を教える…争奪奏装だけではなくどこのギルドでもやってることだ。


そして今日は、アミスタがその講師の日

今日行くのはクエストランクB

振り当てられたメンバーとの何度目かの修行で、それなりに慣れてきたメンツとBランクエリアでBランクのモンスターを狩る、大して難しくないはずのクエスト…その、はずだった



「はーいワイバーン討伐確認!お疲れ様ー!凄いよみんな、1体だけのつもりだったのに2体もいけちゃった!」


「いやーアミスタさんの教えが上手いからですって!それに2体目の引き付けはほとんどアミスタさんがやってくれましたしね〜」


「っていうか2体目はさすがにゾッとした…聞いてないっての死ぬかと思ったぞ!?」


「まあワイバーンは群れ行動もするしおかしくはないけどなぁ〜一撃目でアミスタさんが止めてくれなかったら全滅だったわ」


「そんなことないですよ!1体目がみんなだけでやれて、私の手助けいらなかったからこそですもん!Bのクエストならもうみんなだけでいけるかな?」


「また群れで来なきゃ、ですね〜」



軽口を叩きながらも警戒は怠らない。レベル概念がない以上"なにか"が起きた時に安全な保証など1つもないから。



「じゃあドロップアイテムも回収出来たし町に戻りましょうか。その後時間ありそうなら残れるメンバーで別クエスト行きましょう!」


「りょーかーい…ってあれ?なんだこれ…」



各々が装備を回復したり武器を収める中、魔法主体…特にサポート系統に固めている男が動きを止めた。

自分の魔法書を開き首を捻る男に…なにか、嫌な予感がする



「どうしたー?なんかあったかー?」


「ワイバーンもう1体とか言われたらキツいんだけど…」


「いやもう1体っていうか…なんだバグか?索敵の魔法書が使えねえんだけど」


「っ!?」



―マズイ


本能で武器の大剣を顕現させる…と同時に、響く轟音


グゥォォオオオオオ!!!


上空に影がかかる

…ああ、いつだ…いつからいたんだ…



「な、なんだよあれ…なんであんなんがここにいんだよ…


Sランクドラゴンだっ…!」



視界を埋める漆黒の巨体と、そこに表示される名前に自分の呼吸が浅くなる


落ち着け…落ち着け私…



「みんな聞いて。今の私たちにコレは無理!退避します!慌てず冷静に対処して」


「対処って…こんなに出来るわけないだろっ!」



あぁ、ダメだ…これ、ダメなやつだ…

パニックが広がって思考が暴れてる。どうやったら逃げれるのかもみんな分からなくなってる。

恐怖が、纏わりつく…


神ゲーとも称されるUnlimitedには1つだけ、他にはない致命的な脆さがある。それを面白いととるか恐ろしいととるかは人それぞれだが…これをゲームだと割り切れるかどうかが、トップランカーと呼べるかどうかの違い


そして…今一緒に来てるメンバーは、まだ"できない"者たちだ



「無理無理こんなの無理…こんなの、ほんとに死ぬじゃんっ…!」



数値表記のないUnlimitedは、"デス判定"がリアルすぎる

HPという概念がなく、耐久というステータスもない。つまりデス判定は、リアルに近しい判定がなされる

それこそ…首が吹っ飛ぶとかそういう"ガチ"なのが、このゲームのデス判定になるのだ


そんなの、そう簡単に慣れるわけがない!



「みんな!とにかく盾系の装備で急所守って退る!私が引きつけるからテレポートアイテムで避難して!」



デスについてこれ以上考えさせちゃダメ。とにかく指示を飛ばしてとにかく身体を動かさせて、考える暇をなくす。みんなが逃げてしまえば私1人なら退避も…



「っアミスタさん!」



1振り

たった1振り、地面を撫でるように尾が薙ぎ払われた。

咄嗟に構えた大剣と、薙ぎ払われた方に飛んだことでダメージは低いが…勢いのまま身体が吹っ飛ばされる。



「っ…!」


「ぁ…やっぱり無理だ…こんなの相手に逃げるなんて、絶対無理だ…」


「無理無理無理まじでこんなの無理だって聞いてないって」


「逃げろ!退避だ退避ー!」


「とにかく離れろ!近いだけでヘイト買うぞ!」


「なんでSランクが降りて来てんだよ!クエストじゃねえじゃんかあああ」



っぁあ、おっもい…

私が弾き飛ばされたせいでパニックがまた広がる。でも、むしろこれでいい。パニック過ぎてとりあえず逃げようとしてるなら、あとは時間さえ稼げばいい。

こんなのからデスを喰らえばみんながトラウマになっちゃうかもしれない。今は、みんなを逃がすことだけ考えて…


再度剣を構える。倒さなくていい、無理しなくていい。ヘイト稼いで時間を稼ぐ…こっちだってAランクランカーだ、Sランクに怯んでられるかっ……



「あぁこういうの待ってたんだよこういうの…おたくら、バトらねえならさっさと逃げな。じゃねえと巻き込まれんぜ」



パーティメンバーのパニック声とドラゴンの遠吠えの中、"それ"は現れた


1目で分かる低ランク装備と低ランク武器けれどランクの低さを感じさせない悠々とした態度が、頭上の木の上から飛び降りる。



「さて、と…俺と一緒に遊ぼうぜドラゴン…いや、【ドゥルケート】!」

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