4.「面白いモンみーつけた♪」
【クライムクラウン】というゲームがあった。
名前の通りビルや崖を登り競い合うフルダイブ型アクションゲームである。
登る時の緊張感と落ちた時の浮遊感、リアルでは決して味わえないスリル…そして他プレーヤーとの蹴落とし合いがこのゲームの最大の魅力であった。
そんなゲームの世界ランキング上位者は考える。どうすれば早く登れる?どうすれば蹴落とされずにすむ?どうすれば蹴落とせる?
その試行錯誤の中で壁の二段蹴という選択肢が生まれたのはごく自然な流れだろう。
当然、トップランカーだったクロナも二段蹴を習得した1人である。
「つまり…俺が壁蹴の動きを覚えていたから同じ動きができた…ってことか?他のゲームじゃステータス補助やスキル補助でやってたけど、数値評価がない以上"その動き"を再現すれば…いや難しくね?ってか意味不じゃね?」
自分で言っててよく分からん。けど"動きの再現"が出来ればスキルのような動きが出来る…んだと思う。
「分析解析は俺の仕事じゃねえっての…なんだこのややこしいのかややこしくないのかよく分からねえシステムは。
ようはアレだろ、"自分"を思い通りに動かすゲームスキルがあればいくらでもぶっ飛べるってことだろ、もうそういうことでいいわ」
俺はさっきの二段飛びをステータス補助のことを忘れてやった。それは俺の身体と脳が"出来る"と感じたから。ならもうそれでいい!
「リアルじゃ考えてることを実際に行うのは難しいけど、ゲームの中じゃゲームスキルさえあれば思った通りに身体を動かせる。その最終極地まで突き詰めたのがこのゲーム。おk理解」
理解した。ああ理解したとも
「つまり……さっきのスライムは俺にビビって逃げたってことだろっ…!」
他のゲームで剣聖や剣豪、武闘家やら色んな職業をやってきた俺だ。その俺の身体に染み付いた、ゲームの中でのみ出来る剣の扱い・構え方にスライムはビビった―"威嚇"されたのだ、俺に。
―そういう事にしとこう!
実際に合ってるかどうかなんざ最早どうでもいい。俺の中で納得出来る結論が出て、それでゲームが楽しめるならもうそれで十分!
切り替えろ、どんなゲームにも順応に万能であれ
身体に染み付いたゲームスキルは動かせる…壁蹴に2段ジャンプ…空中飛びは宙に足を固定させれないからさすがに無理…いやそのうち魔法使えれば出来るか。ってか魔法があれば結構色んなスキルを再現できる…さっきの町に魔法のマジックブック買いに戻るか?いや面倒だしそっちは後回しでまずは戦闘と王都…そこまで行きゃアイテムの数多いだろうし情報あるだろうしうちの奴らにも会える、うん最優先
「戦闘で身体動かしながら王都に向かう、ゲームシステムに慣れる、能力を把握する…以上!逃げ出す奴らは全無視でいいだろ、俺に気圧されてるんだし」
さあ仕切り直して行こう―
ゲームで鍛えられた俺の動体視力と、素早さと身軽さに全振りした時に身に付いたアクロバットなら、この林程度は余裕っ!
枝を蹴る。枝から枝へと走るように飛び移る。細い枝や葉っぱは避けて太いモノから次へ。枝に乗れなければ幹を蹴り、上下左右を縦横無尽に駆け巡る…手で枝を持つと擦り切れたのであんまり使いたくない…王都に着いたら手袋買お
蹴って蹴って蹴って…気が付けば林だった木々が随分と深くなっている。マップ見てなかったけど森に入ったか。
「ランクDの森ね…Eのスライムには結局全員逃げられたけど、ここなら戦える敵はいますかねーっと」
結論:全員逃げられた
あぁそんな気はしてたよ…なんかそんな気はしてたけどなっ!ちゃんっと全員俺を見た瞬間逃げやがって…特殊表記のないノーマルなゴブリンとかコボルトとか、猿か兎か分からねえモンキーラビットとか…っつーかモンキーラビットってなんだよ!長い耳と器用な手足を持って木の間を飛び跳ねる猿と兎の混ざり物みたいなモンスターでしたが?製作者モンスター作り下手か!?
つーかまじで敵と戦えねえ…いや遭遇はすんだよ、遭遇するけど片っ端から逃げられてる
…確かに思ったことはある。新しいゲーム始めたての時とか、勝てるんだけどポイントや経験値足りなくて進めないのめんどくせえとか思ったことは確かにあるんだよ。それを飛ばせるなら楽でいいじゃんとか思わねえわけでもねえよ?
でも限度ってもんがあるくね?うちの奴らとかプロゲーマーたちもみんなこんなんなのか?俺マジで1戦もしてないんだが?
「DでこれならCもあんまり期待出来ねえか?遊ぶならやっぱBか…これほんとに神ゲーか?極めすぎた結構ただのクソゲーじゃねえだろうな」
足を進めながらもぶつぶつとぼやいてはいるが、別にゲームに不満があるわけじゃない。いや不満があるのか?でもこの程度で文句などない。まあシステムとかステータスとかやっやこしいなと思わなくもないが…こちとら生粋のゲーマーだ。わけわかんねえのもややこしいのも全部引っ括めて遊び尽くすのが生き甲斐の人間だ。分からんことは雰囲気で掴むし、システムや設定が狂っててもそういう予測不能が楽しいから別にステータスどうこうはいいんだよ。
ただ、不満はないがストレスはある。
―そろそろ戦わせろやっ!
生粋のゲーマーだし何でも楽しむけどなっ!けどこちとらRPGやらMMOやら蹂躙闊歩してなんぼの楽しみ方してんだよ!
バトルがしてえんだよっ!
溜まるストレスを振り払うように強く木々を蹴れば、ずっと森だった視界がようやく開ける。
ゲーム開始から3時間。ほぼ移動のみでまともにゲームもせずにようやく辿り着いた―ランクB【ラウル山】
これを超えれば王都だがそんなことより…ランク、B
ここでなら、楽しめるはず…ってか楽しませろ
え、ランクCの森の成果?CのホーンラビットとDの色付きスライムに逃げられましたが?ホーンラビットに関しては草むらから不意打ちで飛び出して来たかと思ったら俺を見た瞬間急ブレーキ掛けて逃げ去りやがったよこんちくしょう…逃げるなら来んな!ちょっと期待したじゃねえか
ひとしきり脳内で喚いてストレスを追い払う。思考リセットOK
明らかに地形の変わる山に心躍らせて―
ドオオオオオオオン
地面が震えた。振動の大きさからして結構近い。多分…少し先の、崖の下
マップで地形を確認して走り出す。何があるか分からない、けどナニカある。ならば、行く。
山の麓から森に入る間の荒野。その崖の上からそっと下を覗き込む。
「無理無理無理まじでこんなの無理だって聞いてないって」
「逃げろ!退避だ退避ー!」
「とにかく離れろ!近いだけでヘイト買うぞ!」
「なんでSランクが降りて来てんだよ!クエストじゃねえじゃんかあああ」
音の先では慌てふためく声と、散り散りになる人間…上にネームが見えるのでプレーヤーらしい
彼らと相対してるのは…巨体な影
抑えた思考が、弾ける
「面白いモンみーつけた♪」
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