3「……はあ!?」
暗闇の世界の中
足元からタイルが生まれて地面が広がる。開けていく闇が大地を、空を、町を、世界を作り上げる。
【始まりの街:ザラン】
その表記とともに、俺の身体はトンと地面に足をつけた。
「…もう1つの現実って聞いてたからリアルな街並みかもとか思ったけど…さすがにこの辺はファンタジー色強めか」
まず初っ端からそんなことを思う。…いやこういう街並みがゲームの中では普通なんだけども。いやでも武器に銃があったしファンタジー色…まあいいか
ゲーム把握に町の中を歩く。モンスター対策か柵に囲まれた小さな町を回るのはそう時間も掛からない。
始まりの町というだけあっているのは俺と同じくほぼ初期装備なプレーヤーたちと、恐らくその友達であろうプレーヤー、そしてNPC
あとは小さめの家…看板からしてアレは薬草屋、アレは道具屋、アレは武器屋、アレは宿屋…あとはNPCの家か?
そして、もう1つ出てる看板が……【冒険協会】
このゲーム、リアルを追求したせいか知らんが…チュートリアルがないらしいマジかよおい。確かに現実にはチュートリアルなんてものはないけどそこを再現する必要性ってない気がするんだけどな…
その代わり基本どの町にもあるのが、この協会ってわけだ。受付嬢に聞けばゲームの進め方、この世界での生き方を教えてくれるんだろう。CMで見た感じは。
簡易クエストを受け取ったり情報を探したりするのにも多分使える。CMで見た感じは。
でもまあ、今はそんなことどうでもいい
片手で開いたマップ画面を確認して進行先を変える。大事なのは―ゲームの面白さ
開いたマップの中心は現在地であるザラン、その隣には"F"の文字
このゲームにはレベル表記がない。そしてバトル用のスキル補助もない―故に、このゲームには危険度表記を含めたランク付けがある。素材や装備品、敵を全部表記無しはさすがにただのクソゲーになるしな
ランクは7段階
このザランを筆頭に価値やレベルが1番低いFから始まり、E,D,C,B,A,Sの順に上がっていく。
もちろんあくまで基準にしかならないし武器やバトルスタイルとの相性もあるが基本はこのランクを考慮しながら、所謂レベ上げ的な進み方をするのだ…基本は。
「ここから普通に進んでもつまらねえし…どうせなら王都まで突っ切るか、途中Bランク地帯あって面白そうだし。そこまで軽く準備運動したらその先考えるっと。王都の方向は…こっちまっすぐ、だな」
装備?経験?知ったことか
セーブポイント?メインストーリー?んなもん後回し
このゲームが本当にゲームスキル第一優先なら、レベルもスキル補助もないのなら…俺個人の実力で、無茶なルートに行けるはずだ。危険度ランクもガン無視できるはずだ。
今までのゲームの、レベルを上げなきゃ通れない壁を、このゲームはぶち壊してるはずだ。
「さーて、このフリーダム世界で俺のゲームスキルはどこまで通用すっかね」
プレーヤーたちが色々な建物に入っていくのを尻目に俺の足は町の門へ。結局どこにも寄らなくてマジすみませんね制作陣、恐らく色々組まれてるであろうギミックやら設定ぶっ飛ばしちゃいますわ…こちとらあんまり細々した設定やらシステムやら得意じゃねえもんで。けど…
「その分ゲーム自体は楽しませていただくのでお許しをっと!」
門を出てそのままくるりと方向転換
林に近いこの木々の道は、みんなと同じように道沿いに進んで行けば開けた草原。そこはきっと、ゲーム初心者が初バトルを体験するのにちょうどいい感じだろう、知らんけど。
その道から外れ俺は1人林の中へ。この林をまっすぐ抜ければ、そこから先はランクDの森が待っている。
「俺の冒険一発目、どんな輩が出てくるか…始めるぞ」
ガサリと揺れた草むらに口角を上げて装備の片手剣を現出させる。さあ、さあっ…さあ!
「来いっ―――!」
1歩―
向き合った状態で1歩踏み出す。さあ始めよう、さあ試そう、さあ戦おう…さあ、遊ぼう!
「ピ、ピィイイイイ!!!」
「………は?」
草むらから出てきたのは水色の軟体。液体と固体の中間を取ったような、RPGを好む者からすれば見慣れたソレ―【スライム:E】の文字がソレの頭上に現れたソレに剣を振り抜こうとして…
キュイだかピュイだかプゥだか鳴き声のような…泣き声のようななにかを発したソレは一目散に俺から逃げ出した―――――は?
「………はあ!?」
昂っていた熱が一瞬で冷めて、また別の熱が沸騰してくる。
なんだ…なんでだっ!?
この世界はレベルもスキルもない。だからレベル差による戦闘回避も威嚇スキルによる特攻も出来ない。てか万が一出来たとしても俺は数分前にゲームを始めたばっかの初心者!敵初遭遇!レベル1!
なのになんで敵が逃げた!?
脳内で喚きながらも思考は冷静。苛立ちと同じくらい踊る心が思考を回す。
ゲームで計算外が生まれた。ならいつも通り順応して楽しむだけ
「敵モンスターが逃げ出す"ナニカ"があったのか起きたのか…上等だ、試してやるよ」
俺の楽しみを初っ端からコケさせた罪は重いぞ
止まってたところで考えられる要素は少ない。なら最優先は動くこと
手放した片手剣が空気に溶けて収納されるのと同時に、俺は目の前の木へとダッシュする。
木の高さは大体10m、俺の体重を支えれる枝までは約5m
ジャンプして届く高さでもなく、リアルでこの木を登ろうとしたら服はボロボロ手は傷だらけで最終的に土台を持ってこなくてはいけないだろう
だが、ここはゲームの中!リアルの運動神経などあってないようなもの!
地面を蹴りそのままの勢いで榦に足を着く。そこから榦の僅かな凸凹を踏み台に別の木へジャンプ。同じようにもう一度、幹からジャンプした身体は容易く枝の上へと着地する。
これぞゲームの醍醐味!これぞ正しく別世界!リアルとゲームの境を曖昧にするフルダイブゲームの真髄!紙装甲紙スキルの身軽さの利点!って………待てよ?
「今の…ステータス補助なしでアクロバットができた、のか…?」
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