68杯目:違和感
ドア越しの声に、一瞬シトラスかと思ったけど声の質が違う。シトラスよりもっと高く妖艶な声だった。
ナイジェルは「この声。どこかで聞いたことがある様な……」と思案しているが、思い出せないらしい。私もどこかで聞いたことがある気がする。
「私ですよ。ミント・ヴェルディグリーンです。入っても良いですか?」
誰だっけ? と思ったけど、鼻につくその上から目線な声が私の記憶を呼び戻した。そうだ。クロノスの左目を持つフェクシオン教団のミントだ。
「ミント? 魔法研究所のミントか?」
「そうです。ナイジェルさん、お久しぶりです」
……魔法研究所? そういえば、ナイジェルは魔法研究所の人にアーティファクト《存在のペンダント》を貰ったと言っていた。よく考えたら
「ルルシアンも顔見知りか、なら話は早いな。彼は信頼出来る人間だ。開けるぞ」
「え、待って!」
私は思わずナイジェルの手を掴んで止めた。
クロリアがフェクシオン教団にミントなんて人はいなかったって言ってた気がするし、ぶっちゃけベゴニアを攫った犯人の可能性もある。安易に信用したくない。
私のその想いに感付いたのか、ミントはやや早口で捲し立てた。
「あぁもしかして、なぜ私がここに来たか不審に思っておいでですか? 見えたのですよ。私とルルシアンさん。そしてナイジェルさんと共に、ロベリアの館に侵入する未来が」
「?? 未来が、見えた……?」
「はい。ナイジェルさんには言ってませんでしたが、私は神話の中に登場するクロノス神の左目を持っています。その力で、ある程度の未来が見えるのですよ」
「未来が見える、だと? そんなバカな……」
ナイジェルが否定するのも無理はない。クロノスが実在するなんて誰も思ってないし……。まぁ一部の権力者の間では公然の事実みたいだけど。
でも、以前聞いた時はミントと私が二人でロベリアの館に侵入する未来が見えたけど、それがいつなのかはわからないって話だった。そこにナイジェルの名前はなかったはずだ。未来が変わったってこと?
さてどうしようかなと悩んでいると、ナイジェルが私に疑問を投げかけた。
「……ルルシアン。もしかしてお前は、ミントが未来を見れることを知っていたんじゃないか?」
「え?」
私が驚かない様子を見てナイジェルはそう判断したらしい。まぁそうだよね。普通はえー! って驚くべきだったよね。失敗。
「まぁ、知ってたけど……」
「なら未来が見れるのは本当か……。もし彼が本当に未来を見れるなら、ベゴニアの行方がわかるってことじゃないのか? 何を迷っている」
「うーん」
どうしよう。確かに、ミントの持つクロノスの左目の力を使えば事態が進展する可能性は高い。高いけど、はたして信用していいものか……。
「ああ、ベゴニアさんの話ですか? お二人がここに来るのはわかっていましたので、ベゴニアさんの愛用品なら私が敵に奪われる前に確保してありますよ」
「……?!」
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