59杯目:雷の狂戦士

 空腹の狂戦士ハングリー・バーサーカー


 お腹の減り具合により、身体能力を上乗せしてくれる強化型スキル。

 使用には自身の魔力(存在力)を使い、使い切れば当然身体能力の上乗せは無くなる。


 つまり存在力さえ補充すれば、いくらでも戦える。


『バカな! 無茶だ!』


 ダリアの放った雷神ノ神槍デヴァイン・ボルグが迫る中、ミストが叫んだ。

 

『放たれた魔法から存在力を吸収するなど不可能だ! ルルシアン! 避けろ!』


 でも、クロノスは言った。


『力が漲るような食べ物ならあったじゃないか』


 この場で一番力を持っているモノはこれしかない。


 それになんか、あの雷槍は食べれる気がする。


 私は……。自分の食欲を信じる!!


「あーーーーーーーーむ!」


 バチバチ!! と激しく放電する極太の雷槍が、私の口の中に飛び込んだ。


「あばばばばばばばば!!!」


 しーーびーーれーーるぅぅうー!

 口の中を雷が暴れ回っている!

 こないだベゴニアに勧められて飲んだ炭酸ジュースを、何億倍も激しくしたような爆発が、私の口の中で起こっている。


「もごごもごご! んんんん!!」


 でも……。ダリアの放った魔法は私の口の中で暴れるだけで、私にダメージを与えているわけじゃない。口の中で行き場を探している。だったら飲み込むだけ!


「ごっっっっくん!」


 バチ、バチ……。バチバチバチッ!!

 飲み込んだ雷槍が、放電しながら喉を通り胃の中へ……。

 その瞬間。私の全身がバチバチと雷を帯び、黄色いオーラを纏って輝き出した。


「おぉおおお?!」


 すごい! 力が漲る! お腹は空いてるけど、空腹の狂戦士ハングリー・バーサーカーがダリアと戦う前の状態に……。いや、それ以上の力を持ってると実感出来る。


 まさに、スーパールルシアンの誕生だった。


「ば、バカな……。我の魔法を喰らってパワーアップしただと?! なんだこいつは、人間なのか?!」


「ガァウルゥゥル!!」


 異変を察知したクラルテ・ウルフが、一足飛びに私に向かって牙を突き出した。


「さーて、どれくらいパワーアップしたか試してみよーか、なッ!」


 前方に軽く飛んだつもりが、私は黄色い閃光となってクラルテ・ウルフを追い越してしまった。


「わ! なにこれ! すご! めっちゃ速い!」


 今の私はダリアの使った回避魔法並みの速度を、常時発動出来ている。まるで自分が雷にでもなったかのような感覚だ。


『ありえん……。敵弾吸収など不可能だ!』


「でも出来てるんだもん! さて、三匹目が来るから、ちゃっちゃと倒すよ!」


『三匹目だと?! まさかまたクロノ……!』


 ミストが言い終わるよりも速く。私は右手に力を溜めながらクラルテ・ウルフへ飛んだ。


「行くよ! ルル・インパクトッ!」


 放たれたパンチは、まるでゴロォォオン! と、落雷のような轟音を伴いながらクラルテ・ウルフの上半身を一瞬で消滅させた。


「一撃だと……! なんという威力だ……」


「わお。めちゃ強いね」


「グルルル……」


 私の戦いを見てか、ダリアと対峙していたクラルテ・ウルフが逃げるのか、訓練場の端で透明化を始めた。


「逃がさないよ」

 

 雷速移動と雷撃パンチ。この二つを使った事で私は新しい技を思いついた。

 この黄色いオーラは機動力に優れている。ならば普通にパンチするより突進技の方が相性が良いはずだ。全身を拳に変える。そんなイメージ。

 私は全身を黄色いオーラで包むと、クラルテ・ウルフへと飛んだ。


「行くよ! ルル・エクレール!」


 ゴロゴロォ……。バシュン! バリバリッ!

 雷速となった私から逃れる術はない。

 雷鳴を響かせながら雷と化した私は、半分ほど透明化した二匹目のクラルテ・ウルフも焼き貫いた。


 あ、ちなみにエクレールはクロリアの作ってくれたお菓子、エクレアから命名した。

 なんでも稲妻の如くクリームが飛び出るから素早く食べなきゃいけないとか。


 後はこの後襲ってくる三匹目! と意気込んだ時だった。


 プシュン……。


「あら? あれ?」


 私の身体から放電がチリチリと消え、黄色いオーラが徐々に消えていく。


「あ……。やば、限界かも……」


 存在力の枯渇だ。今の二発で、取り込んだ雷槍の存在力を使い切ってしまった。

 急激に私の身体は重くなり、徐々に空腹感が増して眩暈と共に、私はその場に倒れ込んでしまった。


「うぅ」


『ルルシアン! チッ! 限界か!』


 三匹目が来る……。これだけは伝えないと……。

 私が必死に頭上へ視線を向けると、私が伝えたいことを察知してくれたのか、胸元のミストが叫んだ。


『ダリア! 三匹目が上から来るぞ! 備えろ!』


 え、喋っちゃっていいの?!

 地面にへばりつく私は、なんとか視線だけでも上げると、ダリアが空に向かって極太の雷槍を構えていた。


「そこか! 雷神ノ神槍デヴァイン・ボルグッ!」

 

 ゴロゴロ……。バリバリバリバリッ! と激しい雷鳴を轟かせながら、透明化しているクラルテ・ウルフを雷槍が貫いた。


「ギャゥワウウウ!」


 雷槍に貫かれて透明化が解除されたクラルテ・ウルフは、焼けた良い匂いと共に空から落ちて絶命した。


 やっぱり、ダリアは強いなぁ。私と戦った後に、あんな大技を二発も打てるなんて……。


 あー、ダメだ。本当にお腹空いた……。

 意識が遠のいていく……。

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