55杯目:ダリアのスキル
「うぐっ……」
なに、これ……。身体が痺れてる?! 視界の端で私の身体にピリピリと放電が見えた。
「予想外の速度だったが、頭の程度の低さと相まってか。そのような直線的な攻撃では、至極読みやすい」
背後からダリアの声が聞こえる。
やーばい! 身体中が痺れて動けない。けど、少し麻痺が弱まったのか、左手が力無く垂れて私のふくらはぎに触れた。
「戻れ……!」
左手から青白い光が流れて足の
「はぁはぁ、びっくりしたぁ」
「む? もう麻痺が解けただと? そんなに弱くしたつもりはないのだが……」
肺まで麻痺させられるから息が出来なくて死ぬかと思った……。やっぱり麻痺系のスキルなのね。危なかったぁ。
「自ら離れるとは好都合」
「あ! 待って待って!」
「待たぬ……! 貫け。
バチバチと迸るダリアの剣からは、私目掛けて雷の槍が放たれた。とっさに右へ飛んで雷の槍を回避。私のいた場所は爆音と共に砂埃が舞った。
「もー誰よ! ダリアは強化型スキルって言ったの!」
『それはお前だろう。奴は雷系の魔法使いだったか』
あの
「考える暇など与えん!
「ひぃいい!」
ダリアから放たれる雷の槍の前に、私は右へ左へと避けるしか術がない。
さっき私がクロノスの左手で麻痺を解除した事で、ダリアの警戒心が上がってしまったらしい。
「いつまでも逃げれると思うなよ。
「またきた!」
最悪の構図だ。放出型スキル相手に距離を取ってしまっている。このままだと
ぎゅるるるるるる……。
動かされてるせいで、お腹が空いててそもそも体力がやばい。私のスキルは、爆発的な力を生む反面。効果時間が恐ろしく短い。空腹で気を失ってしまいそうだ。
現時点で、ダリアは私の天敵と言っていい相手だった。
「どうした? 威勢が良かったのは最初だけか?」
あれだけ雷の槍を放ったのに、ダリアには疲れが見えない。もう私に残されてる時間も多くはない。
もー! 一瞬で飛んで来る雷の槍にどう対処すればいいのよー!
いや、待てよ? 一瞬で飛んでくる?
そうか! あの手が使える!
ぎゅるるるるるるるる!
お腹が鳴り私の足に赤いオーラが集まると、爆発的な推進力を得て私はダリアに向かって走った。
「ふん。考えなしの特攻か。望み通り貫いてくれる!
私に対して一直線に放たれた雷の槍。
私は走りながら青白く光る左手を前方に伸ばした。
「
パシンッ!
読み通りだった。
雷の槍は私の左手に触れた瞬間。
雷の槍は時間が戻り、発生する前の時間に戻り消えた。
「な!」
私以外に能力を使った代償で一瞬意思がブラックアウトするけど、一秒未満だ。
ダリアから放たれた雷の槍は速い。速いが故に発生から間もないため、私も意識消失も極短い時間で済んでいる。
「バカな! 我の魔法を掻き消しただと?! 何かの間違いだ! 散れ!
パシンッ!
何度やっても無意味。
それはダリアが一番よく理解したと思う。
「くっ!」
これが砲弾みたいな物理的な攻撃だったら、いくらクロノスの左手といえど防げない。
それは、落下中の人を落下前の状態に戻しても落下することは変わらないのと同じで、飛んできた砲弾を防ぐことは出来ないと思う。
だけどいま飛んできているのは、生成されたばかりの雷の槍だ。数瞬前にはこの世に存在していない。
「もーらったぁぁああー!」
私が左手を盾にダリアへ突進。
ダリアへ急接近!
右手からルル・インパクトを放とうとした瞬間だった。
!!
またダリアが視界から消えた。
最初と同じだ。あれだけ重そうな鎧を身に纏い、受けを基本とした戦闘スタイルなのに、受けに回った瞬間消える。
ただ、同じ手は二度喰らわないよ。私の右手は囮だ。
すぐにその場から離れるため、私は地面を力強く蹴って上空へ跳躍。
バリバリバリ!
寸でのところで私のいた場所に電撃が放たれた。
「やっぱり私の背後に一瞬で移動してる……!」
上から見るとよくわかる。
私の目の前から消えたダリアは、消えてなかった。私が攻撃の瞬間を狙って、一瞬で私の真後ろに移動。雷の槍を放っていた。
「バカな! 消えた?!」
自らの電撃魔法で私が上に飛んだのを見逃したダリアは、消えた私の探して辺りを見回し、視線を上げたがもうその時には遅い。
「上だと?! くっ!」
「全力で行くよ! ルル・インパクトッぉおお!!」
ドゴーーーーーーン!!
全力パンチで落下した私の拳が、爆音と地響きを伴いながら訓練所の地面に巨大な穴を開けた。
「痛たたた……。ぺっぺっ! 砂! ペッ!」
口の中がジャリジャリする。
ルル・インパクトを叩きつけた後、姿勢制御を考えてなかったせいで顔面着地してしまった。
顔を上げると白煙で視界が遮られている。
「ふぅ、流石に倒したかな? お腹ペコペコだよ」
もしダリアがあの回避術? で避けていたら、今が一番危ない。私は周囲を警戒していつでも回避出来るように身構える……。けど時間切れなのか、足に赤いオーラが全然集まらない。
その時、ガシャン! と白煙の中でダリアの鎧が落ちた音がした。
「くっ。なんて威力だ。まさか我の鎧を破壊するとは……」
風で白煙が流れると、左半身がズタボロのダリアが片膝を着いていた。鎧は左肩から腕までが激しく壊れ、血塗れの左手は折れたのか、だらりと垂れ下がっている。
「ひぇー。あれを良く避けたね。ま、まぁお互い限界みたいだし、ここらで引き分けってこと……」
「ふ、誰が限界だと? ルルシアン。その様子を見る限り、お前のスキルは打ち止めのようだな」
ダリアは右手で落ちていた剣を拾うと、ゆっくりと私に切先を向けた。
ヤ、ヤバい。……。
もう
「どうやら我の勝ちのようだな。覚悟しろルルシアン」
私に狙いを定めたダリアの剣が、バチバチと雷を纏った。私に出来る事と言ったらクロノスの左手で魔法をかき消す事だけだ。私がスッと左手を上げた。
その瞬間だった。
ドン! という重い落下音と共に訓練所に大きな何かが落下。私達の近くに白煙が上がった。
「え? なに? なんか落ちた?」
「グルルゥ……」
その時、唸り声と共に白煙の中から
「グワゥ!!」
「くっ!
白煙を纏いながら飛んだ
これが私の攻撃を一瞬で避けた回避魔法か……。移動距離は限定的だけど、攻撃を避けて一瞬で背後を取るには最強の魔法だ。感心をしている私をよそに、ダリアはすぐさま反撃に出た。
「正体を現せ!
「ギャゥウウ!!」
透明化が解除されて姿を現したのは、私が倒したのと同じくらいの大きさの生体のクラルテ・ウルフだった。
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