54杯目:ダリア戦開幕
「わぁ、いろんな武器や防具が置いてあるね」
『好きに使って構わぬようだが、お前には不要だろう』
「そうだねぇ。今ある装備で十分かな」
詰め所へ入った後、私はクロリアと別れて一人、訓練所の控え室に通された。
控え室には色々な武具が置いてあったけど、剣や斧の使い方なんてわからない。ちなみにケチくさいことに食べ物は何も置いてない。
『勝算はあるのか?』
胸元のペンダントからミストが心配してくれる。
「そうだねぇ。ダリアは恐らく放出型ではなく強化型だと思うし。私も強化型だから、戦いは先手を取れるかにかかってくるかと思うんだよね」
強化型と放出型。この単語を聞いたのは、ベゴニアとルスソルラットを討伐に行く前。一緒にご飯を食べていた時だった――
「ねぇベゴニア。魔法使いって何?」
「魔法使いですか?」
むしゃむしゃとご飯を食べながら、暇そうにしているベゴニアに話を振ってみた。
「もぐもぐ。うん、ベゴニアは氷の魔法を使うでしょ? スキルとか魔法とかよくわからないから、教えてほしくて」
「ああ、説明しましょうか」
ギルドで冒険者と話していると《魔法使い》という単語がよく出るけど、詳細はよくわからない。
村ではスキルや魔法を使う人いたけど、ごく少数だったし、みんなよくわからないけど使えるから使ってた。
「先ほど話した存在力の話と似たようなものです。私たちの持つ存在力を行使する方法に、スキルがあります。これはわかりますか?」
「うーん、なんとなく……。ゲルフの使っていた多重・
「そうです。スキルというのは存在力を引き出すための能力だと思ってください」
私の
「実はですね。私の使う氷系魔法も厳密には魔法ではなくスキルなんです」
「ん? いやだって氷が飛んだりしてじゃん。あれはどう見ても魔法でしょ?」
「えっとですね。それを説明するには歴史について話さないといけないのですが……。まずは、スキルの種類について説明させてください」
歴史? よくわからないけど、とりあえずベゴニアの説明を聞いてみよう。私はサラダを貪りながら首を縦に振った。
「まずスキルには、強化型と放出型があります。ゲルフさんの自分に効果を及ぼすスキルを強化型と呼び、私の様に氷の雨を降らせたりするいわゆる魔法は、放出型スキルと呼びます」
自分を存在力で強化するから強化型。存在力を外に放つから放出型ってことかな?
「つまり、ベゴニアの氷系魔法って……」
「正確には、存在力を氷に変換して放つ放出型スキル《氷魔法》になります」
理屈はわかったけど、釈然としないよね。強化型スキルはスキルと呼び、放出型スキルは魔法と呼ぶ。
「なんで、そんなにややこしいことになってるの?」
その問いの答えをベゴニアは持っていたみたいで、ゆっくりと腕を組み直した。
「その昔、人類は圧倒的に放出型のスキルを持った人間が多かったのです。その頃の名残で放出型のスキルのことを『魔法』と呼んでいるのですよ」
なるほどねぇ。魔法使いってのは、放出型のスキルを持った人たちの古称ってことなんだ。一つ賢くなった!
「スキルの違いはわかったけど、つまり強化型と放出型を、同時に使うことは……」
「出来ませんね。基本的に生まれながら持つスキルは、一人につき一つです。故にどちらかしか使うことは出来ません。だからルルシアン神様みたいに、強化型スキルと回復系の放出型スキルを同時に使える方は本当に稀だと思われます」
本当は回復魔法じゃないんだけど、確かにそう言われると自分を強化出来て、回復も出来るっていうのはめちゃくちゃ強い気がする。
「ちなみに、これは最近の研究でわかってきたことなのですが、最近は強化型の人間の出産率が高くなっています」
ベゴニアが言うには、長年かけて放出型スキルの人間が生まれた結果。より強い遺伝子を残すために、放出型に強い強化型スキルを持った人間が増えているらしい。
「じゃあ強化型と放出型だと、強化型の方が強いの? 遠距離で攻撃されたら手も足も出ないと思うけど」
「ですので、その前に先手必勝で距離を詰めることをお勧めします。放出型はその特性故に近付かれると自分もダメージを受けてしまうので、接近されると何も出来ません」
「あーそうなんだ。確かに氷の雨に自分も当たっちゃうもんね」
「ええ、逆にルルシアン神様が強化型スキルの人と対時した場合、先に一撃を入れた方が勝つので勝負は一瞬で決まるでしょう――
ベゴニアから聞いた情報が今になって役に立ちそうだ。私としては相手がどっち型のスキルを持っていても、先手必勝しかない。
ぎゅるるるるるるるる……。
お腹がめちゃ減ってる今なら、私の方が攻撃力は高い。
既に私の身体中から赤いオーラが迸っている。
クラルテ・ウルフを倒すほどの威力に、碧いガントレットで攻撃力はさらに強化されてるから、最悪一撃でダリアを殺してしまう可能性だってある。
「力加減が難しいかも……」
やりすぎないのことを心配しつつ、私は控え室から訓練所に出ると、ダリアは剣を片手に待ち構えていた。
「逃げずに来たことだけは褒めてやろう」
訓練所はギルドの一階より広く、高い石塀で周囲が覆われていた。足場は動きやすそうな砂地だけど、あちこちに戦いの跡なのか折れた剣や焦げた跡が見て取れる。
訓練所の側には観覧席があり、八人ほどの騎士とクロリアが見守ってくれている。
「改めて説明しておくか……。依頼内容は我と真剣勝負一本。貴様が勝てば約束通り、金貨一万枚をやろう」
すっかり忘れてたけど報酬は破格の金貨一万枚。それがあれ、クロリアから借りてる諸々の借金は返済出来る。それはそれで嬉しいけど、今回はそれ以上に戦いの難しさがある。
「ねぇ、どうやって勝ち負けを決めるの? 降参した方が負け?」
「降参? 戦場でそのような言い分が通じるものか。死んだ方が負けだ。それ以外はない。貴様が降参しようが我は剣を緩めることはない。我の勝ちは貴様の死を意味する」
なんでそんなに死ぬまで戦いたいんだろ……。
仮にもダリアは王国所属の騎士であり、その代表だ。犯罪集団ではないし、ギルドと仲が悪くても冒険者相手にそこまでやる必要は無いはずだ。
何か戦わなきゃ行けない理由があるのかな……。
「わかった。それでいいよ」
ダリアをボコボコにして負けを認めさせて、依頼の真意を確認しよう。
「異論はないようだな? さぁ! かかってくるが良い!」
かかってくるが良い? 性格からして切り掛かってくるかと思ったけど、予想に反してダリアは剣を構え私が殴りに行くのを待ち始めた。
そうか……。騎士団の本質は守りにある。
モンスターから街を守る。市民を守る為に戦う。モンスターを探して倒したり、何かを追って戦うような冒険者とは基本的に戦い方が違うんだ。
騎士は街中でも戦いを想定して鎧を簡略化させてるってミストは言ってたけど、ダリアは違う。その鎧が示す通り、古来通りの騎士の戦闘スタイルなんだ。
「じゃあ、行くよ。本気で行くから死なないでね」
ぎゅるるるるるるる……!
お腹が鳴り、私の足に赤いオーラが集約されると、爆発的な推進力を得て私はダリア目掛けて高速で飛び出した。
「なっ!」
予想を上回る私の速度に、ダリアが驚愕の表情を浮かべるが、私は本気だ。跳躍しながら右手に赤いオーラを集める。
作戦は変わらない。先手必勝。
最悪ダリアが死にかけたら
「ルル・インパク……ッ!」
遠慮なしの私の全力がダリアに迫る中。
ダリアは不敵に笑い、私の視界から一瞬で消えた。
「え!」
どこに?! と振り向くより早く、身体中に痺れるような痛みが
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