53杯目:一触即発
「クロリア。ここは貴様のような反逆者が来て良い場所ではない」
クロリアを反逆者と切り捨てる高圧的な態度の騎士団長ダリア。
こんな人物でも、彼は正当な王位継承を持つ王子であり、ダリアに対する不敬は王族への反逆罪と取られてしまう。めんどくさい。
「まったく、なぜ父上はこのような者を生かすのか理解に苦しむ。視界に入れるのも鬱陶しい……。さっさと立ち去れ」
うへぇ、めちゃくちゃ仲悪いんじゃん……。さらっとクロリアに酷いこと言ってるし。帰れと言われるなら帰りたいけど、依頼受けちゃったからなぁ。
チラッとクロリアを見ると、クロリアは俯いて萎縮してしまっている。
――いいか? ダリア以外の騎士団がいる場合、お前が一人で喋るんだ
ふと、先ほどのミストの言葉を思い出した。
クロリアが反論しても、この人は聞く耳を持たなそうだし……。私がしっかりしないと! よし!
「あの! ダリア騎士団長!」
「なんだ? この頭の悪そうな女は」
「うぐぅ!」
心が抉られるぅー! この毒舌王子め……。でもそんなこと言ってる場合じゃないよね……。元気が大事だ! 押し返せ!
「私は冒険者のルルシアンと申します! 本日は依頼の件で参上いたしました! 依頼内容のご説明をお願いします!」
とは言ったものの、依頼の内容は騎士団長との一騎打ちだって、さっき聞いたけどね。でもここは知らないふりしないと。
「……なるほど。貴様が依頼を受けたルルシアンか。クロリアを連れてくれば、我に手心を加えてもらえるとでも思ったのか? 浅はかな奴らだ」
うう、めちゃ見透かされてるじゃん……。クロリアがいれば首チョンパは無いかなと思ったんだけど。
「クロリアは関係ありません。道がわからないから一緒に来てもらっただけです。依頼内容はなんでしょうか?」
「……ふん。一丁前に冒険者ごっこか。そもそも貴様は、我の依頼を受けるに値するようには見えんが? なにゆえ受注した」
カチャリと、クロリアに向けられていた切先が私に向けられた。
どうしよう。ネリネが勝手にやっただけなんて言えないけど……。もうさ、こんな人の依頼なんて受けたくないし、アホなふりして帰ろう。相手することないや。
「ええーっと、報酬が良かったので、依頼内容だけでも聞いたみようかなと思ったんでーす。でも騎士団長様との真剣勝負なんて私には無理な話ですよね。お邪魔しましたー!」
その瞬間、場の空気が凍った。
「あ……」
しまった……。
まだダリアは依頼内容を言ってない。
ダリアはピクリと眉を動かすと、険しい顔になり騎士たちに剣を向けた。
「……貴様ら、勝手に喋ったのか?」
「あ、その……。申し訳……」
「依頼内容を勝手に漏らすとは……。騎士の風上にも置けぬ奴め! その身に刻めッ!」
ダリアが騎士に向けて剣を振りかぶった。
私は咄嗟に地面を蹴って騎士とダリア剣の間に滑り込むと、キン! と高い金属音を響かせ碧いガントレットでダリアの剣を弾いた。
「なにやってんのよ! 仲間を剣を振り下ろすとかバカじゃないの?!」
「貴様……。王族である我に楯突くとは良い度胸だな。後悔しても、もう遅いぞ!」
あーもう! やっちゃったよ! やっちゃったよ! でも仲間に手を挙げるなんてバカのやることだよ!
「ッ! ダリア様! 剣を納めください!」
私とダリアが睨み合う中、私が助けた騎士が地に頭をつけて戦闘中止を懇願した。
騎士の額から流れた鮮血が地面を濡らす。
「ここでの戦闘は街内への影響があります! 剣をお納めください! やるならば訓練場でお願いします!」
騎士は身体がカタカタと震えている。それもそのはずだ。ダリアに反抗する事は死を意味する。
しかし、その必死な懇願が届いたのか、意外とダリアは素直に剣を下ろした。
「フン、良いだろう。……ルルシアン。貴様に身の程を知らせてやる。貴様ら、こいつを訓練所へ連れてこい」
それだけ言い残すと、ダリアは赤いマントをひるがえして詰め所の中へと消えて行った。
「……ふぅ」
ダリアがいなくなり緊張が解けると、どっと疲れが出てきた。なんとか事が収まってよかったけど、私の命は風前の灯だよ。
「ルルシアン様。ごめんなさい。私のせいで兄様と戦う事に……」
「ん? クロリアは関係ないでしょ。私が吹っかけたんだし。ま、なんとなるでしょ」
私にはクロノスの左手もあるし、いざとなったら、私の左手に宿ってるクロノス本人が助けてくれるかもしれないし。
「ルルシアン殿。すまない、俺が余計なことを言ったばかりに……」
私たちの元に、額から血を流した騎士が謝りながら駆け寄ってきた。
「謝るのは私だよ。私がうっかり言っちゃっただけだし、身から出た錆だよ。気にしないで」
そうは言ってみたものの、団長との一騎打ちかぁ。勝てないかもしれないけど、殺されないようにがんばろう。致命傷さければ、私自身の時間を戻すのにリスクはないみたいだし。
「よし、あんまり待たせるとまた怒りそうだし、訓練所に案内してくれる?」
私とクロリアは騎士に案内されて、騎士団の詰め所へと踏み入れた。
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