52杯目:騎士団長ダリア
「おまけに靴まで貰っちゃったけど、よかったのかな」
「その靴はおまけ程度ですから」
バトルドレスを買ったおまけとして、私の新品の靴もリコルクから貰った。
これがまたすこぶる履き心地が良い。でも値札に金貨十枚って書いてあったけど……。お金持ちにとっては誤差なのかな。
碧いガントレット、バトルドレス、新しい靴。少しずつだけど、だんだんと私の装備が集まってきた。嬉しい。
「騎士団の詰め所は、この先を突き当たりです」
クロリアの案内で貴族街を歩いていると、なんだか自分も貴族になった気分がしてくる。実際は借金まみれだけど……。
ん? くん……。くんくん!
「クロリア! 良い匂いがするよ! こっち!」
「あっ。ルルシアン様。勝手に歩かれては」
クロリアが制止を無視して良い匂いのする方へ進むと、高級そうな飲食店から美味しそうな匂いがしてきた。これはボヴァンのステーキでも焼いているのかな?
ぎゅるるるるる……。
はぁ、お腹空いた……。
「ク、クロリア……。チラチラっ」
お店に入りたいしヨダレが止まらないけど、お金を持っていない私には入りたいなんて言えない。クロリアからの「お昼にしましょうか」の言葉を待っていると、胸元のミストが苦言を呈した。
『満腹になると運気が下がるんじゃ無かったか?』
「う……。そういう説もある……」
確かにお腹いっぱいになると碌なことがない……。あの時もあの時も、どれもお腹が一杯の時は酷い結果になっている。
『念のためだ。ダリアとの話が終わるまで飯抜きだ』
「ええぇぇ?! お腹空いて死んじゃうよぉ!」
『そんな簡単に人間は死なん。さっさと依頼内容を聞いてくればすぐに終わる話だ』
それはそうだけど、そんな簡単に済む話なのかな……。今までの受注者はみんな首チョンパなんでしょ? 簡単なわけない気がする……。
「はぁ、わかったよ。じゃあさっさと行こうか」
私は美味しそうな匂いに後ろ髪を引かれながら、悲しい気持ちで騎士団の詰め所を目指した。
騎士団の詰め所はニールベルト城の麓にあり、三階建ての建物はまるで小さなお城と言っても良いくらい豪華な造りだった。
「あの騎士団の詰め所は、ダリア兄様が騎士団に入ると決めた時にニールベルト王が「相応しい物を」と言い、建て直したらしいです」
ニールベルト王ってだいぶ子煩悩というか親バカというか、まぁ良いことだとは思うけど、それ税金でやることじゃないとは思う。
「門番がいるね」
騎士団の詰め所には、簡易的な胸当てをつけた二名の騎士が立っていた。腰には長くて細い剣を携えている。
「なんか思ってたより騎士っぽくないけど……。あれが騎士団なの? 私が小さい頃に読んだ絵本だと、もっと鎧でガチガチだったけど……」
建物の影から様子を伺っていると、ペンダントからミストが答えてくれた。
『それは大昔の話だ。言っただろう、騎士団は街の中しか警護しないと。つまりモンスターの襲撃は想定していない』
「でも簡素すぎない? 正直弱そう……」
『街の中の荒事は対人と決まっているから、故に早く駆けつけられるように簡易的な胸当てと、小回りの効くロングソード類が好まれるのだ』
なるほど。本当に街の中のことしか考えてないのね。どーみても、あの騎士にクラルテ・ウルフは倒せる気がしないけど……。
「よし、最後におさらいさせて。私はギルドから依頼を受けたルルシアンです。ダリア騎士団長いますか? でいいよね?」
『ああ、問題は依頼内容だけだな』
ミストは言わなかったけど、クロリアには喋らせない。だよね。わかってるよ。私だって冒険者の端くれだよ。やれるやれる。
私は自分の胸をドンッと叩いて気合を入れると、騎士団の詰め所へと向かった。
「何者だ」
近づくや否や、すぐに門番をしていた二人の騎士が抜刀すると私に剣を向けてきた。緊張する……。
「えっと……。ルルシアンで依頼が、ギルドから来ました。あの! ダリア騎士団長はいますか?!」
やば、なんか支離滅裂になっちゃった。
当然騎士の方も困惑した表情を浮かべている。
「依頼……?」
「ほらあれじゃないか? 例の団長の……」
「ああ……。って! こんな子供が?!」
二人の騎士はお互いに半信半疑でいるため、私あらかじめ身喰いのペンダントから出しておいたギルドカードを渡した。
「確かにカードは本物だし、聞いていた通りだな……。しかし、こんなお嬢ちゃんが……。ギルドの手違いじゃないのか?」
尚も二人はどうするか話し合ってるけど……。揉めてるということは、この騎士達は団長の依頼内容を知ってるんじゃないだろうか。
「あの、騎士団長の依頼ってどんな内容内容なんですか?」
この人達が知ってるなら聞いてしまおう。怖い騎士団長に聞く必要はない。
「……誰にもいうなよ? 団長の依頼ってのは、団長と真剣勝負をする事だ。負ければ当然死ぬことになるが……」
真剣勝負?! やっぱり死ぬの?! ヤバいじゃん。依頼で死んだら事故として扱われるとか、そういうことなのかな?!
「どうする? 団長を呼ばないと俺達が……」
「そうだな。後々面倒な事になるしな……。ん? そちらの女性は……。え! ク、クロリア様?!」
騎士の一人が、私の後ろに控えていたクロリアに気づくと、激しく動揺した。あ、そうか。お城の人はクロリアの素性を知ってるのかな?
「なぜここに?! 大変だ……! もし団長に見つかりでもしたら……! 早く立ち去ってください!」
その時だった。
詰め所から一人の男性が出てきてしまった。
「なんだ。騒がしいぞ」
詰め所から現れたのは、金髪をオールバックにしたガッチリ体格の騎士だった。他の騎士と違い、仰々しいほどの金色の鎧を纏っていて眩しい。
「ダ、ダリア様……。その」
ダリアと呼ばれた金色の騎士は、門番の騎士が説明するよりも早く腰の剣を抜刀すると、クロリアに切先を向けた。
「クロリア……。忠告したはずだ。城に近づくなと。殺されに来たか?」
青く澄んだ鋭い眼光は、見つめられるだけで身体が萎縮した。これがニールベルト騎士団長ダリアとの出会いだった。
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