33杯目:便利なペンダント
「う……」
ど、どうしよう。クロノスの力で治しましたって正直に答えちゃダメだよね……。
ギルドってニールベルトの関連組織でしょ? シトラスに知れたらそのまま王族に伝わって、私は一生囚われの身になるか、食材として食べられちゃうか……。
ミスト助けてぇ……。
『…………』
無理か……。
シトラスがいる前では喋れないよね。
「えーっと……」
ベゴニアがゲルフを回復した事にする?
いや、確か回復が得意なのは兄のベドウィンって言ってし、ベゴニアやゲルフの報告ではきっと私が回復させたって言ってるよね……。下手な嘘は逆効果だ。
「えっーっとぉ! じ、実は回復魔法が使え、、るんです」
「それはおかしいですね。ベゴニアさんの報告では、ゲルフさんの右肩から先が無くなっていたとの事でした」
「だから、それを私の回復魔法で……」
苦し紛れの言い訳に対して、シトラスは首を横に振った。
「回復魔法とは、対象者の自己治癒力を術師の魔力で強制的に強化する魔法です。無くなった腕が生えるわけありません」
そうなの?! そんなの知らないよぉ!
シトラスが立ち上がると、自分の服を摘んで私に迫ってきた。
「破れた服まで、治したそうですね?」
ひぃい! もうダメだー! ど、どーしよー!
……いや! 落ち着けルルシアン! 別に悪いことしたわけじゃないじゃん! ミストから
さっきシトラスは「よかったら教えてください」って言ってたよね。よ、よし……毅然とした態度で行こう。
「……回復魔法ってのは嘘だけど、でもどうやって治したかは秘密」
嘘がダメなら言わなきゃ良い。
腕を生やすスキルがあるかもしれない。服が再生するスキルや魔法があるかもしれない。言えないものは言えないと突っぱねよう。
「……ふふ、わかりました。別に僕も、ルルシアンさんの秘密を暴きたかったわけではありません。ただ、どうやったのかな? と思っただけです」
やっぱり……。ただ、吹っかけただけか……。冷や汗かいちゃったよ……。ふぅ。
「じゃあ、もう用事は終わりでいい?」
「ええ、また何かあればいつでも遊びに来てください」
短い挨拶を交わすと、私は残った干し肉を掴んでさっさと部屋を後にした。
シトラスは温厚で面倒見が良いギルドマスターだけど、やはり何か隠している? いやわからないけど、何かおかしい気がする――。
『……なるほどな』
階段を降りてる最中、ミストがボソッと喋った。
「なによー? 一人で納得しないで説明しなさいよ」
『お前が知る必要のない事だ。まぁ、俺様としてはとても有意義な時間だったとだけ言っておこう』
意味わかんない。ミストって一人で納得して、それを共有しないから一人ぼっちなんだよ。ふん。
「はぁ……。服を買いに行きたかったけど、こんな大金持ってウロウロしたくないなぁ」
でも帰ったらクロリアに借りてたお金は返さないといけないよね。どれだけ取られるかわからないけど、最悪いくらも残らない可能性がある……。
やっぱり帰る前に服だけでも欲しい。
『服などクロリアの服があるだろう。用事は済んだんだ。さっさと屋敷に帰るぞ』
小言がうるさいミスト入りのペンダントを見ていて、私は閃いた。
あ、そーだ? もしかして……。
「えい!」
私は身喰いのペンダントに金貨袋を押し付けてみた。ミストが吸われちゃったけど、まだ容量に空きがあれば入るんじゃない? と思ったら……。
すぽっ!
「あ! 入った! すご!」
『お、おい! よせ!』
もう一つおまけに押し付けてみたらそれも入った。なにこれめちゃ便利じゃない? 全部入れちゃおう! ズボズボ!
「わーい! 全部入っちゃったー!」
『……まったく。
「ねね、ペンダントの中ってどーなってるの? 金貨袋触れる?」
『はぁ……。ペンダントの中では身体は動かせぬ。意識だけがある感じだ。ただ……。お前が余計なものを入れたせいで異物感がある』
ふーん。歯にお肉が詰まったみたいな感じかな? 私も入ってみたいなぁ。そしたら自分で歩かなくて良いし? お腹も空かないし? 最高じゃない?
「私も入って良い?」
『バカを言うな。入れるわけないだろう。そもそも、入れたとしてもどうやって館まで帰るのだ』
「それもそっか。って、待って? これ、今入れた金貨袋はどうやって取り出すの?」
『ちょっと待ってろ。……こうか? いや、違うな。ふんっ』
ポーンと、身喰いのペンダントから金貨袋がそのまま飛び出して、私の手の上に乗った。
「わぉ、すごい便利!」
『なるほどな。俺様はペンダントに封印されているが、追加で入れた品物は異空間の余白に入るため、すぐに取り出せるのか……。興味深い現象だ』
これでどんなに荷物があっても出し入れ自由じゃん! 料理を直で入れるのは抵抗あるけど、果物なら入れても大丈夫かな?
「あ、スープを入れたらどうなるのかな……」
『ルルシアン……。俺様がここから出たら覚えていろよ……』
「じょ、冗談だよ! スープは流石に入れないよー。ははは……」
ヤバい。あんまり無茶すると、ミストがペンダントから出たあとの報復が怖い……。あんまり雑な扱いはしないようにしないとなぁ。
ん? ペンダントから出る……? 待てよ? 私のクロノスの左手を使えば、ペンダントのなかで瀕死のミストは救えるんじゃない?
「ねぇ、思ったんだけど……。ミストがそこから出て、私がクロノスの左手でミストの時間を戻せば、ミストは助かるんじゃない?」
『可能性は高いが断る。お前の実験体になるつもりはない』
「いやでもさー? ミストと会った時くらいまで時間を戻せば、ミストは助かるよね? そのあと私はしばらく動けなくなるかも知れないけど、ミストが復活した方がロベリアの館の侵入も上手く行くと思うけど……」
それにミストがいれば、もし失敗してもミストのスキルでクロリアの館へ瞬間移動出来る。これなら失敗リスクが大幅に減る。
『ふむ。一理あるが、侵入というのは人数が少ないほど成功率が上がるものだ。それ、にロベリアの館への侵入タイミングは不明だ。意識がない間に侵入のチャンスが来るかもしれんぞ』
まぁ、それはそうかもしれないけど……。でも、ペンダントから出る方法は知っておきたいかな。
「ねぇ、気合いでそこから出れないの?」
『無茶を言うな。先程のように追加で入れたアイテム類には封印は影響しないようだが、直に封印されてる俺様は自力で外に出る事は出来ないようだ』
「そっかー。残念」
ミストをペンダントから出す方法は、また別途考えるしかないね。
私は身喰いのペンダントに残りの金貨袋とクロッカスの招待状を突っ込むと、階段を降りて一階へ向かった。
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