32杯目:ランクについて

 取り出したギルドカードには、やっぱりランクCの文字があった。


「ランクCスタートって事は、クラルテ・ウルフを倒したからだよね?」


「それもありますが……。モンスターを倒したからランクが上がるって事はありません。冒険者の仕事は奉仕活動が基本ですから」


「奉仕活動?」


「そうです。勘違いしている冒険者が多数いますが、冒険者というのは、困ってる人を助けたいという奉仕活動が主となります。武力を欲しているなら、騎士団に入ることをお勧めします」


 なるほど。冒険者はモンスターを倒す事で強さを誇示したがるけど、それはあくまで依頼を遂行する上での結果であって、目的じゃないと。


「実際に武力が無くても、街から出ずに地道に依頼をこなしてランクBになった冒険者もいます。モンスターを倒したからランクが上がるわけでも、偉いわけではないです」


 さすがギルドマスター、良いこと言うなー。

 そうだよね。モンスター大事なら騎士団がいるんだから任せればいいじゃんね? 冒険者は街で起きてる細々とした問題を解決したりが主な活動だよね。


「また、本来ランクアップには、冒険者としての実績や言動、態度に貢献度なども加味されて決定されます」


 私は実績もないし、あの時は冒険者ですらなかったけど……。


「ルルシアンさんはCランク査定には、ギルドでも揉めましたが、冒険者ではないのに危険な依頼だと知ってても救助に向かった奉仕の心や、瀕死だったゲルフを助けた事が高く評価されました」


 どれもこれも成り行きだけどね……。

 クラルテ・ウルフがあんなに強いモンスターだなんて知らなかったし、ゲルフを元に戻せたのも満腹堂場でたまたまクロノスの一部を取り込んでいたからであって、本来ならゲルフは死んでいる。


「冒険者に成り立ててで、いきなりC評価は過去類を見ない特例ですよ!」


「そ、そうなんだ」


 シトラスは両手を広げて大げさに表現したけど、そんな無謀なことをする人が、過去誰もいなかったというだけでは……。


 ランクCです。おめでとう! と言われても、正直いつまでこの街にいるかもよくわからないし、お金はさっき貰ったから急いで稼ぐ必要ないし。

 大きな声では言えないけど、ロベリアの屋敷への侵入が上手くいけば、私は毎日お金が貰える確約があるもんね。

 冒険者として頑張る必要ないかな。


「あれ? 反応が薄いですね……。もしかして受付でランクの詳しい説明を受けてませんか?」


「んー、まったく?」


「はぁ、ネリネさん仕事してください……。では僕から改めて説明いたしますね」


 シトラスの長い説明は概ね想像通りだった。依頼をこなして依頼達成数を稼ぎ、市民からの信頼を得る事でランクが上がる。上がる事でより難易度の高い依頼を受ける事が出来て報酬も高い。


「ねぇ、他に何か特典とかないの?」


「色々ありますよ。例えば街中で買い物をする時にCランク以上は多少割り引いてくれます。一番割引率が高いのはギルドに併設してる酒場ですね」


 その言葉に私の耳がピクリと動いた。


「……食べ物もってことだよね。どれくらい割り引かれるの?」


「Cなら一割、Bなら二割、Aなら三割、その上のSなら半額です」


「は、半額?!」


 半額って事は、同じお金で倍食べれるってことだよね?! それはすごく魅力的だ。もしこの街に永住するなら、なんとかランクをSランクまで上げて半額生活を謳歌しよう。


「いまランクCって事は、あと三段階上げれば半額のSランクって事だよね?」


「まぁそうですね。Sランク冒険者は数えるほどしかいませんけど……」


 クラルテ・ウルフを倒しただけでCランクに上がったなら、結構簡単に上がるんじゃ?! 一度でもSランクになっちゃえばこっちのもんだし。


「よーし! 頑張ってランク上げるね!」


「ふふ、今は人手不足なので助かります」


 私はシトラスから貰った行商人クロッカスの招待状と三つの金貨袋を持つと、帰る気満々で立ち上がった。


「あ、ルルシアンさん。最後に一つだけ」


「ん? なに?」


「よかったら教えてください。半身を喰われたゲルフさんをんですか?」

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