31杯目:金貨二千枚

「魔法使い連続失踪事件の最初の被害者は、とある中堅冒険者パーティの女性の魔法使いでした」


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

 シトラスには悪いけど、ティグルの干し肉を食べる私の手が止まらない。


 っていうか魔法使いって、ベゴニアみたいに魔法が得意な人だよね? 田舎者なのでスキルと魔法の違いもよくわかってないけど、とりあえず話を聞こう。うん。


「二ヶ月ほどのある日のことです。みんなでギルドに行こうとパーティの一人が彼女の部屋を訪れると、既に彼女はいなかったそうです」


「いない? 一人でモンスターを倒しに行ったとかは?」


「それが……。彼女の装備もそのまま置いてあり、食べかけの朝食もテーブルに置いてあったそうです。さっきまで部屋にいて、まるで煙の様に消えてしまったのです」

 

 煙の様に……消える? んー? そのフレーズどこかで聞いたことあるような……。


『…………』


「それ以降も事件は度々続き、失踪した者の中にはランクBの手だれの魔法使いもいました。今わかっているだけでも、行方不明者は八人です」


「そんなに?!」


 ギルドには何回かしか来たことないけど、それでも五十人いないかくらいだよね? 八人もいなくなるって相当では?


「それで魔法使いが不足しているところに、普段は街の近くには現れるはずのないクラルテ・ウルフが出てしまい、ギルドとしてもどうするか対応に苦慮していたところでした」


「それで、高ランク冒険者が手配できるまで、ゲルフに待つように言ってたんだね」


「そうです。でも、ゲルフさんはベドウィン兄弟が危ないって、聞かなくて……。あの時、ルルシアンさんがいてくれて本当に助かりました」


「いやー、別に私も大したことは……」


 よく考えるとベゴニアを囮にしてパンチ。ゲルフが食べられてる間にパンチ。結構卑怯な立ち回りしかしてない……。だって怖かったもん。


「戦闘の詳細はベゴニアさんに聞きましたよ。なんでも大型のクラルテ・ウルフを拳で真っ二つにしたそうですね。僕も見たかったなぁ。ルルシ・アンパンチ」


「ちょ! 変なところで区切らないでーっ!」


「え? 違いました?」


「違うよ! ルルシアン・パンチだよ!」


「あ、そうなんですね。すみません」


 技名変えよう。絶対変えよう。そもそもただの全力パンチだし。技のつもりなかったけど、叫んだ方が威力が上がる気がしてつい叫んじゃったんだよね……。絶対変えよう。


「それで報酬の件ですが、依頼主のクロッカスさんより金貨二千枚を預かっています」


 いつの間にかテーブルの上には、溢れそうなほど金貨が入った麻袋が四つ置かれていた。一つに金貨五百枚入ってるってことかな。

 クレームが来てるって聞いたから、てっきり減らされてると思ったけど……。


「これをゲルフとベゴニア、それとベドウィンに私の四人で山分けってことかな?」


「いえ? ゲルフさんは報酬の受け取りを辞退しましたし、ベドウィンさんは終始倒れていて戦闘には参加してません。一応ベゴニアさんは戦闘に参加していたとの事なので受け取る権利がありますが、ベゴニアさんも辞退しています」


 あー。ゲルフの言ってた「辞退したから勘弁してくれ」って、そういうことか……。権利のある人が全員辞退したから私の独り占めってこと?!


「……いや、騙されないよ? そこからギルドの手数料やら引かれるんでしょー?」


 私の質問に、シトラスはにっこりと微笑みながら否定した。


「いいえ? これはギルドを介さずに、依頼主のクロッカスさんと個別に結んだ依頼ですので、ギルドは手数料を取れません。こちらの金貨二千枚は、全てルルシアンさんのモノです」


 シトラスは金貨の入った袋を、ぐいっと私の前に差し出した。見たこともないような金貨の山だ。クロリアやミストに借金を返しても、少しは残るんじゃないだろうか?


「えへへ、じゃぁ遠慮なく」


 私は干し肉を噛みながら、目の前に置かれた四つの金貨袋を抱えて持ち上げると、そのうちの一つがヒョイっと、笑顔のシトラスによって奪われた。


「では、受け取った報酬のうち、金貨五百枚はギルドの壁の修理代として頂きますね」


「あーー! やっぱり取るんじゃん!」


「当たり前ですよー。ルルシアンさんが壊したんですから」


「くぅ……」


 シトラスの正論に、ぐうの音も出ない。まぁ壊したのは私だけどさぁ? 元を言えばゲルフがナイジェルのご飯をダメにしたのが悪いんじゃん?

 と思ったけど、ゲルフは今回報酬の受け取りを辞退してるから強くは言えないか……。仕方ない……。


「それと無事取り返してくれたお礼にと、クロッカスさんより招待状を預かっているのでお渡ししますね」


 シトラスは懐から、一通の手紙を取り出して私に差し出してきた。思わずそれを受け取ると、手紙は白地に金箔で飾られ赤い蝋燭で封蝋された豪華な物だった。


「招待状……? なんかクレームが来てるって聞いたけど……?」


「クレームですか? いいえ? 来ていませんよ。むしろ他にも頼みたい仕事があると仰っていましたよ?」


 ネリネめ、私を騙したな……。無駄に緊張しちゃったじゃないか……。後でぶりぶり言おう。ふんす!


「時間が出来たら、いつでも来て欲しいとの事です」


 あのおじさん、偉そうで嫌なんだよねぇ。私は特に用事ないから行かなくていいか……。


「それと、受付でギルドカードを受け取ったと思いますが、ランクに関してお伝えしたいと思います」


 ああ、それもあったね。貰ったばかりなのにCランクになってたんだよね。

 私は金貨袋を隣に置くと、スカートのポケットからネリネに貰ったギルドカードを取り出した。

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