28杯目:クロリアとミスト
私は館を出ると、ギルドに向かって歩き出した。
天気も良く、お腹もそこそこ満ちている。
食べた記憶はないけど……。
周りを見渡すと、まだ朝だからか街を行き交う人はあまりいない。今ならミストと会話しても大丈夫かな。
「……あのさ。ミスト」
『なんだ? あまり外では話しかけるなと言っただろう。……はぁ、ギルドへの道はその角を』
「ち、違うよ。道はわかるよ」
もう何度か通ってる道なのでギルドへの行き方は流石に覚えた。満腹堂場の場所はちょっと怪しいけど。
「……あ、あのさ。クロリアとミストってどういう関係なの?」
『クロリアは俺様の側近の一人だ。主にニールベルトで活動する際の拠点として、あの館の管理を任せている』
「いや、えーっと、なんかクロリアって、五大貴族の一角! みたいなことを言ってたけど……」
『ああ、それはニールベルトでの表の顔だ。クロリアの家系は代々ニールベルト王の側近を務めている。そして、五大貴族などと言っているが、全てがクロリアの家族だ』
全部?! ニールベルト王国の代表的なお金持ちが全部クロリアの家族なの?! めちゃお金持ちじゃん!
ああー! それでかー、ロベリアって名前……。どこかで聞いたことあるなと思ったら、クロリアと名前が似てるんだ。
「あ、じゃあさ。ロベリアって、もしかしてクロリアの……」
『姉だ。クロリアより好戦的な性格で、俺様の苦手な要素を集めたような奴だ。思い出しただけでも腹立たしい』
ひぇー。見てみたい……。ミストの嫌いの権化。クロリアだって相当強烈な性格だと思うけど、あれより凄いんだ……。ってか、話を逸らしたよね?
「で? クロリアとミストの関係は?」
『さっき言っただろ。側近の一人だ』
「いやいや、おかしいでしょー。だってさ、ニールベルトのお金持ち貴族のお嬢様のクロリアと、グローザック帝国の皇子様なんて、接点ないじゃん? お金持ちという括りでは一緒かもだけど、両国は仲良くはないんでしょ?」
それに、なんでクロリアの館にはクロリアしかいないのか不自然だ。普通、お金持ちなら側仕えとか護衛騎士などがたくさんいるんじゃないのかな。
『……変なところで鋭い奴だ。しかし、話は終わりだ』
話してるうちにギルドが見えてきた。あー、もっとゆーっくり歩けばよかった。
仕方なくそのままギルドに向かうと、通りまで届くような誰かさんのバカ笑いが聞こえてきた。
「ガハハハ! トドメに俺がクラルテ・ウルフを真っ二つにぶった斬ってやったわけよ!」
「すげー!」
街の中とは違って、ギルドには既に冒険者がたくさんいるみたい。冒険者の朝は早いってよく言うもんね。
あ、そうだ。ギルドで報酬をたくさん貰ったら服を買おうかな。クロリアの用意してくれるドレスは物は良いと思うけど、私には少し動きにくい。
『ルルシアン』
「ん? なに?」
『いいか? クラルテ・ウルフの報奨金は取れるだけ取れ。それとギルドカードの受け取ったら帰るぞ。他に余計な事はするな。わかったな?』
「わ、わかってるよ」
ミストは私の心の声が聞こえてるの? ってくらい私の考えを読んでくる。こうなったら、なんとしても服だけは買おう! それくらい良いよね?
カランカラン。
鈴の音を鳴らしてギルドに入ると、笑い声と共にお酒の匂いがプーンと漂ってきた。
併設の酒場では、朝からお酒を飲んでる冒険者も多い。その中心にいるのがゲルフだ。
「いやー! お前らにも見せてやりたかったぜ。俺の剣の切れ味をよぉ」
「さすがゲルフさん! かっけー!」
さっきも聞こえたけど、クラルテ・ウルフを半分こにしたのは私のルルシアン・パンチだったと思うけど……。
まぁ、グルフは私を庇った噛みつかれて? クラルテ・ウルフに
まぁ私は報酬が貰えるなら、功績とかはどうでもいいや。変に目立ちたくないし。
「あ! ゲルフさん! ゲルフさんが
ゲルフを崇めていた青い短髪のモブ男が、ギルドに入ってきた私に気がついて指を刺してきた。
その言葉に私の眉がピクッと引き攣る。
助けて
「よ、よぉ、ルルシアン元気そうだな」
「ゲルフこそ、元気そうだね。右腕の怪我はどう?」
右肩からガッツリ食べられたゲルフの右肩は、綺麗さっぱり治っている。まぁ、私が時間を戻したのだから当然だけど……。
「ハァ? ゲルフさんはな! 超巨大なクラルテ・ウルフを相手に無傷だったんだぞ!」
下っ端の男はさらに反論してきた。この人……。確か、初めてギルドに来た時にナイジェルと口論してたゲルフの後ろにいた男だ。
「ふーん。無傷でねぇ。そうなんだ。へー」
「テメェも報酬狙いでついて行ったらしいが、ゲルフさんの邪魔してねぇだろうな?!」
事実だから報酬狙いだと思われてもいいし、クラルテ・ウルフを倒しのがゲルフでもいい。実際ゲルフがいなければ倒せなかったし。
でも、瀕死のゲルフを助けた事実はあるわけで、感謝はされこそ非難される
ぎゅるる……。
なーんか怒りでお腹が空いてきたなぁ!
「ちょ、あ……。アーウィン。いいんだ。実はルルシアンがいなければ、俺も危なかった場面もあったんだ」
私から何かを感じ取ったのか、ゲルフが前に乗り出してアーウィンを制止した。
「そーなんすか? いやぁ、さすがゲルフさん! 謙虚ですね! あ、そうだ! おい女! こないだゲルフさんに不意打ちをぶちかましたこと! 忘れてねぇかグエッ!」
「アーウィン! テメェ! もういいっつってんだろ! 引っ込んでろ!」
「痛っぁ……! さーせん……」
ゲルフにゲンコツされたアーウィンは、強制的に席に座らせられた。相当痛そうだ。
「あー、ルルシアン。ちょーっと話がある。そうだな、あっちで話すか」
ゲルフは「払っておけ」とアーウィンにお金を渡すと、私についてくるよう手招きした。
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