27杯目:報告会
「っていうわけなの」
『……なるほどな。その左手、間違いないな』
とりあえず私が説明できる部分については説明すると、ゲルフや私の右腕を治した左手の力について、ミストは何か心当たりがあるらしい。
「ウィロー様。もしや、ルルシアン様の左手は……」
『ああ、《クロノスの左手》だろう。恐らく青い極楽鳥パラディの卵を使ったデザート。あれがクロノスの左手の力を宿していたんだろうな』
「え?」
あの美味しいプディングが、クロノスの左手? どういうこと? 手、食べてたっけ?! と、困惑している私にミストが説明してくれた。
『クロノスの一部が地上に散ったという話は、フェクシオン教団の男がしたと思うが、食物連鎖の果てにいるのがお前だということだ』
つまり、大昔にこの地に落ちたクロノスの左手を、誰かが食べてまたそれを誰かが食べてっていう連鎖が、長い長ーい歴史の中で繰り返されたけど、その最終捕食者が私ってことらしい。
確かにそれ以外に、私の左手が不思議な力に目覚めた理由の説明が付かなそう……。
「えっと、この左手の力がクロノスの力だとして、どんな力があるの? 怪我を治せるの?」
『クロノスの左手は過去発見された事がないが、事象的にも《時戻し》だろう』
「時戻し? 時間を戻すってこと?」
『ああ、お前の報告の中でゲルフを治す際、ゲルフの破れた洋服まで戻ったと話していただろう』
「そうだね」
ゲルフを助ける際に、戻れと念じたらまるっと新しいゲルフになっちゃった。
『恐らく《ゲルフ》の時を戻したことにより、服まで含めて戻ったと思われる』
「なーるほど。実質的に怪我が治ったように見えたってことね。あ、そういえば、ゲルフを戻した後に、私は気絶しちゃったんだけど……。あれはなんでだろ?」
『それはクロノスの力の代償だ。クロノスの力は因果を超越した動きをする。その代償として使用者の”時間”が奪われるのだ』
時間が……。奪われる? つまり、ゲルフの時間を戻したから、代償として私の時間が奪われたってこと?
「でも、私の右手を戻した時は気絶しなかったけど」
『それは検証してみなければわからぬが、恐らく自身への利用だった事と、戻した時間が短かった事が影響してると思うが……』
あ、つまり? 私って死なないんじゃない? 死にそうになったら時を戻せば、うえーい! ってことだよね?!
『お前のことだ「これで私って死なないんじゃない? うえーい」などと楽観的に考えているかもしれないが、ことの重大さを理解してないらしいな』
ちょっとー! 心の中を読まないでもらえます? どうして私の心は、こんな簡単に見破られてしまうのだろう? そんなに顔に出てる?!
『クロノスホルダーになると言う事は、命を狙われるという事だぞ』
「え、どうして? 私、別に悪いことしてないけど……」
『クロノスホルダーの力は強大だ。それこそ使い方次第で人、国家を壊滅させることも可能だと言われている。そんな存在が公になれば、もちろん命を狙われるだろう』
「やばいじゃん……」
そっか、私を煮て焼いて食べれば、便利なクロノスの左手の力が手に入るんだもんね……。私を脅したりするより、手っ取り早いんだ……。怖っ。
「よし、なるべく人前では使わないようにしよう……」
『
「う、はぁい。気をつけまーす」
でも……。もしクラルテ・ウルフの時みたいな事態になったら使わざるを得ないよね? まぁ、判断に困ったらミストに聞けばいいか。
「ねぇねぇ、ミストはなんでクロノスの力に詳しいの?」
『……お前が知る必要はない』
これだもんなぁ。なんでかミストは自分のことをあまり教えてくれない。
私が知ってるのは、グローザック帝国の皇子で、ニールベルトで盗賊をやってる事。あとは、クロノスの心臓をなんで探してるらしいけの、理由も不明だし。
そもそもさー、クロリアとミストってどういう関係なんの? 私のファーストキッスまで奪っておいて、何にも説明なしだもんなぁ。私の事、どー思ってるんだろ……。
これはちょっとミストと、腹を割って話をする必要があるね。
クンクン……。
ん?
その時、ほんのりと食べ物の匂いが部屋の隅から漂ってきている事に気付いた。
私は暗がりになっている部屋の隅へ目を凝らすと、そこには食べ終わった食器や骨付き肉の残骸などが、山のように置かれていた。
「え、あれって……。なに?」
「やはり、覚えていらっしゃらないんですね」
『覚えていないだろうな。完全に寝ていたからな』
「なんの話?」
『あれは、お前が寝ながら食った飯の残骸だ』
「はい?」
うっそ。私、寝ながらご飯食べてたの?! あんなに?! 軽く見ても五十人前くらいはあるけど……。どうりでお腹が鳴らないし、軽い満腹感は確かにあるけど……。
まぁ、あんなに激戦の後なのに、なんでお腹が空いてないのかな? とは思ってたけども……。
私的には食べてないけど、食べたと言われて納得がいかないながらも、残骸を見る限り私が食べたことを認めるしかなかった。
「ルルシアン様。右腕以外の怪我は私が治しておきましたので、もう動いても大丈夫ですよ」
「クロリア、ありがと。よっと」
私はベットから降りると伸びをして、身体の確認をした。確かに左足の怪我は綺麗さっぱり治っている。さすがクロリア。
「さてと、どうしようかな?」
『どうしようかな? ではない、金を返せ金を』
「ざんねーん。銅貨一枚すら持ってませよーだ」
『そんな事はわかっている。まずはギルドへの報告を行える。ランクA相当のモンスター討伐依頼を達成したのだ。それなりの報酬を得られるだろう』
「あーーー! そうだね。じゃあギルドに行こうかな」
ギルドカードも貰わなきゃいけないし、ゲルフやベゴニアもどうなったのか。ベドウィンは生きているのか。行商人の商売道具は無事だったのかなど、気になる事は多い。
「ところで……。今って何時なの? 私ってどれくらい寝てたんだろ」
窓の隙間からは光が漏れているから日中だとは思うけど。クロノスの力の代償で寝ちゃったとはいえ、そんなに時間は経ってないのかな?
「ルルシアン様が南門に運び込まれてから、既に二日が経っております」
「ニ日?! そんなに寝てたの?!」
『ああ、起きたら飯を食うだろうと、クロリアが飯を用意してくれたのだが……。空腹に我慢出来なくなったのだろう、お前は寝ながら飯を食べ始めた』
そりゃお腹も空くよ……。二日も寝てたなんて……。ミストの言う通り、あんまり気軽にクロノスの力は使わない方が良さそうだね。
『それと、ギルドで用事が終わったら、クロノスの左手の力の検証を行う。自分で何が出来るのか知らなければ、実戦では役に立たんからな』
それは確かにだね。
どれくらいの力加減なら代償を払わなくていいのか、知っておいた方が良さそう。
「わかった。じゃあ、とりあえずギルドに行こうか」
『うむ。クロリア。ルルシアン宛の請求書をまとめておけ。クラルテ・ウルフの討伐となれば、ギルドもそれなりのまとまった金を払うだろう』
「かしこまりました」
きっと、私の手元に残るお金なんて無いんだろうなと思いつつ、ベットの横に用意してあった動きにくそうな青いドレスに着替えると、私は足早に屋敷を飛び出した。
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