16杯目:契約の影響
クロリアが、ミスト入りのペンダントを抱えてウフフと笑ってる。なんだか危険な気もするけど、私は魔法とかスキルに詳しくないし任せちゃおう。ごめんミスト。
「で、クロリア。とりあえず止血して服も着替えた方がいいと思うよ?」
私が指摘すると、クロリアは自分の姿を改めて確認して、血塗れのスカートの端を摘んでみせた。
「そうですね。ご心配おかけしました」
本当だよ。二人がどんな関係なのかよくわかってないけど、忠誠心が高すぎるのも怖いね。
「じゃあペンダントについては、あの占い師を問い詰めるとして……」
ぎゅるる……。
ホッとしたら、お腹が空いてきた。
「……これ食べてもいい?」
私がテーブルの上の料理を指差すと、クロリアは微笑んで承諾してくれた。
「どうぞ、今のウィロー様には不要なモノですので。私は着替えてきますね」
クロリアは、それだけ言い残しミスト入りのペンダントを大切に抱えると部屋を出て行ってしまった。
なんかさっきからミストがやたら静かだったけど、まぁいいや。私はご飯ご飯ーっと。
「だいぶ冷えちゃってるけど、どれも美味しそう」
私は改めて椅子に座ると、ミストのために用意された料理たちを見定めた。
消化に良い食事を用意したのだろう。ルリの実を柔らかくしたお粥と、つぶつぶたっぷりマイスが入った黄色いスープが置かれていた。
ルリの実というのはすごく小さい植物の実で、炊き込むことで柔らかくなる特徴がある。うちも村でも作ってたけど、価格が安いわりに栄養価も高く、この国では良く食べられている。
マイスは棒状の野菜で、皮を剥くと小さな黄色い粒がたくさんついている。とても甘味が強い野菜だ。
「いっただきまーす!」
ルリの実のお粥をスプーンですくって食べると、ほんのり酸味のあるプリュネの味がした。プリュネは赤い木の実でとてもすっぱい。私の家でもよく出荷していた。はちみつ漬けにすると絶品なんだ。
「うふふ。おいひい。こっちはどうかな?」
つぶつぶのマイスが入ったスープをすくってみると、ほんのり甘い香りが漂ってきた。
どちらも冷えてしまっていたけど、私にはそんなの関係ない。
「うんうん。美味しい美味しい」
先ほど思い出した占い師の言葉なんて、すっかり忘れて楽しくご飯を食べていると、クロリアが部屋に飛び込んできた。
「ルルシアン様!」
「ブッ!」
飛び込んできたクロリアは、裸にタオルを一枚巻いただけという、あられも無い姿だった。
「ちょっ! クロリア、なんて格好で」
「も、申し訳ありません。しかし、緊急事態です!」
あーーー!? ま、また?! 私がご飯食べたから? 満たされるのを感じたから? いやーもー! 勘弁してよー。食べるたびに不幸が降ってくるんじゃ、私はご飯食べれないじゃないの!
「はぁ、どうしたの」
クロリアは左手でタオルを抑えると、右手で青灰色のペンダントを差し出してきた。
「ウィロー様の反応が無いのです!」
「えええ……」
あちゃー。壊れちゃったかな? それかペンダントの中でやっぱり死んじゃったかなー?
「どれどれ……」
私がクロリアからペンダントを受け取った時だった。
『誰か返事をしろ! 俺様の声が聞こえないのか?!』
ミストの怒鳴り声が、ペンダントから聞こえてきた。
「ん? 声聞こえたけど……」
『ルルシアン! おい! ペンダントを……』
「ウィロー様! あああ! よかったぁ!」
クロリアが私からペンダントを奪うと、頬ですりすりと擦り始めた。クロリアの身体に巻かれていたタオルは落ちた。
「ルルシアン様! ありがとうございます! さぁ! ウィロー様! 行きましょう! ……ウィロー様?」
「あれ? また壊れた? ポンコツだね。そのペンダント」
裸のクロリアから再度ペンダントを受け取ると、またミストの声が聞こえてきた。
『おい! ルルシアン! 俺様から手を離すな!』
「え? なんで?」
「まさか……。そんな……」
「待って? どういうこと?」
『このペンダントを介して俺様が会話出来るのは、ルルシアン。お前がペンダントを身につけている時だけだ』
「ええぇ?! どして?!」
と、自分で言って気付いてしまった。クロリアが持っているとダメで私が持っているとミストが喋れる理由。
それは奴隷契約だ。原理はわからないけど、恐らくこの呪印が私とミストの繋がり強くして、私が持ってる時だけ会話を可能にしてるのかも。
『二人とも気付いたな? そうだ。俺様とルルシアンの奴隷契約が影響しているのだろう。やっかいな……』
「そんな……」
ドサッと裸のクロリアが膝をついて倒れた。
「奴隷契約の解除には血が必要です……。生身でなければ解除出来ません……。つまり、ウィロー様はルルシアン様とずっと一緒……」
クロリアはミストを独り占めできないことが相当ショックだったのか、裸のまま身体を捻って苦悩している。
『このペンダントは、ルルシアン。お前が身につけていろ。クロリアに持たせると碌なことに使わんから丁度良い』
碌なことに使わないって、どんな事だろう……。裸のクロリアを見ればなんとなく予想はつくけど……。
「うぅ、ウィロー様ぁ……」
クロリアが恨めしい目で私を見ている。そんなにミストを取られるのが嫌だったんだ……。私は心の中で謝りつつ青灰色のペンダントを首に掛けた。
『ルルシアン。その占い師とやらの場所に案内しろ。逃げられては敵わん』
「え? い、いまから? 今ご飯食べてて……」
『満腹になったら今度は何が起こるかわからん。ほどほどにしておけ』
なによもー! まるで私が呪われてるみたいな言い方してー! 失礼しちゃうよ! 村にいた時はそんなことなかったんですけどー?!
『さっさと行くぞ。それと、クロリア。お前はもしもの時のために休んでおけ、エリクシルを使った反動がまだ残っていはずだ』
「しかし……」
どうやらクロリアもついてくる気だったみたいだ。
『良いか? 俺様がペンダントから出た際、俺様を回復させられのはお前しかいない。それはいつ来るかわからんのだぞ? 俺様のためにも万全な状態で待機しておけ』
「は、はい!」
クロリアは自分にしか出来ない事がわかると、両手を組んで何かに祈り出した。
『よし、急ぐぞ。その占い師とやらを捕えるんだ』
喋るペンダントとなったミストを胸に、私はスープを一口飲むと追い立てられように、部屋を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます