15杯目:青灰色のペンダント
青みを帯びた灰色の宝石が付いたペンダントは、黒い装飾で縁取られており、触れるのを躊躇うほどの禍々しさを放っていた。
「ひぇ、呪われてんじゃないの? これ……」
「……ああぁ、私がウィロー様を殺してしまった。私が! 私が!」
まだ地面に頭を打ちつけているクロリアは、顔や洋服が額から流れた血で赤く染まっていた。
「ああもう! こっちもこっちでヤバいけど、今はミストだよね!」
ピクリとも動かなくなったミストは、身体中から血を流し口からは赤い泡を吹いている。白目も剥いているし、相当にヤバそう。急がなきゃ。
「で……? これ、どうすればいいの?! うーん! 使い方わかんないや! えーい!」
私は青灰色のペンダントを力強く握ると、ミストのおでこに思いっきり叩きつけた。
バビュン!
その瞬間、ペンダントから青いスライムのような液体がドバッと漏れ出し、ミストの身体を包み込んでしまった。
「ええぇ?! なにこれ! モンスター?!」
もぐもぐと動く青いスライムは、ミストを飲み込むとそのまま
「え、嘘……。ミストが食べられちゃった……」
血のついたベットの上には、青灰色の宝石が付いたペンダントだけが残された。
「ええ――。ど、どうしよう」
壊れてしまったクロリアは、いまだに頭を地面に叩きつけている。さらに事態を悪化させてしまった私は、恐る恐る青灰色のペンダントを手に取った。
『なんだ? どうなっている。身体が動かせん』
「ひぇ!」
手に取った瞬間、突然どこからか男の人の声が聞こえて、ペンダントを思わず投げ飛ばしてしまった。
「え、待って。いまの声は……。ミスト?」
問いかけたけど、返事がない。
私はもう一度ベットの上のペンダントを手に取ると、語りかけた。
「ミスト?」
『む、その呼び名は……。ルルシアンか?』
「うん。何これ、どうなってんの?」
『それは俺様のセリフだ!』
「ウィロー様?!」
頭を打ちつけていたクロリアが、ミストの声を聞くなり顔を上げて飛び上がった。その顔は血塗れで軽くホラーだ。
『クロリアか』
「ウィロー様?! あれ?! い、いない?! ウィロー様?! どちらですか?! ルルシアン様! ウィロー様をどこへ隠したのですか?!」
「ぐえぇ」
物凄い力で私の胸ぐらを掴む苦しい……。私はぷるぷるしながらクロリアの前に、青灰色のペンダントを掲げた。
『クロリア、落ち着け』
「ウィ、ウィロー様?!」
ミストの声を発するペンダントに、クロリアが驚愕の表情を浮かべて私から手を離した。
「げほっ。あ、あのね。ミストはこの中に入っちゃったの」
「そんな……。こ、これはいったい……。でも確かにウィロー様の声が……」
ペンダントから聞こえるミストの声に、クロリアは戸惑いつつ、そこにミストがいるという事実を受け入れたようで、落ち着きを取り戻した。
「ふぅ。これね? とある占い師から貰ったんだけど、効果あるかなー? って、ミストの頭を叩いたら、まさか入っちゃって……」
クロリアは困惑した表情を浮かべたが、考えても無駄だと悟ったのか、すぐに頭を切り替えた。
「……ルルシアン様。このペンダントを手に入れた経緯と、ウィロー様の身に起こった事の詳細を教えてくださいませ」
「う、うん」
私は占い師ミントにペンダントを貰ったというか、金貨一枚で売りつけられた経緯と、クロリアが取り乱した後のミストに起こった事象について説明すると、二人は黙ってしまった。
「ごめん。私、余計なことしたかな……?」
「いえ、そのペンダントが無ければ、ウィロー様は確実に死んでいたでしょう……。しかし」
『その占い師、調べる必要があるな……』
「はい……。そのペンダントは恐らく、
アーティファクトってなんだろう?
話からすると、すごく貴重なモノなのかな?
この古汚いペンダントが?
でも、確かにミストがペンダントに閉じ込められた事実は、私が目撃している。
「あの……。ミストって今どうなっちゃってるの?」
私の疑問に、血塗れのクロリアが顔をタオルで拭いつつ答えてくれた。
「恐らく、ペンダントに封印されている状態かと思われます。そしてウィロー様の様子からすると、肉体と精神が切り離されている可能性が高いです」
「うーん、よくわかんない」
『つまり、俺様の身体はペンダントの中で封印され、何故か精神はこうして自由に会話出来ているということだ』
「じゃあ、とりあえず一命は取り留めてるって事で、いいのかな?」
「今は、ですね。しかし、このペンダントがどういった代物なのかわかりませんし……。安心は出来ません」
そっか、ペンダントの中でミストの身体の怪我が進行してれば、死んじゃうかもしれないし。この状態だとご飯も食べれないし回復もさせられない。まさに封印状態だ。
『話を聞く限り、俺様の身体の損傷は激しいようだし、このペンダントから出たら死ぬと思って間違いないだろう』
そうだよね。あの身体だもん。ペンダントから出てきたら一瞬で死んじゃうんじゃないかな。本当に危機一髪だったと思うと肝が冷える。
「ミストって、私たちのこと見えてるの?」
『ああ、ペンダントの向いてる方向だけだがな』
「ふーん、まぁいいや。とりあえずこのペンダントはクロリアに渡しておくね」
私がクロリアに青灰色のペンダントを差し出すと、それを愛おしそうにクロリアは両手で優しく受け取った。
「まさか、私の手の中にウィロー様が収まる日が来るなんて……」
クロリアは、私が引くくらい恍惚とした表情で青灰色のペンダントを見つめると、ギュと胸に抱いた。
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