12杯目:ギルド到着
「やっと着いた……」
私は巨大な剣が突き刺さった建物、冒険者ギルドにやってきた。なんだかここまで、やたら遠回りした気がする……。
ぎゅるるる……。
「お腹空いたなぁ。早く用事を済ませて帰ろう……」
頭が少しくらくらする。町の人の多さに少し酔ったかもしれない。数えきれないくらいの人が往来しているニールベルト王国は、立ってるだけで目が疲れる。
「すー、はー」
気持ちを落ち着かせて、いざ冒険者ギルドに入ろうとしたら、中から活気のある声が聞こえた。
「ガーハハハハ! やれやれー!」
「がんばれがんばれー!」
「オラァ!」
「ぐはっ!」
なんかドカバキと何かを殴る音とか、怒号が聞こえてくるんですけど……。めちゃくちゃ入りづらい……。
でも身分証とやらだけは作らないとまずいよね……。
きっと冒険者になるにしても、この街で働くにしても身分証は必要だと思うし……。
はぁ、働きたくなくて奴隷を選んだのに、まさかあんな展開になるなんてなぁ……。やっぱりちゃんと働かないとダメなのかな……。
と言いつつ、本当はミストの屋敷にいれば働かなくてもいいんじゃないかなっていう、甘い考えもある。
でも、借りた金貨五十枚も返さないといけないかもだし……。頑張れ私! このチャンスを活かそう! よしっ!
私は自分を鼓舞すると、勇気を出して冒険者ギルドへ足を踏み入れた。
「お邪魔……します……」
埃っぽいギルドの中を見渡すと、左側では屈強な冒険者達がお酒を飲んで騒いでる。どうやらギルドには酒場が併設されているようで、給餌の女性が慌ただしくお酒を運んでいるのが見えた。
方や右側には壁一面に紙が貼ってあり、それを手に取って選んでる冒険者の姿がチラホラ。たぶんいろんな依頼が貼ってあるのかな。
そして、真ん中の受付らしきところに、三人の女性が立っていた。
これが冒険者ギルドか――。
村に来る冒険者の人から話を聞いたり、本で読んだことはあるけど、実際に見たのは初めてでなんだか感慨深いものがある。
とりあえずお酒を飲んでる人達に絡まれないように、右の壁沿いにコソコソと移動して受付へたどり着いた。
おっかなびっくり入ったけど、私が小さいからか誰も気にも止めてないようだ。
受付の三人の女性は、左にはおっとりした雰囲気で腰まで伸びた濃い青色の髪の女性。
真ん中には短めの金髪とにこやかな表情が印象深い女性。最後に、後ろでひとつ結びにした赤紫髪でキリっとした顔の女性、あれがネリネさんかな。
私は恐る恐る、赤紫髪のネリネさんらしき人に声をかけてみた。
「あの〜」
「あ”? ガキが来るような場所じゃ……。っと、失礼しました。ようこそいらっしゃいませ。本日はどのような御依頼でしょうか?」
ネリネさんは私の恰好を見るや否や態度が一変した。どうやら私を依頼する側の貴族と勘違いしているっぽい。そうだよね。明らかに冒険者達とは、服装のグレードが違うもんね。
「あ、えーっとクロリアさんに言われて、身分……しょ?!」
私が話していたら、高速で突き出されたネリネさんの手が私の口を、強引に塞いだ。
「むぐ?!」
「んだよ。そういうことかよ。早く言えやボケが……。上客が来たのかと期待したじゃねぇかよ。で? 金はあるんだろうな?」
優しそうな笑顔から、先ほど見せた引きつった顔へ一変した。きっと、こっちが素の彼女なのだろう。
私は口を塞がれたまま、恐る恐る金貨の入った袋をネリネさんに差し出すと、ネリネさんは私から手を放して雑に中身を数え出した。
「……おい、三十九枚しかねぇぞ? あれの手配は金額四十枚って言っておいたはずだが?」
「えーっと。あの、その……」
やばーい! 足りないじゃん! 変な占い師に金貨一枚取られたせいだよ! もっと言えばウェルドの串肉に金貨十枚も取られたからだよ!
「ったく、こっちだって慈善でやってんじゃねぇんだぜ?」
ど、どうしよう……。まずいよね。
なんとかツケにしてもらえないかな……。
「あの、今度持ってくるので……。なんとかやってもらえないでしょうか?」
「はぁ――仕方ねぇな。利息は五倍だぜ?」
「お、お願いします」
あああああー。どんどん私の借金が増えていく~。
クロリアから渡された金貨五十枚と、ネリネにツケてもらった金貨の利息五枚。合計五五枚……。お父さんの月収の年々分よ……。
「名前は」
「あ、ルルシアンです」
「じゃ、あっちのテーブルで待ってろ」
ネリネさん酒盛りをしている冒険者たちがいる場所を指差した。
あの中に放り込まれるなんて無理……。
「あの、ここで待たせて……」
「あっちのテーブルで待ってろ」
「はい……」
ダメだ。ネリネさんの凄味には勝てない。
諦めて回れ右してギルドを見回すと、テーブルはほとんどが埋まっていて相席しか空いて無さそうだった。私はその中でも、大人しくご飯を食べている黒髪の青年を見つけて向かいの席に座った。
「相席すみません……」
青年は長い前髪の隙間から、チラっとこちらを見ると少し驚いた顔をした後、興味無さそうに食事を続けた。
ぎゅるるる……。
めちゃ良い匂い……。
青年が食べているのは、お肉と野菜の炒め物だった。緑や赤の野菜と細切りのお肉がタレに絡まっていて、ほんのりピリッとした匂いも混じっており、お腹の空いた私には刺激が強すぎる。
「な、なんだよ……」
よだれを垂らしながら凝視していた私が気になったのか、黒髪の青年は話しかけてきた。
「あ、ごめんなさい。あまりに美味しそうで……」
「は? 嫌味かよ。お前ら貴族様から見たらゴミ飯だろうな」
あー。すごく勘違いしてらっしゃる……。
まぁこの格好は冒険者には見えないもんね。
「えっと私は……」
私が弁明のために言いかけたときだった。
「てめぇ。何勝手に座ってやがる」
野太い声に反応して振り返ると……。
私の背後には、巨大な剣を背負ったヒゲモジャの大男が立っていた。
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