5杯目:腹ペコの狂戦士
「あ! テメェら! どうやって鉄格子を!」
階段から、荒々しく奴隷商の手下達が降りてきた。
見える範囲で三人。一番手前にいるのは私を鞭で叩いた坊主頭。この声にあの筋肉……。普段の私なら怖気付いちゃうところだけど、今の私なら戦える!
鞭を使われる前にと、私は思いっきり地面を蹴った。
ドゴンッ!
一瞬の出来事だった。
駆け出した私は、超高速で体当たりを繰り出すと、突き飛ばされた坊主頭の男は壁にめり込んで気を失った。
「え? 速っ! な、なんだこの女?! やっちまえ!」
背後に控えていた二人が、剣を持って襲ってきた。
いくら強くなっても中身は私。「ひっ」と身構えた私の腕に剣が当たって……。パキンと折れた。
「バカな……。剣が折れただと?!」
「わ、うわぁ……。私の身体すご……。剣も効かないんだ……。よーし! もう怖くないもんね! えーい!」
「がはっ!」
「とりゃー!」
「ぶはっ!」
襲ってきた二人の奴隷商の手下も、壁にめり込んで意識を失った。
「ほぉ、まさかこれほどまでとはな……」
いくら空腹時しか使えないといえ、強すぎる。
一瞬で三人の男性を倒してしまったこの力を恐ろしく感じたが、それ以上に何の取り柄もない自分にも、こんなにすごいスキルがあった事を、嬉しく思った。
「よーし! ミスト! 逃げるよ!」
ポキッ!
「痛っぅうおおぉ……。お前ぇええ!」
元気よくミストの右腕を握ったら、ミストの右腕が折れ曲がった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
力加減が難しすぎる……。
ぎゅるるるるぅぅ
痛がるミストを他所に、私のお腹が限界を告げる。
「あー、やばい。お腹空いた。本気で倒れそう……」
「くそっ、時間がねぇ。いいか? お前は上の雑魚を倒せ。俺は奴隷契約書を探す」
契約書? あー。ここから逃げても奴隷だった証拠があると、後々色々と面倒だもんね。さすがミスト。
「うん! わかった! 腕、ごめんね!」
「後で責任は取ってもらうからな!」
ミストの本気の目が怖くて、私は階段を破壊しながら駆け上がった。飛び出した先、部屋の中には危険を察知したのか、男たちが武器を構えて待っていた。
「脱走だ! やっちまえ!」
「時間がないから遠慮しないよ!」
男は全部で五人。それぞれが武器を持っている。誰が一番強いかなんてわからないから、私は坊主頭を倒した時みたいに、片っ端から体当たりをした。
シュン! ドゴン!!
残像と化した私の体当たりを受けて、細身の男は壁にめり込んで気を失った。
「な、なんだ?! こ、ゴハッ!」
驚く隙も与えずに、金髪の男にも体当たりをお見舞いするとタンスと私に押しつぶされて男は気を失った。
「うぁあああああ!」
残りの二人が鉄パイプと剣で私に襲いかかったが、鉄パイプはひんまがり、剣は先ほどと同様に砕け散った。
「バ、バケモノ……」
「えーーい! ダブルパンチ!」
近くにいたから、思いっきり二人にパンチをお見舞いした。私のパンチを受けた二人はそのまま壁を突き破り、どこかへ飛んでいった。
ガチャ
まずい、一人逃げた。
私ももう限界が近い。
ここで増援を呼ばれたらまた牢屋生活だよ。私はさっき殴られた鉄パイプを拾うと、思いっきり投げつけた。見事に逃げた男性の頭に当たるとその場に崩れ落ちた。
「よし、これで全部かな?」
ぎゅるるるる〜
「うへぇ、もうむりぃ」
ふらりとテーブルに手をついた時、どこからか美味しい匂いが鼻腔をくすぐった。
「おにく……? お肉!」
バッ! としゃがむと、床に落ちてる骨付き肉を見つけた。
じゅるり……
「いっただきまーす!」
私は遠慮なく、拾った骨付き肉に齧り付いた。
冷えていたけど、表面はパリッとしているのに肉は柔らかくジューシーで、溢れ出す肉汁とスパイスが見事な調和を奏でていた。
「うーわ! おいしぃいーーー!!」
久しぶりの食事に口が、舌が、喉が、胃袋が喜んだ。私の全細胞が喜びの産声をあげている。
「おぎゃーー!」
「ついに頭がおかしくなったか」
両手を上げ喜んでいた私に水を差したのは、ホコリまみれで階段を登ってきたミストだった。
「お、乙女の食事を勝手に見ないでよ!」
「死屍累々の中、肉を片手に産声を上げる奇行のどこが乙女だ」
「もう!」
私を罵りながらミストは机の近く、男が埋まってるタンスを調べ始めた。例の奴隷契約書を探しているんだろう。見てもわからないし、私は一人骨付き肉を齧り続けた。
むしゃむしゃむしゃ
「おい、ルルシアン」
「
「これを見ろ、お前の奴隷契約はやはり無効になっていたぞ」
ミストから【奴隷売買契約書】と書かれた書類を受け取ると、そこに書かれた私の名前には射線が引かれていた。
「これってどういう……。あーーー! ちょっと! 私のお肉! いつの間に取ったのよ!」
「もぐもぐ。さすが奴隷商、なかなか美味い物を食ってやがる」
「それは私の!」
骨付き肉をミストから奪い返したけど、既に半分くらいまで食べられてしまった。
「ひぃい……。私の骨付き肉ちゃんが……。およよ」
齧られてしまった骨付き肉ちゃんを見て悲しみに暮れると、背後でミストが何か床から拾ったのが見えた。
まさか骨付き肉がもう一本?! と期待を胸に振り向くと、ミストは折れた剣を私に突きつけた。
「……はぁ、仕方ねぇ。お前で我慢するか」
「ミスト……?」
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