2杯目:ドナドナ
ガタゴト ガタゴト
私はいま、ガタガタと揺れる作りの悪い馬車の荷台で揺られている。両手と両足は縛られ、顔に黒い布が巻かれていて何も見えない。
いまどこら辺にいるのかもわからない。いや、どこに向かってるかはわかる。奴隷市場だ。
あの日、私は村の総意として売られてしまった。でも、仕方ないよね。
「奴隷になっちゃったけど。これで村が救われて、私は毎日美味しいご飯が食べられるなら、ありかな?」
「あんたバカ?」
突然、女の人が私をバカにした。
黒い布で顔を覆われているからわからないけど、同じく馬車の荷台に乗せられてる奴隷仲間だと思う。
「あのー。私に言ったの?」
「他に誰がいるのよ。あんたねぇ、奴隷がおいしいご飯を食べれると本気で思ってんの?」
「え? だって、私達は大切な商品でしょ? 餓死したらまずいからご飯くらい……」
「はぁ――。大切な商品? 本当にバカね。私たちなんて、まっずい飯を食べさせられるに決まってるでしょ」
「ま、まずいご飯?! それはどれくらい……」
「さぁ知らないけど、水で膨れさせたべちょべちょの麦とか、虫とかじゃない?」
「え……」
嘘でしょ? 虫ご飯? 私の働かないで楽においしいご飯にありつく計画が始まる前から崩壊した。
「奴隷になれば、誰かに買われない限り働かないでご飯を食べれると思ったのに……」
「はぁ? あのね、奴隷として誰かに買われたら、雇い主の命令に従って働かないといけないのよ? 給料なしで働かないといけないのよ?」
ガーン。
私は天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。まさか奴隷がそんなに過酷な待遇だなんて思っても見なかった。
「あの……。奴隷って、働くのにお金も貰えないで、虫ご飯?」
「いや、虫ご飯かどうかは知らないけど、まぁ人としては扱われないでしょうね」
もやは私は、ショックで声も出なかった。
完全に人生の選択を誤ってしまった。それなら素直に冒険者になっておけばよかった。
あんな村なんか放っておいて、逃げればよかった。
「そうだ。逃げよう……」
「え? いや、無理よ。私たち手枷に足枷まで付けられて視界も見えないし、馬車の中よ?」
「うぅ……。ぐすん。帰りたいよぉ。暖かいご飯食べたいよぉ」
後悔しかない。
走馬灯のように村での生活が脳裏をよぎる。日に当たった干し草の柔らかさ、冷たい井戸水のおいしさ、最近は食べれてないけど父が作った野菜や果物のおいしさ……。
「ねぇ、あんた名前は? 私はアザレア、十七歳よ。よろしくね」
「……ルルシアン、十五歳」
「素敵な名前ね。ルルシアン、そんなに落ち込むことないわよ。買ってくれる人が裕福な人なら、そんなに酷い扱いはされないし」
でも、酷い人に買われたらどうするのよ……。きっと酷いイジメをされるんだ。ご飯を床にわざとこぼして「飯よ。ほら食べなさい」とか、やられるんだ……。
「うぅ……。お腹空いたよぉ。おいしいご飯が食べたいよぉ!」
「うるせぇぞ! さっきから聞いてりゃ、飯だなんだとガキが!」
突然、若い男に怒鳴られた。
視界がゼロなので、私とアザレアしかいないと思ってたから、驚きすぎて心臓が止まるかと思った。いや今ので確実に寿命が一年は縮んだ。
「ぐす。どこの誰か知らないけど、私の事情も知らないくせに」
「事情だ? ここにいる奴らは多かれ少なかれ、何かしら事情があるに決まってるだろ。お前みたいなアホがいなくなって、親はせいせいしてるだろうよ」
カッチーン
私をバカにするのは構わないけど、お父さんをバカにするなんて許さない!
声の方向からして、こっち?!
「えい!」
ゴン
鈍い音をして、私の頭突きが男の子に決まった。
「痛ってぇ! なにしやがる!」
「ふんだ! お父さんを悪者呼ばわりしないでよ! 私は自分の意思で奴隷になったんだか!」
「はぁ? 自分の意思で奴隷? なにを言ってやがる。この馬車は……」
「だって! 私が売られれば、村にお金がはいるんだもん! そしたら冒険者を雇って、村をモンスターから守ってもらえんだから!」
まだ頭がジンジンする、感情に任せて頭突きなんてするんじゃなかった。
「……待って、村にお金? ルルシアン、それはどういうこと? 詳しく話してくれる?」
「えっとね。私の村は最近不作続きで――
私の村が過去は農業で栄えていたこと、現在は不作で食べ物がなくモンスターによる被害も出ていること、村の集まりで私を売る事が決まり、そのお金で食料の購入や冒険者の雇用に充てる話をした。
「ククク、これは傑作だ」
「あのね。ルルシアン、この馬車は……」
「良いことを教えてやるよ。お前、騙されてるぞ」
「へ? ど、どういうことよ!」
男の子が、バカみたいに笑い転げてる音が聞こえる。騙されてる? 私が? 意味が全然わからない。
「ちょっと! あんたは黙ってて! あのね。ルルシアン。よく聞いて、この馬車は
「え? 犯罪者……専用?」
どういうこと? 私は何も悪い事をしてない。
ただ仕事の手伝いもしないで、ぐーたらご飯を食べて過ごしていただけ……。迷惑をかけるようなことなんてしてない……。
「ルルシアンは、何も悪い事をしてないのよね?」
「うん、本当になにもしてないよ?!」
「ククク……。なら、答えは一つしかねぇだろ」
意地悪い声で男の子が語った真実は、私にはとても信じられない答えだった。
「お前の村を夜中に襲ったというモンスターの話。それはモンスターじゃなくて、お前だったんだろ」
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