俺がこっそりメイド喫茶に行ったら、何故か隣に住む幼馴染が毎朝メイド服姿で起こしにきてくれるようになった件
長根 志遥
第1幕
1〜16
第1話 許せない……!
【表紙絵を近況ノートに貼っておきます♪】
https://kakuyomu.jp/users/naganeshiyou/news/16817330667752917596
◆
「……ん? あれ……貴樹よね……?」
だんだんと寒さが厳しくなってきて、冷え込んだ11月最後の土曜日、美雪は駅前にふらっと買い物へと出ていた。
そこで、こそこそと歩く幼馴染の貴樹を見つけて、眉を
キャップを目深に被っていたけど、いつも見慣れたその歩き方、姿格好は見間違えようがない。
「……あやしい」
彼のことは何でも知っていると自負していたけれど、そんな姿を見たのは初めてだった。
(これは調べないとダメね……)
美雪はバレないように後を尾ける。
彼はしきりに周りを気にしているような様子だったけど、当然見つかるような失態はしない。
細かく監視しないとサボってばかりの彼に、優等生の自分が遅れを取るようなことはないのだから。
眼鏡の奥の真剣な目が、彼を視界に捉え続ける。
そして、彼が駅前のビルに真っ直ぐ入っていくのを見届けた。
「え……! あそこって……」
美雪も知っていた。
あのビルの2階に入っているのは、いわゆるメイド喫茶だ。それ以外の店は居酒屋とかだから、彼が行くような店じゃないはず。
ポカーンと開いた口が塞がらない。
(あ、あんな趣味があったなんて……)
美雪は街角で呆然と立ち尽くした。
知らなかった彼の一面を知ったと同時に、なんとなく釈然としなかった。
そして、ふつふつと怒りが湧いてくる。
(ゆ、許せない……!)
彼女ってワケじゃないけど、昔から隣に住んでいて、毎朝起こしに行ってあげてる自分がありながら……あんなところに行くなんて。
きっと、あの中では鼻の下を伸ばして、メイドさんを眺めているに違いない。
……どんな場所なのか、詳しく知らないけれど。
(しかも、この私に隠れてなんて……! 絶対後ろめたいからよ)
すぐさま近くの物陰に隠れて、彼が店から出てくるまで、監視する。
近くを通る人がそのオーラにビクッとすることなんて、全く気にしない。
じーっと、ただひたすら入り口を注視していた。
そして、貴樹がビルから出てきたのは、きっかり2時間後だった。
それだけの時間、この寒空の下で待っていたことと、彼のその顔が満足そうに見えて、美雪は更に眉間に皺を寄せる。
(こうなったら……!)
そして、ある決意をしてひとり頷くと、彼女はゆっくりとその場を離れた。
◆
――翌朝。
(うぅ……やっぱり恥ずかしい……)
美雪は手に取ったメイド服を広げてみて、ごくりと唾を飲み込んだ。
フリフリのフリルが付いた、スカートが少し短めの服で、昨日勢いで買ってきたものだ。
意を決してその服に着替えると、頭にもフリルの付いた白いホワイトブリムをしっかりと装着した。
(うわぁ……)
鏡で自分の姿を上から下まで確認する。
変なところは無いけれど、正直……とても他人に見せられるような格好じゃないことは確かだ。
見られることを想像するだけで、顔がどんどん火照ってくるのが自覚できて、冷たい両手で頬を押さえた。
「ふー」
目を閉じてひとつ大きく息を吐き、少しだけでも気を落ち着ける。
そして、メイド服の上からロングコートと帽子を身につけ、美雪は自室を出た。
◆
貴樹は朝起きるのが苦手だった。
高校に行く平日は、隣に住む美雪が何故か叩き起こしに来るから、仕方なく起きていたけど、休みの日はいつも昼まで寝るのが日課だ。
だけど、この日は違った。
「ほらっ! 起きなさいよ!」
平日と変わらないような時間に、突然耳元に大きな声がかけられた。
「――な、なんだよ……! 今日は日曜じゃねーか……?」
ゆっくり寝るつもりでいた貴樹は、予想外のことに驚きつつも目を開ける。
だが、その目に飛び込んできた光景に、更にびっくりして一気に目が覚めた。
「――み、美雪! どうしたんだよ!!」
そこにはメイド服姿の美雪が立っていたからだ。
しっかりとニーソックスまで身に付けていて。
「い、いつも貴樹は休みの日グータラしてるみたいだから……生活リズムを叩き直そうと思って!」
「いや……そうじゃなくて! なんでそんな格好なんだよ⁉︎」
貴樹が指摘すると、美雪は頭から湯気が見えるほど、顔を真っ赤にして答えた。
「へ、変態のあんたなら、このくらいの方が起きるでしょ! ――ほ、ほら、さっさと起きるっ!」
「お、おう……」
美雪が勢いよく布団をひっぺがすと、貴樹は戸惑いながらも身体を起こした。
ただ、ちょうど目の前にある、美雪の太もも――ニーソックスとスカートの隙間からちらちらと覗く――に、目が釘付けになる。
「…………あっ!」
そのとき、美雪はふとパジャマ姿の彼の下半身に目が行った。
そこには――。
「なっ、な、な……っ!」
慌てて顔を背けたものの、元気になっていた彼のものが目に焼き付いていた。もちろんパジャマ越しではあるけれど、はっきりとわかる。
「朝だから仕方ないって! 美雪とは関係ないから!」
慌てて弁明する貴樹に、美雪は顔を背けたまま言った。
「やっぱ変態じゃない! ――私がこれから躾けてあげるわ! か、覚悟しなさいっ!」
そして、彼の顔を横目でチラッと見た。
◆
美雪はそれから2時間ほど、貴樹の部屋でいつものようにゲームをしていた。
彼女は子供の頃から、たまに何の前触れもなく彼の部屋に現れては、息抜きにゲームを好きなように楽しんで帰る。家にゲームがないことも理由のひとつだと、貴樹は思っていた。
メイド服のまま座布団に座ってゲームをする美雪を、貴樹はベッド脇に座って彼女の後ろからぼーっと眺める。
(にしても……なんで急に……)
お節介焼きの彼女は、少しでも貴樹がサボろうとすると、ことあるごとに小言を言ってきた。
正直言って、時々ウザいと思うほどに。
今の高校だって、美雪の成績ならずっと良い所に行けた。
なのに、「あんたの面倒見ないと将来が心配だから!」などと言って、同じ高校へと進学することになって――結局今も同じクラスで毎日勉強している。
これで付き合ってないということを知ると、友達の誰もが驚くけど、なんというか……もうそれが日常になっていた。
だから、突然美雪がこんなことをしたのに驚いたのだ。
(でも……これはこれで……)
いつもと同じで口煩いのは変わらない美雪が、今は黙ってゲームをしているのを、ベッドに腰掛けて後ろから眺めていた。
肩に触れるかどうか――ほんの少し癖のある黒髪と一緒に、頭や服のフリルが、ゲームの画面と連動してリズミカルに揺れるのが可愛くて、なぜかドキドキさせられる。
逆に、美雪は彼の視線を背中にひしひしと感じていた。
(うう……めっちゃ恥ずかしいよぅ……)
そう思いつつも、気にしている素振りを見せるわけにはいかない。
だから、ゲームのローディング中、何気なく振り向いたかのように装って、普段と変わらない表情で彼の顔を見た。
「……なにジロジロ見てるのよ?」
「あ、いや……その服可愛いなって……」
しかし、貴樹が何気なく発したその言葉に、美雪は瞬間湯沸かし器のように、一瞬で顔を真っ赤に染める。
「あっ、あ、当たり前でしょっ!」
それだけ答えると、美雪は慌ててゲーム画面に顔を戻した。
――その日はただの美雪の気まぐれだと、貴樹は思っていたのだったが……。
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