呪い4 乱戦【CONFUSE】

 ルルラルカです。

 えーと。

 当時、フランとブレシーが私の町にいて、フォルティマが向かって来てたのか。

 お姉様、お姉様うるさいんだよ。私の取り巻きたち。

 結局24人全員ザックの嫁になったし。

 私も結婚しておいて何だけど。アイツの何がいいんだよ。

 はあ。

 いや。

 ザックとは、お互いファーストキスなんだけどさ。

 はあ。


 +


 ブレシーちゃんだ。

 顔と名前を知ってる相手を仕留める「きょくしゃつい【CATCH YOU】」って魔法がある。弾。

 だけどなー。殺しちゃうし。

 フラン仲間にしてえ。

 だから、こうして尾行中。

「ねえ……」

 にゃおーん。

「あのさ!」

 ぱおーん。

 象ってどんな生き物なんだろう。

「お金なら返さないよ?」

「お前が欲しい」

 ブレシーちゃんはキメ顔を作った。

「決闘?」

「町中でかい? ハニー」

「殺す……!」

 どうしよう。

 口説きたいのに。


 +


 そこに私が通りがかったんだよなあ。

 いや、仲裁なんかしない。

 ただ、女冒険者2人が揉めてたのは覚えてた。

 再会したのはいつかって?

 あー。

 だいぶ後。

 私、ルルラルカ。


 +


 あ。やべえ。

 フランに金貸勇者【MONEY WARS】使うべきだった。

 温いぞ。ブレシーちゃん。


 +


 このフォルティマ=レバーオード様に敵はいない。

 腰の魔剣、一も二もなく【ONE TWO SLASH】も出番がない。

 高かったのになあ。

 隊商の護衛中なんだ。

 予定通りモナガンとは逆方向。


 +


 うーん。

 どうしよう。

 逃げたい。

 炎の魔法目立つのよね。

 サメはもっと目立つ。

 どうしよう。


 +


 ブレシーちゃんの何が嫌なんだ。

 お前、アルローニャの娘か? あ?


 +


 トゥーニー=マープル14歳。

 獣の魔法使いだ。

 お姉ちゃん。ルルラルカさんに恋したってしょうがないってば。

 普通に男が好き……あ、いや、違う。

 男は嫌いそうだ。

 だからって、お姉ちゃんとは結婚しないよ。

 現実見ようよ。

 ああ。

 役に立たないんだよなあ。この魔法。

 猫とお話ししても「お前誰にゃ?」しか言わないし。

 畜生にホスピタリティねえの。

 かと言って使い捨てるのは可哀想だし。

 ハーレムか。

 あのルルラルカさんと結婚出来るくらいの男なら愛人やってもいいよ。

 お姉ちゃんもついでにあげる。

 姉妹婚。

 別に?

 不思議と抵抗感はない。


 +


 お察しの通り。

 この子も嫁だ。

 マハエルでした。


 +


 豚とお話ししたことがある。

「お前たち食べられるんだよ」と言ってみた。

「食べるってなーに? 餌餌餌」

 これが返事。

 何か近所のクソガキを思い出してムカついた。

 結婚したくない。

 お姉ちゃんの気持ちが分かった。

 かと言って、ルルラルカさんはねーよ。


 +


 ふむ。

 オルハラ王国はコルノルドの町だ。

 王都はちょっと遠い。

 逃げたい。あの24人から。


 +


 お姉ちゃんの同類にも妹がいる人は何人かいる。

 訊いてみたいな。

 お姉ちゃんと旦那を共有するのはアリかって。

 私はいいんだけどな。

 お姉ちゃんをいつまでも監視出来るし。

 同性を好きになる馬鹿姉だもん。

 私が見張ってないとどうなるか。

 男に耐性ないよ。

 スーパーハーレム王に見初めてもらうくらいでちょうどいいかも。


 +


 あー。どうするかな。このブレシーとかいうガキ。

 肉体灰化【BURNING OUT】って魔法があるんだけど。

 3時間くらいかけてあぶりにするから悲鳴がなあ。


 +


 うーむ。

 フランに嫌われたっぽい。

 困ったな。

 男いるのか? コイツ。

 魔法使いの男ってしょうもないんだけど。

 友達作らないから。

 官憲にもいきがって、すーぐ捕まるんだよ。

 役に立たなかった。あの「幻」の魔法使い。

 街中でミノタウロスの幻影なんか出しやがって。

 ブレシーちゃん。アイツを射殺するしかなかった。

 潔白の証明のため。

 このガキ、人を殺したことはないな。

 温い。


 +


 このブレシー、何歳だろう。

 13歳くらいかな。


 +


 このフラン、14歳くらいだろう。

 子供め。


 +


 ここに私が通りがかった。

 旅装束。殺気。

 明らかに冒険者だ。2人とも。

 私、ルルラルカ=バケツプリーヌは逃げた。

 手の内を知ってしまえば、「烈光れっこうでん【DEADLY GARDEN】」で吹き飛ばせたと分かるんだが。

 まあ、やらん。

 安くないんだ。魔法とは。

 炎と弾か。

 アネッティアに比べれば。


 +


 吟遊詩人なんか目指したのは間違っていたでしょうか。

 セシリア=エミルル15歳。

 草の魔法使いです。

 どうしような。

 毒殺に使えるんだよ。私の「毒毒花どくどくばな【PRETTY POISON】」。

 危険なんだ。私。

 うーん。

 英雄譚か。

 8本腕以外弱いし。

 かと言って、あの大量殺戮集団は800年経っても恨まれてるし。

 吟遊詩人喰いっぱぐれ。

 恋の歌か。

 いいんだけど。

 口説かれるんだよね、私。適齢期だって。

 ねーよ。このプーどもが。

 冒険者なんて隊商の運ぶ荷物だろうが。


 +


 はあ。ライオネル?

 ふーん。

 毒律毒狐ライオネルか。初耳です。

 歌え?

 今知ったのに。

 あー。

 リクエストとあらば。

 きゃぴっ♪


 DEATH DEATH BLACK DEATH

 HELL HELL RED HELL

 NO ONE STOP OUR BATTLE

 NO KILLING NO LIFE

 DO THE BEST FOR LIFE

 KILL KILL KILL KILL GAMBLER

 WE ARE GREAT HUMAN KILLER


 何で拍手喝采なんだ。

 おひねりどもー。あ、金貨3枚。銀貨19枚。


 +


 酔っ払い相手の商売は、疲れるのか楽なのか分からない。

 儲けたけど。

(ん?)

 私は冒険者の店の片隅に、

 1人ぼっちでいる21歳くらいの黒髪のお姉さんを発見した。


 +


 ふーん?

 ワータリ村にフタクビイノシシって魔物がいる?

 山のぬし

 美味しそうだな。

 お店開いたら儲かるかしら。


 +


 うーん。

 魔物退治か。今時か。

 名前聞かないけど。悪いことしたかな。

 こっちの名前も名乗ってない。

 この黒髪のお姉さん、何考えてるんだ。


 +


 で、ワータリ村ってどこですのよ?

「あー。店主から買って」

 へえ。


 +


 困るよ。

 そこまで事情通と思われても困る。

 神聖ログバモス王国は1年くらい。

 北のネルバルド公国の出身だ。


 +


 マハエルだ。

 このセシリアも嫁。

 トランプと言えば1から13だが。

 何故13という数字が不吉か知っているか?

 ベルーデリアの時代。

 8本腕に対抗して、

 9栄将とか、

 10鉄人とか、

 11戦将とか、

 12幻魔とか、

 とにかく色々あったらしい。他国に。

 対抗意識を燃やしたんだ。

 魔法使いがいたって伝承は聞かない。

 弱い。

 中でも1番弱かったのが、

 13無敵ヒーローズ。

 結成して13日目に、ヴェルギース将軍に皆殺しにされたそうだ。


 +


 うーん。

 手の内が読めない。このブレシー。

 ? イフリートに「コイツを倒して」って願えばいい?

 違うの。

 倒し方しか教えてくれないの。

 人目あるしね。

 うーん。

 どうしよう。

 地味な魔法見せる?

 これは仲間になります宣言だしな。杖も。

 嫌なのよ。

 チャッピー、クール、ワイルと切れるの。


 +


 人生は素晴らしい。

 歌おうか。


 湿地

 スケルトン

 にゃはにゃは

 海

 ドラゴンヘッドシャーク

 にゃはにゃは

 雪原

 ウェンディゴ

 にゃはにゃは

 砂漠

 サンドワーム

 にゃはにゃは


 まあ、行ったことないけど。

 僻地なんて。

 ボクは破断万象ヴェルギース。

 8本腕の1人だ。

 何で同僚のアネッティアはボクと目を合わせてくれないんだろう。

 ま、未婚の娘さんだから、このくらいでいいか。

 ユーディルとくっつくのかな。

 微妙。 

 アイツ、師匠の紹介で結婚するだろうし。

 メギリーアさんか。

 喧嘩してもしょうがない。

 それにしてもボク微妙。

 三点破断能力【SUMMON BLADE】か。

 死んだら風になりたいね。

 この世界をいつまでも茶化していたい。

 結婚か。

 シャクーセルより面白い子がいい。

 物足りないんだよなあ。アイツとの漫才に慣れちゃうと。


 +


 マハエルだ。

「ポワポワマイト将軍にだけは負けてたまるか!」

 そのせいで全ての国々が玉砕したという伝説がある。

 真相は不明。

 何だろうな。このふざけた苗字。


 +


 エリスノートが我が家に来なくなった。

 淋しい。

 ルミスティアもミルティーミルも。

 友達なのに。

 私も16歳かよ。

 嫌だなあ。

 フレオミアという叔母さんがいた。

 面識はない。

 私が産まれる前に、冒険者を目指して家出したそうだ。

 つまらない。

 家を継ぐのが。

 婿養子かよ。1人娘なのよね。

 ジルナード商会。

 私はイシュリア=ジルナード。


 +


 魔法王国モナガン。

 王都デルハエル。

 魔導学院の生産した魔法具を独占している。

 がっぽがぽ。

 いいんだけどね。

 2社以上におろすと値下げ合戦が始まって儲けが減るか。

 なるほど。

 婿か。

 ふーん。

 貴族? 勘弁して欲しいな。

 英雄の子孫ね。

 所詮、非魔法使いでしょう?

 あんたと祖先、血繋がってないよ。賭けてもいい。

 ああ、嫌だ。

 だけど、男ってこういうもんかなあ。

 あーあ。

 男と結婚するくらいならミルティーミルちゃんと結婚したいよ。

 可愛いんだ。あの6歳下。おどおどしてて。


 +


 マハエルだ。

 つまりザックはジルナード商会の会長を継いだんだ。

 普通なら従業員の嫉妬がエライことになるが。

 闇、力、光、光、歌、獣、炎、風、炎と風、草、錆、弾。

 レア魔法使い一杯連れて来たから、魔導学院感謝状でも足りん。

 フォルティマとエリカが魔法使いなのは分かったが。

 いくら金を積んでも属性教えてくれないんだなあ。あの2人。


 +


 フォルティマだ。

 あー。

 仲間と言うか。

 護衛の1人に絡まれた。

 俺に抱かれろって。

 あー。

 仕方ないな。殺す。

 剣を抜こうとしたら逃げた。

 困ったな。盗まれる。

 うーん。

 どうする?

 一も二もなく【ONE TWO SLASH】の真の効果を見せるとか逆効果だし。

 そうなんだ。

 脅しって逆効果なんだよ。


 +


 このブレシー。どうすれば引き下がるの。

 お目当ての指輪売ってあげたんだから帰ってよ。


 +


 困るな。

 金貨10枚がムカついてるのかな。ブレシーちゃん。

 魔法使いと魔法使いか。

 同性魔法使いと会った経験はないな。

 うーん。

 どうすればいい?


 +


 あー。

 どうしよう。

 炎の魔法。

 もしくはサメ。

「誓え」

 何?

「もし再会出来て」

 何?

「お前に仲間がいなかったら」

 はあ?

「ブレシーちゃんと組むと誓え」

 へえ。

 もし再会して?

 不運にもチャッピー、クール、ワイルが死んでいたら?

 仲間になれ?

 あー。

 私が魔法使いと見切られてるんだな。

 うーん。

「約束は出来ない」

「そうか」

「だけど、あなたの好意は覚えておくわ」

「分かった」

 帰っちゃった。

 こんなものなのね。

 魔法使いの仲間か。

 確かに欲しいけど。

 怖いな。

 分け前で揉めたりしたらどうするの?


 +


 そうか。

 誓わないのか。

 不発だな。

 弾魔法「虚言粉砕【KILL LIAR】」。

 良しとする。

 このアレクラルク王の指輪【HONEY】。

 変態助平王様に、いくらで転売出来るか。

 温いなあ。こんな物、金貨10枚ぽっちで売るなんて。

 あれ?

 ん?

 ブレシーちゃんも可愛い女の子だぞ?

 こんな物を男にプレゼントしたら、

「私もハーレムに入れてください!」

 のサインにならんか?

 うげ!

 何だ、このカスアイテム!

 金返せ!


 +


 あの指輪、生理的に嫌。

 ロクなことになりそうにないから押し付けちゃう。

 仲間3人が欲しがりそうだし。

 仕方ないのよね。

 健康な若い男なんだから。


 +


 ぐがー!

 どうする。

 曲射追尾【CATCH YOU】使うのか?

 だけど。

 ガードされそうな気がして来た。

 アイツ強いな。

 水ではないな。

 炎に金貨5枚。

 んー。


 +


 ブレシーの魔法属性何だったのかしら。

 土? 石?

 何か攻撃力高そうだった。

 風ではなさそう。

 うーん。

 魔法使いだけど、戦闘は素人なのかな。私。


 +


 ヤバいな。

 男と組めなくなった。

 男に雇われるのも危ないって。

 冒険者廃業じゃないかよ。

 似顔絵描きでもして喰って行くか?

 ブレシーちゃんジャガイモの目利きは得意だ。


 +


 アレクラルク王の指輪【HONEY】か。

 6000人もお嫁さんもらってどうするんだろう。

 男って……。


 +


 んー?

 この指輪ヤバいな。

 助平で造らせたとは思えない。

 あのアレクラルク王の8本腕のアレクラルク王が。

 これ暗殺用アイテムだったりしないか?

 敵国の王女様に使う。

 浮気する。

 あっという間に子供産めなくなる。

 敵国消滅。

 んー。

 いや。

 罪工幻匠、女なんだよ。

 協力するとは思えない。

 ブレシーちゃんが正しい。

 金貨5000枚賭ける。


 +


 あー。

 せいせいした。

「お帰り! フラン!」

 ただいま! チャッピー!

 ふぅ。落ち着く。


 +


 困ったな。

 知恵のある所を見せればフランなびいたかも知れないのに。

 今更遅い。

 ブレシーちゃんは孤独だ。

 ベルーデリアの時代って地獄だったらしいな。

 今以上の。

 道理で憎まれてるわけだよ。8本腕。


 +


 はて。

 死体がそんなに怖いのか。

 良く見れば可愛いだろう?

 屍毒は発生しないぞ。

 きっちり消毒してある。

 ふーん。

 あー。

 すまん。

 40歳のオッサンに告白されて機嫌が悪い。

 15歳の少年ならお嫁さんに出来るじゃねえんだよ。

 とりあえずゾンビにした。

 この群骸操演ユシュラエルを、そういう目で見るな。


 +


 アジリア。

 勉強はいいのですか。

「あのね。イブニー。隠してることない?」

 えー。

「誰にも言わないから」

 ああ。

 まあ、あなたは口が堅いですね。信用してます。

 うーん。

 でも、聞きたいですか。

 後悔しますよ。

「いいから」

 はい。

 …………。

「裏の名が名前で表の名が姓?」

 はい。

「トランプ?」

 はい。

 ダイヤ、ハート、クラブ、スペード。

「分かった。言わないで。オグフィスにも」

 はい。

 そのつもり。

 4人組の冒険者なんです。神は。

「やめろ」

 ええ。

 ごめんね。

 こうなると思っていたから黙っていたの。

「そうね……」


 +


 イブニーを始め、皆、口が妙に軽くなった。

 何なの?

 私、始末されるの?

 ええ?

 流石に聞けない。

 何なの?

 身体が微妙に熱い。


 +


 セシリアでーす。きゃぴっ♪

 8本腕か。

 知らないって言ったら馬鹿にされた。

 知るべきかな。

 うーん。

 ライオネルね。

 後7人。

 どんな奴らがいたんだ。

 毒律毒狐。

 ふーん。

 ま、ふかしだろ。

 大陸統一なんてあるわけないって。

 あー。

 メッキャラフルーツ食べたい。

 あの黒髪のお姉さん最近見ないな。

 旅立っちゃったのか。

 ワータリ村ってどこにあるんだろう。


 +


 母の形見がある。

 いやー。

 何でこんな物を母は大切にしていたんだろう。

 5芒星ぼうせいの刻まれたペンダントだ。

 俺みたいな狩人には似合わないと思う。

 身に着けて外に出たことはない。

 まあ、盗みなんてないけどな。この田舎で。

 さ。

 また熊狩りに行こう。

 フタクビイノシシか。

 命が惜しい。


 +


 魔法に目覚めることは幸福なのでしょうか。

 戦士としての一生を強制されるということなのです。

 父よ。母よ。

 あなたたちも魔法使いだったのですか。

 わたしは怖いのです。

 戦えと?

 今の時代に?

 どうすれば。

 どうすればいいのですか。ギズーファウス様……。


 +


 嫌な村。

 どうして私をじろじろ見るの?

 女の1人旅がそんなに珍しいですか。

 ふん。

 あー。

 宿屋と村長、どちらに挨拶に行けばいいのかしら。

 まあ、いいわ。

 田舎者のしきたりなんて。

 たのもー。

「? お客さん」

 ですわよ。

 他に用があって。

「はあ」

 何ですかしら。

「いや。ここにお名前」

 ノノ=フォノーツっと。

 一晩休んだら情報収集?

 うーん。

 肉を横取りされたくないな。

 売りたいし。

 どうしよう。

 あー。

 眠い。

「ご飯ください」

「あー。待ってて」

 ふん。


 +


「チビ」

「何。サジド婆ちゃん」

「ザックに、たまにはご馳走してやると伝えてくれ」

「? いいよ。山まで行く」

「うん」

 あー。

 手ぶらかい。

 どんな魔法使いだ。


 +


 婆ちゃんに言われて来た。

 はあ。

 客がいるなんて聞いてないんだけど。

 んー。

 美人。

 だけど。

 何でこんなにつらそうなんだ。

 こんな美人に産まれて来たんだから。

 どんな金持ちとだって結婚出来るだろう?

 歳は1個上くらいかなあ。

 黒髪の女性って初めて見た。

 ふーん。

 はあ。

 綺麗だな。

 二度と見れないんだろうな。この村では。

「何か?」

「あ、すみません!」

 名前か。

 知らなくていいだろう。

 関わらないし。

 この田舎村に何の用だろう。

 分からんし。


 +


 薬になりそうな草を探してるんです。

「へえ」

 山に入りたいのですが。

「あー」

 何か。

「主の所には入るな」

 それはどこ。

 へえ。

 分かりました。行きません。

 …………。

 さ。行きましょう。

 覚悟。フタクビイノシシ。


 +


「ザック」

「婆ちゃん」

「昨日の女の子、ノノ=フォノーツさんって言うんだがね。探してみてくれないか」

「はあ?」

 俺の友軍探知【WHERE YOU】を知っているのは、育ての親のサジド婆ちゃんだけだ。

 幼馴染のアイツにも秘密にしていた。

 俺は――

(え)

「おい!」

「どうした」

「山の奥に向かってる! すぐ追いかける!」

「ああ、そうしろ」

 そして――


 +


 ようやく追い付くと。

 熊の3倍はあるフタクビイノシシ。

 それと彼女は向き合っていた。

「あんた、逃げろ!」

「邪魔!」

(邪魔って!)

 俺は――

 彼女は俺に背を向けたままだった。

 そして、

 俺は産まれて初めて、

 本当の魔法を見る。

「闇よ――捕らえよ! 黒縛こくばく【SLAVE OF DESIRE】」

(な)

 闇の鎖。

 それが巻き付いてフタクビイノシシの動きを止める。

「これは……!?」

「闇よ――呼吸を奪え。ぼうせっしょう【LITTLE MOON】」

 小さな黒い球体。

 それが、空気を吸い込んでいる?


 +


「なぁ、あんた……じゃなかった。えっと、その、ノノさん!」

「……はい?」

「あの鎖みたいなのはどれだけもつんだ?」

「……? 半日くらいはもちますよ。まあ、その前に倒し切れるとは思いますので、余計なことは――」

「良し!」

「何を……え?」

 どこすかばきばき、どこすかばき!

 俺はフタクビイノシシを倒した。

 そして――

「あの……そのお肉、もらえませんか」

「いいけど。どう運ぶんだ……?」

「闇よ――門を開け。保管倉庫【GATE DEMON】」

 ノノさんの前に黒いゲートが開く。

 フタクビイノシシの死体は今も腐らずに保存されている。

 これが、

 俺ことザック=ライオダルク20歳が、ノノ=フォノーツさんに護衛として雇われたいきさつだった。

 金に目がくらんだと言うよりも、俺より心が年下としか思えないあの人を放っておけなかった。

 いつか死ぬって。

 あー。

 変なことを言われた。

 形見のペンダントを旅に持って行けって。

 まあ。

 流石にじん不在なら盗まれるからな。あの掘っ建て小屋。

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