呪い3 旅情【NIGHT】

 師匠……。

「ん?」

 俺、才能ありますか……?

「5人、殺したろ」

 いや。

 ギリギリだった。

 俺、変なのかな。

 殴り合いに向いてない。

「あー。多分お前、アレなんだよな」

 アレ?

「魔剣適性能力者【CURSE SWORD LOVER】」

 俺が?

「ああ」

 普通の魔剣だと……。

「弱い」

 なのか。

「凡剣士と変わらん」

 ですか。

「まあ、始まりの魔法使いの端くれだ」

 それ、嘘では?

 明らかに、魔法の剣が生まれた以降に現れた能力です。

「ふん」

 封絶魔眼【MAGICAN HUNTER】も。

「だな。属性魔法使いの方が早いのかな」

 考えられる理由。

 敵対していた。

 正当性をアプローチ。民衆にかな。

「あー。どうでも良い。素振り」

 はあ。

 ふん。

 普通の魔法使いの方が、先に産まれたと思う。

 俺はユーディリス=ローレンツ。

 ユーディルでいい。

 後に斬り裂き菊花きっかと呼ばれる。

 ベルーデリアか。

 この国が、そんな名前だなんて、初めて知った。

 師匠が村に来てくれて。


 +


 父よ。あなたは、どんな人でした。

 母よ。あなたは、どんな人でした。

 わたしはユーノア=ミシャハート。

 本当の姓は知りません。

 捨て子でした。

 ギズーファウスの教会の前に。

 神聖ログバモス王国トルーザの町。

 わたしは布教の旅に出ることが決まりました。

 帰って来るなということです。

 正式な神官には成れないということです。

 見習いのまま死ねということです。

 16歳。

 全ては終わった……。

 ミシャハートというのは、古代のギズーファウス聖女の名前。

 名誉とは、金を払いたくないという意味なのです……。


 +


 不審な目で見られています。

 どうしてでしょう。

 冒険者の店。

 仕事を斡旋してもらえると聞いたのに。

 …………。

 あの。

 魔物退治の依頼は?

 私、強いのですが。


 +


 黒髪の女の子だったよ。

 私か。

 マハエル=ズツェン。

 あー。

 ユーノアは栗色の髪だったなあ。

 フランたちに会うのは、だいぶ後だ。

 私は金髪で癖毛。

 この青い帽子かい?

 格好良いだろう。

 突然だが、嘘をついてみてくれないか?

 何でも良いよ。

 うん。

 これで察しないから、君たち素人だ。

 嘘発見の魔法具なんだよ。この帽子。

 心と心【HONEST】と言う。

 嘘が見抜ける代わりに、こっちも嘘は一言も言えない。

 いやー、不便。

 どうしような。

 えーとな。

 フラン、イブニー、オグフィス、アジリア、エリカ、ルルララ、ルルラルカだったか。

 全員、ある男の嫁なんだ。

 私たち3人も。

 闘争のフレオーライに改宗してな。

 んー。

 飽きた。

 色々あった。結婚までに。

 ふぅ。


 +


 あ、カンザレー3姉妹を忘れてた。

 3女は錆の魔法使い。

 何に使えば良いんだろうな。どいつもこいつも。

 官憲に知られたら、殺されるんだよ。

 魔法使いも、始まりの魔法使いも。

 冒険者なんて用済みなんだよ。

 そう。

 民衆は、皆そう思ってる。

 あーあ。

 何故、統一された大陸がバラバラなのか。

 魔王が現れたんだ。

 8本腕の死後。

 ついばむ螺旋ナティーファヴィー。

 部下は魔将軍トーロオストと魔宰相レギール=メギール。

 だから、強い血は要るんだよ。

 だけど民衆は、すぐ忘れる。

 本当にな。


 +


 ?

 私、シャクーセル=ギガは、変な夢を見た気がした。

 珍しい物を見たんだ。

 サメそっくりの雲。

 インスピレーションが湧いた。

 3日後、それは出来た。

 破断万象ヴェルギースという男にプレゼントしてくれと要請された。

 で。

 そのヴェルギースが6人目。

 私が7人目の将軍に任命された。

 うん。

 私、女なんだけど。

 しかも、しがないエンチャンターだ。

 魔法具作成魔法使いってことだ。

 役に立たないよ? 戦では。

 うーん。

 山1つ吹っ飛ばすくらいの兵器、作れるかなあ。

 で、8人目がユーディリス。

 アイツのために、ああでもない、こうでもないと、へっぽこな呪いの剣を造り続けた。

 楽しかったなあ。

 これが8本腕の成り立ちだ。


 +


 フランです。

 本当に遺跡なんて無いのかしら。

 ねえ、チャッピー。クール。ワイル。

 こんな生活、先が無いわ。

 何とかして一発当てないと。

 でも、イフリートが言ったのよ。

 遺跡荒らしなんて終わったって。

 だけど。

 何か、じりじりすると言うか。

 運命に突き動かされてるような感覚があるの……。


 +


 マハエル長官、19歳なんだよねえ。

 私はアムリタ=ローズハートって言うんだ。

 18歳。未婚。

 付与魔術師。

 魔法王国モナガン。

 首都デルハエルの魔導学院で働いている。

 作品かあ。

 いやあ。

 この都市全体に張り巡らされた、あれこれ。

 伝承では、全部シャクーセルがやったんだよねえ。

 何者やねん。

 超える?

 いや。

 空飛ぶ船でも作らないと無理だよ。

 何者なの。

 てか、女の人?

 どういう人だったの。

 てか、結婚してたのかな。

 他の女性2名も。

 アネッティアとルルラルカ。

 信じられんと言うか。

 吊り合う男いたのかなあ。

 同僚結婚って無いの。

 同格なの。

 王様も同格。

 あ、これ秘密。

 たかが同格の男と結婚なんて無いの。

 上と言うか。逆かな。

 私より下の生まれであって欲しい。

 でもって。

 ちょっとだけ私の上に来て欲しい。

 何を持ってるかじゃないの。

 這い上がって来たかどうかなの。

 いい所のボンボン、逆境に弱い。

 要らない。

 男が泣き喚く姿なんて見たくないのよ。

 私、ベビーシッターしたくない。

 40過ぎたベイビー。

 ああ、嫌。

 また見合いの話が来てる。

 要らねえのよ。たかが爵位持ちの2代目以降。

 王家も金だけ出してろ。

 頭の悪い女を引っかけてよ。

 魔導学院所属を舐めんな。


 +


 マハエルだよ。

 女冒険者が駄目な理由を教えてやろう。

 護衛しか仕事が無いんだ。今の時代。

 敵が「強そうな護衛がいる!」と思って、逃げてくれるのが理想。

 が、しかし。

 未婚の美少女?

 襲って来るだろ。

 だから、要らないんだよ。女冒険者。

 この世界、こういう段階に来てるんだ。

 遺跡荒らし?

 はっはっは。

 やっぱり女から死んで行ったよ。

 ま、500年も昔の話だから、正確かどうかは知らねえ。

 シーカーたちはDEADした。


 +


 フォルティマ=レバーオードと言います。

 人命優先旅商人【NOISY CARAVAN】団長。23歳。

 団員0。

 さて。

 面白い話を聞いた。

 魔剣、葬礼無礼【DEAD AND MORE DEAD】か。

 とあるコネを使って、オルハラの国王陛下に会ったんだ。

 で。

 この魔剣について訊いてみた。

 ダガック家も。

 顔色が、みるみる変わった。周りの重臣たちも。

 投獄じゃ済まねえだろうなあ。

 死刑だったと思う。

 いやー。

 私の魔法属性が「時」で良かった。

 使える魔法は1個だけ。

 怪奇過去回帰【RETRY】。

 時間を15秒だけ戻す。

 私の質問は無かったことになった。

 誰も記憶が無いから。

 さて。

 どんな団員を集めよう。

 てか、何を売ろうかなあ。

 荷車だけ買ったんだけどね。

 うん。

 これ、自分でくの?

 馬なんか買っても、道中喰わせる草が無いよ。


 +


 ユーディリス。

 田舎者の癖にうざい。

 何よ。

「書類は文官の剣だろ。落とすな」

 何よ。

 私の仕事なんて、何も知らない癖に。

 私が、どんなに大変だと。

 王宮勤め。

 アイツ、いい奴だけど結婚は嫌。

 ヴェルギースともメリクツェルともユシュラエルとも違いがない。

 ライオネル?

 馬鹿。

 アレがアレクラルク陛下なのよ。

 毒律どくりつ毒狐どっこライオネル=ダル。

 POISON FOX。

 毒性受容能力者【POISON EATER】。

 本名、アレクラルク=ベルーデリア。

 単騎で外交に行って、毒無効を知らない馬鹿を、いじめるのが趣味なの。

 どうすれば良いの。この世界?


 +


 何が8本腕よ。赫嵐響奇よ。

 私はアネッティア=サリーカ。18歳。

 炎と風の2つを使えるから将軍にされちゃった。

 普通の人生で良かったのに。

 ルルラルカは好きだけど、シャクーセルは大っ嫌い。

 あのアホ。

 炎のサメを作っただけでも万死に値する。

 私を馬鹿にして!


 +


 アネッティア=ポワポワマイトとか、嫌なのよ!

 29歳で11も上なの。ヴェルギース。

 メリクツェル既婚で、シャクーセルの、いとこなのよ。ルルラルカとは、はとこなの。

 28歳だし。

 ユーディリス19歳だけど、どう見ても師匠のメギリーア様が初恋なの。

 剣戟けんげききょう能力者【BOYISH】か。

 達人という表現じゃ追い付かないの。あの剣技。

 化物同士でチャンバラやってろ。

 ユシュラエル15歳だから、3つも下なの。

 アイツ、やっちゃいけないことをした。

 アイツ、ゾンビ使いなんだけど、死体を腐らないように出来るの。

 とびっきりの美女のゾンビを寄り抜いて、敵の王都に潜入して娼館開いた。

 お客様、全員ゾンビにされた。

 いいけどね。敵国だし。

 アイツの最終奥義は、あえて腐らせた死体を井戸に放り込むことだってさ。

 生きたまま投降した人間は、自分から「ゾンビにしてくださーい!」と絶叫するまで、じわじわじわじわ、刃物で腹部を切り開いて行くから嫌なのよ。

 マトモなのはルルラルカくらい。

 シャクーセルも殺人狂だ。

 ヴェルギースね。

 ハイスコアは、雄叫び上げる3万の敵兵を一度に両断だって。

 和平無理。

 皆殺しにするしか無い。敵国。

 私も戦犯なの……?

 後世、あの殺人鬼どもと同類扱いされるの?

 助けて。誰か……。


 +


 フォルティマです。

 うーん。この荷車どうしよう。

 護衛雇いたくねえな。いくらかかるんだ。

 葬礼無礼【DEAD AND MORE DEAD】か。

 どんな剣なんだろう。

 私が今使ってる、一も二もなく【ONE TWO SLASH】よりも強いのかな。

 魔法使いだってことを隠すため、剣を習ったんだよ。私。


 +


 町に着いた。お仕事終わり。

 銀貨。うわー。これっぽちか。

 1ヶ月かな。もって。

「フラン! どうする?」

「先に寝るわ。お休み!」

「お休み!」

「お休み!」

「お休み! いい夢を!」

「ありがとう!」

 ふぅ。

 チャッピーもクールもワイルも疑ってないな。

 ふーん。

 うーん。

 うーん。

 使うか。

「炎よ――我が望みを聞け。魔神交渉【WISH】」

 イフリートが現れた。

『何用だ』

「私は何のために、この世に産まれて来たのか教えて」


 +


 許さない許さない許さない。

 冒険者は、隊商の護衛しか仕事が無いなんて。

 私がどんな思いで、故郷の人間を皆殺しに――。

 お前たちも――。

「闇よ――彼奴きゃつらの生き血を啜れ。すいこく【DHAMPIR RAT】」

 私の影から使い魔が産まれる。10匹程。

 この冒険者の店。

 見せしめにしてやる。

 何が冒険者の店だ!

 悲鳴は私にしか聞こえないだろう。くぐもるように。

 使い魔たちは消えた。

 感じ取れるのです。

 2階で寝ている奴らは、いなかったらしい。

 女は、いたのかな。

 いるわけ無いか。

 中に入る。

 血を吸われた死体の群れ。

 まあいい。

 1個ずつやるか。

「闇よ――死骸を喰らえ。死体溶解【MAN EATER SHADOW】」

 死んだ奴にしか効かない魔法。

 つまり戦闘向きではないということですの。

 ふん!

 どこか別の店。

 同じでしょうか。

 いいです。大人になりましょう。

 2軒目以降は殺しません。


 +


 はあ。

 魔物退治の依頼なんかあるわけないよ、か。

 へえ。

 このブレシーちゃんを舐めたな?

 しんしょう砲台ほうだいブレシー=キャットちゃんを舐めたな。

 魔法撃ちてえ。

 私の魔法属性は――「たま」だ。


 +


 ルルラルカ=バケツプリーヌ。22歳。

 はあ。

 同性結婚?

 あのな。

 結婚とは子供を作るためにすることだ。

 男女がつがいになって、ソイツ以外とはそういうことをするなよ。

 で、子供を大事に育ててあげなさい。

 それが結婚だ。

 女同士?

 意味ない。

 と言うか。

 10人がかりで何を談判しに来てるんだ。お前らは。

 同性ハーレムとかねえよ。

 ハーレムか。

(アレクラルク王の指輪【HONEY】――)

 っ!

 ?

 私は今、何を考えた?


 +


 どうせ不義の子だろうと思われているのです。

 わたし、ユーノア=ミシャハートは。

 人々に貞節を説く、ギズーファウスの神官など論外だと。

 父と母は愛し合っていた。

 その証拠が欲しい。

 それさえ分かれば、もう何も要らない。

 こんな人生……。

 どうなっても良い。


 +


 えーとね。ルミスティア。

「何」

 あなたのしゅくてんきゃく能力【SKY SKIPPER】。

 使っちゃ駄目。

「何で!」

 たかが4メメルルの距離を詰められたから何。

 そのナイフ、何に使う気なの?

「姉ちゃん! あなたの能力、教えろ」

 駄目。

 お前、口が軽い。

 と言うか、世間の皆さんに、脅しに使うつもりでしょう。

「野郎!」

 駄目なのよ。大人しく生きないと。

 お前、まだ15歳なの。私、16だけど。

 どうしよう。イシュリアちゃんに、もう会えない。

 ジルナード商会のお嬢様なんて。

「信じられねえんだ。 ミルティーミル、10歳だぞ!」

 受け流しなさい。

 どうでもいいでしょう?

「世間じゃ評判なんだよ!」

 放っときなさい。それしかないの。

 私たち、もう――

 ああ。恨めしい。

 何なの。この毒性受容能力【POISON EATER】。

 毒なんか、どこで売ってるの。

 いくらするの。

 私はカンザレー家長女、エリスノート。

 姉妹たちと同じだいだい色の髪を持っていた。


 +


 へえ。

 これが銀貨8枚の価値があると言うのか。

 いいだろう。買ってやろう。

 …………。

 金よ――弾になれ。金貸かねかし勇者ゆうしゃ【MONEY WARS】。

 …………。

 さ。銀貨8枚だ。

 数えろ。

 毎度どうも。いい取引だった。

 くっくっく。

 その金を、よそで使った時が、お前の最後だ。

 その店や近所の家の窓や家具を破壊しながら、「ヒャッハー! 俺たち、ご主人のペペンテ様の所に帰るんだー!」と、空飛ぶ銀貨が、お前のこの店に戻って来る。

 ブチ切れた被害者たちを誘導しながらな。

 呪いを解く術はない。

 このブレシーちゃんを舐めた、お前が悪い。

 死刑になりな。

 詐欺師として。


 +


 最強の魔法って何だろうな。

 ま、このフォルティマ=レバーオード様の「怪奇過去回帰【RETRY】」を超える魔法はあるまい。

 どうすれば大儲けって出来るんだろうな。

 私は長髪とターバンがチャームポイントだ。

 年より若いって良く言われる。


 +


 お前たちな。

 ちゅーしてくれたら、お姉様を諦めるとか何だ。

 私に、そういう趣味は無い。

 帰れ。

 全員だ。

 何で20人に増えてるんだよ。


 +


 ブレシーちゃんは16だぞ。

 文句あるか。

 ふーん。

 んー?

 この指輪、魔法具臭いな。

 一般人、触っても効果分からないから、タニシにスポポマルケットなんだよな。

 うーん。

 おい、ペペンテ。

 どうせ嫁に逃げられてる癖に見栄張るな。

 その格好悪い指輪、口止め料として要求する。


 +


 ?

 1人で歩いてたら、変な光景を見た。

 背の低い女の子が、食料品店で店主に絡んでるの。

 うーん。

 サメの杖はあるけど。

 どうせ使えない。

 どうしよう。

 見ぬ振りしようかしら。

 あー、でも。

 マッキャラゲーテ食べたいの。久し振りに。


 +


 ?

 あれ。

 こんな若い女が杖?

 …………。

 魔法具。

 お洒落、度外視。

 効果を知ってる。

 おい。

 ブレシーちゃん以外の女魔法使いって。

 初めてなんだが。

 ?

 本当に魔法使いか? あの女。


 +


 目が合った。

 うーん。

 この強面こわもてのおじさんに、ガン飛ばしてたのよね。この子。

 魔法使いとしか――


 +


 どうする。

 女かよ。

 あー。

「買い物かい。ここ、ぼったくりだよ」

「おい、ガキ!」


 +


 あ。乱暴な人だ。

 仲間3人とはエラい違い。

 やだなー。

「えっと、こんにちは」

「あ?」

「マッキャラゲーテありますか?」

「銀貨10枚!」

 えー?

 嘘でしょう。

 燃やす?

 でも、殺さないとヤバイしな。

 目撃者いるの。


 +


 ヤベえな。

 顔を憶えられたっぽい。ペペンテに。

 うーん。

 引き延ばし過ぎた。やべえな。

 あの銀貨8枚、もう仕舞っちゃったし。

 ふん。

 どうしよう。

 官憲との交渉の道具として、この女の魔法探りてえな。


 +


 やだ。これ絶対、魔法使いだ。

 うーん。

「何してるの」

「あー……」


 +


 どうするかな。

 いいか。

 迷った時は正直に、だ。

「そこのハゲが、生意気にも金の結婚指輪してるから、買い取ってやると交渉してた」

「うわ」


 +


 想い出あるでしょうに。

 情のない子だ。

「売らなくて良いですよ。そこまで生活に困ってないでしょう?」

 え。

 何でキレるの?


 +


 荷車どうしよう。

 アホと評判の3代目男爵の屋敷に行った。

「ほう! 30年」

「はい。行商人歴30年の、お爺さんの荷車です」

「素晴らしいな! 使用人どもに見習わせよう!」

 いやー。

 たかが荷車が、金貨300枚とか良いんだろうか。

 ま、いいか。

 オルハラ王都バロムか。

 追っ手が来るとしたら、敵国モナガンの方向だ。

 しゃーない。

 逆方向に行く隊商の護衛。

 ま、私、強いし。

 負けそうになったら時間戻すし。

 楽勝。


 +


 あのお爺さんを殺した犯人、誰だったんだろう。

 イフリートは『それには答えられん』って引っ込んじゃうし。

 産まれて来た理由も分からなかった。

「フラン! どうしたんだい」

「何でもないの! チャッピー」

「はは。君って、いつも可愛いね!」

「ありがとう!」


 +


 可愛いですか。

 21の女を捕まえて?

 馬鹿にしてますか。


 +


 わたしはユーノア=ミシャハート。

 ノノ=フォノーツさんとの出会いを果たすまで後――


 +


 熊を狩って来るか。

 俺は1人、素手で山に入って行った。

 俺の勘は良く当たる。

 殴り合いで熊を倒した。

 いやー、強い。

 俺の拳6発も撃たないと倒せないなんて。

 ナイフ。

 とどめを刺した。

 さ。持って帰ろう。

 村の皆に肉分けてやるか。

 ……俺は、それが望みなんだけど。

 サジド婆ちゃんが、全部燻製肉にして、行商人に売っ払うんだよ。

 貴族とかが買うの? 熊肉が珍しいって。

 はあ。

 いいけど。

 さて。

 ……アイツ、結婚しちゃったな。

 俺の何が悪かったんだろう。

 無理か。畑を持たない狩人なんて。

 俺も20か。

 いつ死んでも、おかしくないや。

 俺はザック=ライオダルク。

 神聖ログバモス王国ワータリ村の狩人だ。

 一応は敬虔けいけんなギズーファウス信徒のつもりだ。

 人妻に手を出すなんてない。

 幼馴染だったのに。

 友軍探知【WHERE YOU】。

 死んだ母さんは、これをこう呼んでいた。

 もう顔も憶えてないんだけど。

 俺は顔と名前を知っている人間の、居場所が分かる能力を持っている。

 試したが、行商人が隣の隣町に行くまでは探知出来た。

 何なんだろう。

 魔法使いとは違うらしい。

 俺、化物なのかなあ。隠してたのに。

 だからアイツ、俺とは結婚してくれなかったのかなあ……。


 +


 これが旦那だ。

 フォルティマ含めて全員の。

 どうも。マハエルです。

 ルルラルカと会うのは、だいぶ後だな。

「おい、シャクーセル!」

 とか言われてビビったんだ。

 罪工幻匠の生まれ変わり?

 私が?

 いやー。

 魔法具なんて造れないんだけど。

 部下にアムリタはいるが。

 アムリタも嫁だ。ザックの。


 +


 カンザレー家の3姉妹も全員嫁だ。

 10歳児に手を出すのは数年後だが。

 長女エリスノートの親友、イシュリア=ジルナードも嫁にしたよ。アイツ。

 実質4姉妹だな。1人だけ銀髪だけど。

 赫嵐響奇アネッティア=サリーカか。

 生き延びてたんだよなあ。800年。

 8本腕の女3人、全員嫁。

 ザックの。


 +


「帰れよ、ガキ!」

 むぎー!

 ブレシーちゃんを舐めるか。

 その指輪買い取るまでは引き下がらねえ。絶対!

「あのね。おじさん……」

「何だ!」

「私、フラン=ピスケスって言うんだけど。その指輪、金貨1枚で買い取ってあげようか」

「は?」

 は?

「あ、3枚……」

「…………。5枚」

「分かった。買う」

「毎度!」

 あー!

 横取りされた! 殺す!

 追っかけて……?

 くいくい、と。

 店主の死角になる方の手で、手招きしてる。

 杖を持っていない左手って意味。

 背中で。

 店主の目から左手隠して。

 …………。

 へえ。

 コイツ、話の分かる奴だ。

 絶対、魔法使い。こういう賢い女。

 ブレシーちゃんも魔法使いだから、分かるんだよ。


 +


 路地裏に来た。

「えーっと……金貨10枚」

 へえ。

 まあ、相場か。

 それより――

「どんな効果?」

「え……。知るわけない」

 はん。

 素人。

「そこは『え? これ魔法具なの?』だ。ベイビー」

「え?」

 ボケ。

 数秒後。

「あ」

 気付いたらしい。

 くっくっく。

 冒険者歴2ヶ月ってところかな。大目に見積もって。


 +


 このブレシーも嫁なんだよ。

 ザックの結婚生活は、本当に面白い見世物だ。

 マハエルでした。


 +


 あのね。

 この魔法具、酷いの。

 アレクラルク王の指輪【HONEY】。

 良いんだけどね……。

 女が、これを悪用するとは思わないし。

 売る。

 金貨10枚。

 5枚も儲けたから良いや。


 +


 触った瞬間。

 ブレシーちゃんの頭に、情報が流れ込んで来る。

(へ?)

 アレクラルク王の指輪【HONEY】。

 この金の指輪を男が着けていると、

 女に銀の指輪を着けることが出来る。

 最大6000人。

 外せない。

 女は浮気をすると、

 10年老化する。

(…………)

 おい。

 ハーレム作成用アイテムじゃねえか!

 こんな物、町の店主が着けてるんじゃねえよ!

 どうしよう。

 火山にでも投げ捨てれば良いのか。これ。

 あ。

 フランが、いつの間にか逃げてる。

 困ったな。

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