第12話 相部屋

帰ってきました、我が家へ!


………………………………と、言いたいところだが、我が家の前を通り過ぎて少し走るとお屋敷の門が開いて車は滑り込むように中に入った。


このお屋敷の敷地は少し特殊で、我が家の敷地を跨ぐようにコの字型になっている。

俺の爺さんが子供の頃には陽菜の家の敷地と裏山のほとんども含めて我が家の土地だったそうだが、なんの理由か知らないが没落して家の周りの土地を少し残して他人の手に渡る所を陽菜の曾祖父さんが買い取ったそうで。

そのせいか、裏では境界は無くて敷地は完全に一体化してるからな。


そんな訳で、我が家は屋敷だけは立派なんだよな。


没落した爺さんの代からは我が家は『普通の』家庭になったそうだが、今の俺と陽菜の関係を見ると、とても『普通』とは思えないんだが。


そんな訳で、祖山陽菜と佐海陽向の一族はそれぞれ同年代の子供たちの仲は大変良くて。

俺と陽菜も、物心つく前から常に一緒に居たそうで。

4月2日生まれの陽菜と、4月1日生まれの俺と。

学年は一緒でも、幼い頃の生まれの一年の差は大きくて。

俺は歩けるようになるとすぐに、常に陽菜に手を引かれて後ろについて引き摺られるように歩いていたそうだ。

小学校の頃も女子の方が性差がある為か身体が大きくて、陽菜に守ってもらうことも当たり前のように有った。


守られる関係が逆転したのは小学校卒業前の事で、陽菜が拐われそうになった時に何も出来なかった俺が陽菜の爺さんに『陽菜を守れるように強くなりたい』と頼んで鍛えてもらってからだ。


当時は鈴さんがボディーガードに付いていて、誘拐犯は『返り討ち』にあっていたけど。


車止めには、家令の吉羽さんが待ち構えていた。

陽菜を先に降ろして、続けて降りた俺に、


「お二人共、当主様がすぐにとお呼びです。こちらからどうぞ。」


と案内されたから着いていくと、いつもとは違う部屋へ通された。


まあ、あの爺さんの事だから何か理由は有るのだろう。


暫し待つと、いつもよりも疲れた様子で当主様じいさんが現れた。


「二人共よく無事で、帰ってきてくれた。陽向、礼を言う、ありがとう。」


「当然の事です。礼には及びません。」


「そうか、食事を用意させた。今日は泊まっていきなさい。部屋は陽菜と一緒で構わないだろう?」


「………………………………陽菜さえ良ければ?」


「私は良いわよ、大丈夫よ。」


爺さん、何を考えているんだ?

空き部屋ぐらい、いくらでもあるだろうに!


「ん?何よっ、私と一緒に寝るのは不服なの?」


「いえ、そんな事はありません。お嬢様の仰せのままに。」


「ん、よろしい。」


おいっ、その笑顔は、反則だろう。

俺は、どうすれば良いんだよ!

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