第2話 怒ってなんかいないよ?

入学式。


晴れでも曇りでもない、穏やかな日和。

校門周りの桜の木は今年は開花が早くて、殆ど散り切って僅かに花びらを散らしていた。

それでも、新入生達の気分を盛り上げるには十分な景色だろう。


高校生ともなれば親同伴してる子達は少なくて、かく言う俺も、ボッチだったりする。

同じクラスには、同中の男子は居なくて、女子は何人か居るけど、クラスは違ったから話が出来るほど親しくは無いからな。

まあ、一人例外が居るけど。

一人だけ違う中学の知り合いがいたが、既にグループになって話し込んでいたから出遅れてしまったかもしれないな。


恙無く式次第は進行し、割り当てられた教室に入ると、その例外でもあり腐れ縁でもある陽菜ひなから声を掛けられた。


「よかった、陽向ひなた、一緒のクラスだね!」


「ああ、そうだな?」


お前のお祖父様のお力を持ってすれば、クラス分けに忖度するぐらい当たり前だからな。

はるか昔に思えるくらいに前の事だが、お祖父様からお前を守ってくれと頼まれたからな。

お祖父様はまだ元気いっぱいに健在だが、万一の時には遺言として守ってやろうと思うくらいには真剣にコイツを守ってきたしな。


「……………………ねえ、怒ってる?」


「……………………なんで、そう思うんだ?」


「だって、あれからよそよそしいじゃない。」


「あれって?」


「……………………夏休みの、あれよ。」


「……………………お前に怒ってるんじゃない。自分に怒ってるんだ。お前を傷付けたからな。お前こそ、怒ってるんじゃないのか?」


「……………………傷付いてなんか、無いよ?まあ、痛かったけどさ。あの時の陽向はチョットだけ怖かったけど、怒ってなんかいないよ。」


この笑顔は、反則だろう。

素直に負けを認めるしかないじゃないか!


「わかった。良かったら、以前みたいな関係に戻して貰えるかな?」


「うんっ、じゃ友達と約束してるのを断ってくるから、終わったら校門前で待ってるから。もし来なかったら、ずぅ〜っと待ってるんだからねっ!」


「おいっ、そこまで………………………」


あっという間に駆け去っていく陽菜を眺めながら、あいつにとって『以前みたいな関係』って、どんな関係なんだろうかと、思った。


そうか…………………………痛かったのか。

そうか…………………………怖かったのか。


守らなければいけないのに、怖がらせて、傷つけて。

あの時、もっと優しくしていれば、違う未来があったのかもしれないな。

でも一年近く前の俺にそれを求めるのは、酷な気がしないでもない。

ていうか、今でも同じ状況に立たされたら絶対に我慢できない自信がある。

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