番外編 看病回 2
次の日の朝、目を覚ました私は、真っ先に顔を洗って、着替えをすませる。
今日は学校は休みだし、少し前までならもう少しパジャマのままゆっくりするところだったけど、今は家にユウくんがいる。
起きてすぐの洗っていない顔に、シワのよったパジャマに、寝癖だらけの髪の毛。こんな格好、とても優斗には見せられないよ。
特に髪の毛は、昨日はお風呂からあがった後すぐに寝ようとしたせいで、乾ききってなかったみたい。いつもより寝癖が酷かった。
それでも、無事髪をセットし着替えを終わったところで、私の部屋の押し入れにいるユウくんを呼ぶ。
「ユウくん、もう出てきていいよ」
「ああ。今行くよ」
ユウくんも、私が寝起きを見られるのは恥ずかしいってのはわかってるから、全部終わるまで待っててくれてる。
同じ家で寝泊まりしてるんだから、いい加減慣れた方がいいとは思うんだけどね。
「おはよう、藍」
「おはよう、ユウくん」
いつもなら、これから私はお父さんやお母さんと一緒に朝ごはんを食べて、その間ユウくんはこの部屋で待ってるんだけど、知っての通り今はお父さんもお母さんもいない。
だから今日は、一緒にいてもいいよね。
「朝ごはん、一緒に食べない?」
「いいのか?」
「うん。って言っても、簡単なものしかないけどね」
昨夜はオムライスを作ったけど、朝のご飯トースターで焼いたパンと、お母さんが作り置きしていたサラダ。
わざわざ食べるのを楽しむってものじゃないけど、一人で食べるより、他の誰かと一緒の方がずっといい。それがユウくんなら尚更だ。
だけど、ユウくんを連れてリビングに向かおうとする途中、クラリと大きく視界が揺れた。
「──っ」
足がフラフラする。とっさに壁に手をついたから倒れずにすんだけど、それを見たユウくんが心配そうによってくる。
そして、気づいたように言う。
「大丈夫か? 何だか顔が赤くなってるような──」
「えっ、そう?」
言われて頬に手を当ててみると、確かに少し熱いような気がする。
そういえば、今朝起きた時から、少し頭が重かったんだよね。
「もしかして風邪か?」
「うーん、そうかも。昨日、髪をちゃんと乾かせてなかったから、そのせいかな」
まさか寝癖がひどかっただけじゃなく、こんなことになるなんて。
「病院、行った方がいいんじゃないのか?」
「うーん。でも、お父さんもお母さんも今いないし、しばらく安静にしておけばいいかな」
少しきついくらいだから、ゆっくり休めば大丈夫。
そう思って朝ごはんの準備をはじめたんだけど、その間にも体のだるさはますますひどくなっていって、頭も痛くなってきた。
リビングの椅子に座った時には、もうぐったりしていた。
「本当に大丈夫か?」
「きついかも。熱、計ろうかな」
起きたばかりの頃よりも、明らかに調子が悪くなっている。
病院に行くにしろ行かないにしろ、熱くらいは測っておいた方がよさそう。
体温計を取りに行こうとしたけど、体のだるさのせいで、立ち上がるのも億劫になっていた。
「俺が持ってこれたらいいんだけどな」
ユウくんが申し訳なさそうに言うけど、物を持てないんじゃしかたない。
「多分だけど、熱は結構あるん気がする」
ただ、もちろんそれがどれくらいか、正確なところはわからない。
やっぱり体温計を取りに行かなきゃ。そう思って立ち上がったけど、その時ユウくんが、私の目の前に立った。
「ユウくん?」
どうしたの?
って思ったけど、ユウくんは何も言わずに、なぜか私に向かってどんどん顔を近づけてくる。
ほんの、数センチ。息がかかって、いつ触れてもおかしくない位置に、ユウくんの顔がある。
(ゆ、ユウくん!)
思わず声をあげそうになるけど、驚きすぎたせいで、逆に一言も出せなくなってる。
そうしているうちに、残っていたほんの僅かな距離が埋まった。
ユウくんのおでこが、私のおでこに、ピタリと触れる。
ううん。実際には、ユウくんの体は私をすり抜けるんだけど、とにかく今、私たちのおでこは重なっていた。
「やっぱり、これじゃ熱はよく分からないか。幽霊になってから、熱いや冷たいが分かりにくくなってるからな」
「へっ……」
密着していたおでこを離して、心配そうな顔をするユウくん。
そこで私はようやく気づく。ユウくんが、おでこを当てて私の熱を測ろうとしていたことに。
(びっくりした。キ、キスされるのかと思った)
いきなりそんなことあるわけないって、普通ならわかりそうなのに、熱のせいでおかしくなってるのかも。
それどころか、間近に迫ったユウくんの顔を思い出すと、今でも心臓がバクバクして、ただでさえ熱かった体が、さらに熱くなる。
ただでさえ体調が悪かったのに、心はこんな状態。色んな意味で、限界を超えたのかもしれない。
また、視界が大きく揺れる。ただし今度は、どこかに手をついて自分を支えることができなかった。
「────っ! 藍! 藍!」
倒れたショックもあって、だんだんと意識がぼやけていく。
そんな中、ユウくんが私を呼ぶ声が耳に届いていた。
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