番外編 看病回 1
※本編を最後まで読んでくださってありがとうございます。
ところで皆様、突然ですが、看病回というのをご存知でしょうか?
恋愛もののマンガや小説で、ヒロインもしくはヒーローのどちらかが体調を崩して寝込み、その看病をする、されるという、好きな人にとっては非常に胸キュンするシチュエーションのことです。
そして自分はこの看病回が大好きなので、本作の番外編としてやってみたくなりました。
全4話となっています。
時間軸としては、45話と46話の間。優斗が消えてしまうのではないかと思ったけど結局消えずに、その後も藍の家で暮らしている時の話となっています。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ある日の夜。私は、たった今できあがったばかりのオムライスを食べていた。
ううん。正確には私じゃなくて、私に取り憑のいたユウくんが、かな。
「ど……どう?」
ユウくんが私に取り憑いている時、私たちは頭の中で会話する。
テレパシーみたいに、お互いの声が頭の中に響くの。
そうして聞いたのは、今食べたオムライスの感想。ユウくんが私に取り憑いてる間も私の五感はしっかりしているから、オムライスがどんな味だったかもわかる。
それでも、私とユウくんとじゃ、感じ方が違うかもしれない。
緊張しながら、答えを待つ。
「美味しいよ。前もたまにお菓子とか作っていたけど、こんなに上手になっていたんだな」
「ほんと⁉」
やった!
もしも今顔の表情を動かせたら、きっとすごく笑顔になってたと思う。
実はこのオムライス、私が作ったの。それをこんな風に褒めてもらえたんだから、嬉しくないわけがない。
「でも、このまま俺が体を借りたままで良いのか? せっかく作ったんだから、自分で食べたいんじゃないか?」
「そんなことないよ。ユウくんに食べてほしくて作ったんだから」
ユウくんが私に取り憑けるってわかった時、それなら幽霊のユウくんだってご飯が食べられるかもって思ったけど、それを実際にやってみたの。
他の誰でもない、私の作った料理で。
「藍がこんなに料理が上手くなってるなんて、驚いたよ。おじさんやおばさんに教わったのか?」
「うん。と言っても、たまにしか作らないけど。今日みたいにお父さんとお母さんがいない日とか」
普段、我が家の食事はお母さんが作ってるんだけど、今日は特別。
ユウくんも言った通り、今日はお父さんもお母さんもうちにいないの。二人揃っての用事があって、明日まで泊まりがけで出かけていったんだ。
だから、二人の目を気にせず、ユウくんが取り憑いてご飯を食べることができるチャンスと思って、やってみたの。
「それにしても、おじさんとおばさん、心配してたな」
ご飯が終わって後片付けをしている途中、ユウくんがそう言う。
そうそう。お父さんとお母さん、私が一人で家に残るのを心配してたんだよね。友達の家に泊めてもらったらどうかとも言ってたっけ。
「二人とも心配しすぎだよ。私だってもう子供じゃないんだから。それにユウくんだっているしね」
「何かあった時、俺がどれだけ役に立てるかは分からないけどな。今も、片付けの手伝いだってできやしない」
ユウくんは、ご飯を作ったのは私なんだから、片付けは自分がやりたいって言ってたんだよね。
けど私に取り憑いて片付けたとしても、結局動くのは私の体なんだからって言って断ったの。
けど、ユウくんは手伝えないのが不満みたい。
「俺も、藍の役に立てたらいいんだけどな」
うーん。今回のは、私が自分の料理を食べてもらいたくてやったことだから、私が最後までやらないとって思う。
でもユウくんからすると、生きてる頃は当たり前にできたことができなくなるのは、寂しく思うかも。
片付けや手伝いだけじゃなく、楽しいことだってそう。
さっき私に取り憑いてご飯を食べたみたいに、何か協力できたらいいんだけど。
そんなことを考えながら後片付けを終えた私は、しばらくユウくんと一緒にリビングでテレビを見て、それからお風呂に入る。
そこでも、考えるのはやっぱりユウくんのこと。
「ユウくんは、まともにお風呂に入ることもできないんだよね」
幽霊になったユウくんの体はあらゆる物をすり抜けるから、お湯に浸かっても全然実感がないみたいなの。
あらゆるものをすり抜けるってことは汚れる心配もないし、幽霊は汗もかくこともないから、入らなくても問題ないかもしれない。
けどお風呂って、体を洗うだけじゃなく、リラックスできて気持ちのいい時間なんだよね。
のんびりお風呂に入るくらい、できたらいいのに。
「あっ。でも、ご飯を食べた時みたいに私に取り憑いたらできるか」
そうすれば、お風呂の気持ちよさだってわかるはず。
なんだけど、そうなると当然、今の状態の私に取り憑くことになるんだよね。
服を全部脱いで、何も着ていない私に。
「────っ! ムリムリムリムリ!」
ほんの少し想像しただけで、体中が沸騰したみたいに熱くなる。
ご飯を食べたり、ベースを弾いたり、そんな理由で取り憑くならいくらでも体を貸すよ。
でも、いくらなんでもお風呂はムリ!
「ごめんユウくん。私じゃ、お風呂はどうにもならないよ」
一人で勝手に騒いで勝手に完結した私は、それから素早くお風呂を出て、リビングに戻る。
ユウくんも待っていてくれたんだけど、顔を合わせた瞬間、さっきお風呂で考えていたことを思い出して、途端に恥ずかしくなって目を逸らしちゃった。
「ん? 藍、どうかした?」
「な、なんでもない!」
もちろん、こんなこと絶対に言えない。
それどころか、ユウくんと顔を合わせるのもちょっぴり気まずくて、さっさと寝ることにしたの。
けどまさか、この次の日あんなことになるなんて、思ってもみなかった。
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