最終話 エピローグ 後編

 掃除をすませた後、私たち三人は、そろって墓地を後にする。

 そこでふと、三島が小さい声で、私だけに向かって囁いた藍に。


「なあ藤崎」

「なに?」

「前から思ってたけど、お前、こうまで先輩のために色々やってるのに、肝心の告白はしないよな」

「────っ!」


 えっ? えっ? えぇぇぇぇっ!


 み、三島。なに言ってるの!?


 告白って、好きな人に好きって言う、あの告白だよね。


「ちょっ──ちょっとこっち来て!」

「お、おい!」


 慌てて三島の手を引っ張って、ユウくんから離れる。

 こんなの、ユウくんには絶対聞かせられない!


「三島、知ってたの? その……私が、ユウくんを好きだってこと。いったいいつから?」


 三島はもちろん、誰にも話したことなんてなかったのに。


「先輩が生きてた時からだよ! って言うか、気づかれてないとでも思ってたのかよ!」


 そ、そうなの?

 私は、隠してたつもりなんだけど。

 もしかして、三島って意外と鋭いのかも?


「お願い。ユウくんには言わないで!」


 この気持ち、いつかは知ってほしいって思ってたけど、少なくとも今じゃないから!

 こんな形で知られちゃったら、どうすればいいのかわかんないよ!


「言わねえよ。誰がそんなことするかよ」


 よ、よかった。


 ホッとしていると、三島はなんだか思うところがあるみたいに、静かに呟く。


「まあ、いくら想っていても、そう簡単には言えねえよな」


 なんだかその言葉には、すごく実感がこもっているように聞こえた。


「もしかして、三島も誰かそんな人いるの?」

「さあな」


 曖昧な答え。

 だけどハッキリいないって言わないってことは、いるような気がする。


 私の知ってる人なのかな?

 三島とは長い付き合いだけど、今までそんな話は一度も聞いたことないから、なんだか意外。


 もっと詳しく聞いてみたいけど、あんまりしつこくするのも悪いかも。


 なんて考えてたら、急に別の声が割って入ってきた。


「二人とも、何を話してるんだ?」

「ゆ、ユウくん!?」


 私たちの話が気になったのか、いつの間にかユウくんが近くにやって来ていた。


 全然気づかなかったから、私も三島も大慌てだ。


 わ、私がユウくんを好きだってこと、聞こえてないよね!?


「な、なんでもないから!」

「有馬先輩には、関係ない話だよ!」


 それぞれ大声で叫ぶものだから、これにはユウくんも面を食らってた。


「そ、そうか? ごめん。邪魔したな」


 別に邪魔ってわけじゃないんだけどね。

 だけど、話の内容は絶対に聞かせられないの。

 少なくとも、今はまだ。

 

 それからまた、三人並んで歩き始める。

 その途中、私はそっと、ユウくんを見る。


 小さい頃からずっと好きだった人。

 生きていた頃はその想いは伝えられなかった。

 消えてしまうと思った時も、今はまだ妹でいるべきだと思って、恋としての好きを伝えることはできなかった。


 だけど、まだこうして近くにいてくれるのなら、やっぱりどこかで期待しちゃう。

 いつか、この好きって気持ちを伝えられる時が来るんじゃないかって。


 そう思いながらずっと見つめていたもんだから、ユウくんがその視線に気づく。


「どうかしたのか?」

「えっ? えっと……改めて、不思議だなって思って。ユウくんとまた会えたのも、こうして一緒に歩いているのも」

「そうだな。俺もだ」


 いったいいつまでこうしていられるのかはわからない。

 だけどできることなら、もうしばらくはこのままでいてほしい。

 妹でなく、一人の女の子としての好きを、ちゃんと伝えられるその日まで。


(いつかきっと言うから。だから、それまで消えないでね、ユウくん)


 今はまだ口に出せない代わりに、心の中でそう呟いた。


 藤崎藍。

 好きな人、十歳の頃も十五歳の今も、ずっと変わらずユウくん。



 ‪✿‪おしまい✿





※ここまで読んでくださってありがとうございます。

 本編はここで終了となりますが、次回から番外編を計4話掲載します。読んでいただけたら嬉しいです(#^^#)

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