三島にも見えてる!?

第12話 三島の霊感

 幽霊になったユウくんの姿は、私にしか見えない。

 私もユウくんも、今までそう思ってた。

 だけど三島は、ユウくんを見て叫んでた。

 あんまり大声で叫んだものだから、息が切れ切れになっている。


「三島、もしかしてユウくんのこと、見えてるの?」

「ふ、藤崎。お前こそ、そいつが見えてるのか?」


 お互い尋ねるけど、ってことは、やっぱり三島にもユウくんの姿が見えてるんだ。


「私以外にも、ユウくんのこと見える人っているんだ。あっ、もしかして、知っている人には姿が見えるとか?」


 三島だって、生きてた頃のユウくんのことは知ってる。

 私と三島に見えたってことは、ユウくんのことを知ってる人なら、誰でも見えるのかも。


 そう思ったけど、三島はそれをキッパリと否定する。


「いや、確かに幽霊ってのは、知り合いの方が見えやすい。お前がコイツのことを見てるのは、そのせいだろうな。それでも、よっぽど縁が深くなきゃ見えるもんじゃない。普通は無理だ」

「そうなの?」


 それなら、どうして三島にはユウくんが見えてるの?

 それになんだか、ずいぶん幽霊のことに詳しそう。


 もっと詳しく聞いてみようと思ったけど、その前にユウくんが私に尋ねてきた。


「俺を知ってるみたいだけど、誰?」


 三島も言ってたけど、元々ユウくんと三島は、そこまで縁が深かったわけじゃない。


 ユウくんが、ここにいるのが誰かわからなくても、無理ないか。


「三島啓太ってわかる? 私の小学校からの同級生で、ユウくんも何度か会ってるんだけど」

「三島……啓太……?」


 ユウくんは、少しの間誰だったか考えていたけど、やがてハッとしたように言う。


「ああ、あの霊感少年か」

「その呼び方止めろ!」


 ユウくんの声をかき消すように、三島が叫ぶ。


 霊感少年って呼び方、懐かしい。

 霊感があるとか幽霊が見えるとか言ってた三島のことを、ユウくんはたまにそう呼んでたっけ。


 でも、ちょっと待って。

 三島に霊感があるなんて、昔はともかく、今はもう完全に嘘だったって思ってた。

 だけど、ユウくんのこと見えてるよね?


「三島がユウくんのこと見えるのって、霊感があるから?」

「まあな」


 アッサリ言うけど、私にとってはかなりの衝撃だ。

 ユウくんも、これには驚いたみたい。


「そうだったのか。ごめんな。てっきり、目立ちたくて嘘言ってるだけだと思ってた」


 あれ? けど三島に本当に霊感があるなら、ちょっとおかしなことがあるんだけど。


「けど三島、前に、幽霊が見えるなんて嘘だって言ってなかった?」


 それはユウくんが亡くなった日のこと。

 私が、ユウくんの幽霊に会わせてほしいと言った時、三島は幽霊が見えるなんて嘘って、ハッキリ言ってた。


 その時のことは三島も覚えているみたいで、なんだか気まずそうに言う。


「コイツの幽霊に会いたいって言ってた時のことだろ。見えるって言っても、会いたい奴に会わせるなんてできないんだよ。けどあれこれ説明するより、嘘って言った方がいいと思ったんだ。でないとお前、いつまでたっても諦めそうになかったからな」


 確かにそうかも。

 もしもあの時、幽霊はいるなんて言われたら、例え自由に会わせることはできないって言われても、何か方法はないか探してたと思う。


 私が納得したのを見て、三島はさらに続けた。


「それに見えるって言ってもいつもってわけじゃないし、ぼんやりとしか見えない時もある。コイツとは少しは縁があったからか、ハッキリ見えるけどな。昔みんなに言ってた事も、半分以上は話を盛ってたんだ」

「そうなの? なんでそんなことしたの?」

「……そっちの方がウケが良かったからだ」


 そんな理由!?

 さっきユウくんが言ってたけど、目立ちたいから嘘言ってたってのも、全然違うってわけじゃなかったのかも。


「それじゃ、昔私に変なものが取り憑いてたって言ってたのは、本当だったの?」


 小学生の頃は、三島にそんなこと言われて散々怖がってたけど、もし本当なら、今でも怖い。

 けど、それを聞いて三島は渋い顔をする。


「嘘だよ。それだって、話を盛ってたんだ」

「なんで!?」

「だから、そっちの方がウケが良かったからだよ! お前が一番いいリアクションするから、面白がってたんだ。悪かったな!」


 私、そんな理由で怖がらせられたの?

 昔のことだし、一応謝ってくれたけど、なんかモヤッとしちゃう。


 すると、今度はユウくんが尋ねる。


「たしか、河童や天狗がいたとも言ってたよな。 それは本当なのか?」

「それも……盛ってた。幽霊はともかく、妖怪なんて見たことない」


 そういえは、そんなことも言ってたっけ。

 それなら、私だって気になることはまだある。


「亡くなったお婆ちゃんと週一で会ってるってのは?」

「盛ってた。会いたい奴と自由に会えるわけじゃないし、婆ちゃんのことだから、とっくに成仏してると思う」

「それじゃあ……」

「って、俺のことはどうでもいいんだよ! そわなことより、もっと大事なことがあるだろ!」


 三島は、私の質問をかき消すように叫ぶと、真っ直ぐにユウくんを指さした。


「今重要なのは、そいつがここにいることだろうが! なんで今になって化けて出てるんだよ!」


 言われて見れば、確かにそっちの方が大事かも。

 だけど、なんでって言われても、私たちには答えようがなかった。


「俺もついさっき気付いたら幽霊になってただけだからな、こっちが教えてほしいくらいだ。そもそも、どうしたら幽霊になるんだ?」

「そんなこと、俺だってわからねえよ。霊感があるからって、何でもわかるわけじゃない」

「そうなの?」


 嘘でたくさん盛ってたっていっても、霊感自体はあるんだから、私たちの知らないことも色々知ってるかも。

 そう期待してたけど、三島にもわかんないんだ。


「でも、三島の家ってお寺なんでしょ。それでもわからないの?」

「坊主は霊能力者じゃねえからな。家族でも、幽霊が見えるのなんて俺だけだ。でもな……」


 三島はそこで一度言葉を切って、それ以上は言うのを躊躇うように、少しの間黙り込む。

 だけど結局口を開くと、遠慮がちにぼそぼそと言った。


「死んだ人間の魂がこの世に残るってのは、良い状態じゃねえんだ。仏教の解釈とか色々あるけど、いちいちそんなこと言わなくても、何となくのイメージでわかるだろ」

「それは、そうだよね……」


 確かに三島の言う通り、幽霊っていうと、あんまり良いイメージじゃないかも。


 未練とか後悔とか、そういうのに引っ張られて、いつまで経っても成仏できない状態って感じ。

 そんな幽霊に、ユウくんはなっているんだ。


 そう思うと、とたんに不安になってくる。


 さっきまでは、ユウくんとまた会うことができて、素直に嬉しかった。

 だけどもしかしたら、このまま幽霊でいるのって、すごくまずいことなのかも。



「ねえ三島。それじゃ、幽霊のなったユウくんは、これからどうなるの!?」

「落ち着けよ。正直なところ、俺にもよくわからない。今まで俺が見てきた幽霊だって、生きてた頃と変わらないような奴から、いかにも禍々しい奴、いわゆる悪霊ってのになったのまで、色々いたんだ。どうやったら悪霊になるのかは知らねえけど、そうなったら本気でヤバい」

「悪霊。そんなのもいるんだ……」


 ユウくんは悪霊なんかじゃないだろうけど、そんなのもいるんだ。

 ますます不安になってきて、血の気が引いていく。


「落ち着いていられないよ。だって、私がユウくんを呼んだのかもしれないんだよ」


 ついさっき、ユウくんが、幽霊としてこの世に現れた瞬間のことを話していた時、こう言ってた。


『もしかすると、藍が俺をここに呼んでくれたのかもしれないな』


 それが、どこまで本気で言ったことなのかはわからない。もちろん私だって、ユウくんの幽霊よ出てきてなんて思って呼び寄せたわけじゃない。


 けど、ユウくんはこうして私の目の前に現れた。それに、霊感のない私にだって、こうしてハッキリ見えてる。


 もしかすると自覚がないだけで、本当に私がユウくんを呼んじゃったの?


「ねえユウくん。いきなり呼び出されて、迷惑じゃなかった? 本当に私がユウくんを呼んだのなら、余計なことをしたんじゃないの?」


 不安でいっぱいになりながら、ユウくんに聞いてみる。


 答えを聞くのが怖かった。だけどもし本当に私がユウくんをこの世に呼び出して、そのせいで迷惑をかけてるなら、そんなの絶対に嫌。

 だから、例え怖くても、聞かずにいるなんてできなかった。


 ドクドクと心臓が音を立てる中、じっと答えを待つ。

 だけどユウくんは、そんな私に向かって、優しい声で言う。


「大丈夫だよ」


 その顔はとてもにこやかで、不安でいっぱいになってる私とは、全然違ってた。


「俺も、幽霊になったせいでこれからどうなるかなんて、そんなのはわからない。だけど、呼ばれて迷惑なんて、ちっとも思って無いよ。むしろこうして藍とまた会えて、高校生になった藍を見ることができて、すごく嬉しいんだ」


 そして、慰めるように私の頭の上に手をかざす。

 手は相変わらず私の頭をすり抜けるけど、それでも、さっきと同じように、何度も何度も撫でてくれた。


 撫でられる度に、胸の奥に、熱いものが込み上げてくる気がした。


「あ、ありがとう……」


 我ながら、なんて単純なんだろう。

 ユウくんが幽霊になったことは、不安だし、心配だってする。

 なのに、会えて嬉しいと言われて、こうして頭を撫でられたら、喜ばずにはいられなかった。


 けどその時、私たちの間に、不機嫌な声が割って入ってきた。


「……なあ。二人とも、俺がいるってこと、わかってるよな?」

「み、三島!?」


 わわっ! 頭を撫でられるのに夢中になってたせいで、三島のこと、ちょっとだけ忘れてた。

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