第13話 もう少しだけ、そばに

 三島は、すっごく不機嫌そうな表情で、睨むように私たちを見ている。


「ご、ごめん……」


 大事な話をしてるのに、頭を撫でられて、能天気に喜んでたんだ。そんなの見てたら、怒るのも当然だよね。

 もっと真面目に考えないと。


「で、でも、それじゃどうすれば良いの?」


 今度は、もっとしっかりしなきゃ。

 そう思ったけど、幽霊が出た時どうすればいいかなんて、ちっともわかんない。


 それは三島も同じで、腕組みしながらうんうん悩んでた。


「さっきも言った通り、どうすればいいかは、俺だってよくわからない。霊感があるせいで、心霊関係のことは色々調べて知識もあるけど、こんな時どうすればいいかなんて知らねえよ。成仏させることができたら、それが一番いいのかもしれないけどな」

「成仏って、どうやって? お経をあげるとか?」


 お経なら、お寺の子どもの三島なら、あげることできるかも。

 そう思ったけど、当の本人は浮かない顔だ。


「あのな。そんなのでなんとかなるなら、葬式をあげた時点でとっくに成仏してるだろ。こいつの葬式の時にお経読んだの、俺の親父だぞ」


 そういえば、ユウくんのお葬式の時、三島のお父さんもいたっけ。


 本物のお坊さんがちゃんとしたお経をあげたのに、こうして幽霊になってるんだから、三島がやっても効果はないかも。


「他に、成仏させる方法定番って言うと、この世に残した未練を晴らすくらいか。何か、生きてる時にやりたかったことってないか?」


 三島がそう言って、ユウくんに尋ねる。だけど、これもあまり感触はよくなかった。


「無くはないかな。けど、今さらどうにかできるようなものじゃないんだ」

「そうかなのか?」

「ああ。というわけで、その方法は難しい」


 ユウくんのやりたかったこと、いったい何なんだろう。

 気になったけど、なぜかユウくんはハッキリ言ってくれなくて、なんとなく聞かない方がいいのかもって思った。


 けどそうなったら、いよいよお手上げ。

 それからも、三人で色々考えてみるけど、特にこれだってなるようないい案なんて浮かんでこない。

 しだいに、みんな口数が減ってくる。


 けど、そんな時だった。

 しばらくの間黙ってたユウくんが、遠慮がちに口を開いた。


「あのさ。本当に、今すぐ成仏しなきゃダメなのか?」

「お前、なに言ってるんだよ!?」


 思わぬ言葉に、三島が目を丸くする。

 驚いたのは、私だって同じ。だって、成仏しなきゃダメだから、こうして考えてるんだよね?


 けどユウくんも、考えなしにそんなことを言ったわけじゃなかった。


「俺だって、このままじゃダメっぽいのはわかるよ。けどな、とりあえず今のところは、問題なんて起きてないだろ」

「そりゃ、まあ……」


 それは、私もそう思う。


 少なくとも今のユウくんは、幽霊になったことを嫌がってはいないし、さっき三島が言ってたような、悪霊になる様子もない。


 今のままで何が問題かって言われても、すぐには思いつかない。


「これからどうなるかはわからないけど、今は大丈夫みたいだよね。悪霊って、そんなに急になるものなの?」

「それも、よくはわからない。けど確かに、一日や二日でどうにかなるとは思えねえな」

「じゃあ、まだ当分は大丈夫ってこと?」

「そうかもな。けど、やっぱりできることなら、早いうちに成仏させた方がいいと思う。まあ、それができないから困ってるんだけどな。ったく、どうすりゃいいんだよ」


 うーんと唸りながら悩む三島。


 だけど、とりあえずは、今すぐ危険になるわけじゃなさそうなんだよね。

 そして、成仏させた方がいいって言っても、その方法は、今のところ見つからない。


 じゃあ、もうこれしかないんじゃないかな?


「とりあえず、ユウくんにはしばらくこのまま幽霊でいてもらって、成仏させる方法は、ゆっくり考えるでいいんじゃないの?」


 これには、私の願望も、ほんの少し入ってる。


 もちろん私だって、成仏させられるなら、その方がいいっていうのはわかってる。

 けどそれはそれとして、もう少しの間、ユウくんと一緒にいたかった。


 こんなこと思うなんて、ワガママかな?


「藤崎、お前まで……」


 三島は呆れた感じでため息をつくけど、それからまたうーんと唸って、諦めたように言った。


「けどまあ、成仏させる方法がないなら仕方ない。しばらく、このまま幽霊でいるしかなさそうだな」

「本当!?」


 思わず、弾むような声が出る。


 すると三島は、そんな私とユウくんを交互に見ながら、付け加えるように言う。


「言っとくけど、もし成仏できそうな方法が見つかったら、すぐに試してみるからな。何度も言うが、幽霊になるってのは良い状態とは言えねえんだ」


 やっぱりそうだよね。


 それは十分わかってるつもりだけど、それでも、三島も認めてくれてホッとした。

 たとえ幽霊ってのが良くない状態だったとしても、またしばらくはユウくんに会えるんだ。こんなの、嬉しくないはずがない。


 するとユウくんも、ホッとしたように呟いた。


「良かった。本当は、もう少しだけ藍のそばにいたかったんだ」

「ユウくん……」


 その言葉にドキリとしたところで、部室の天井に取り付けられたスピーカーから、チャイムが流れ始めた。


 下校時間を告げるチャイムだ。

 いつの間にか、ずいぶんと時間が経ってたみたい。

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