第6話 言葉が人を殺した
「よし、なんかしんみりしちゃったし、ご飯でも食べに行こう。」
「えっ?」
「お腹空いてない?」
正直あの話の後に、食欲なんて、と思ったが、体は真っ先に「ぐぅ」と答えた。その音を聞いた一条先生は「あはは」と笑っている。
「最近ね、学生に教えてもらったうどん屋さんあるんだ、近いから行こうよ。」
「えっ、先生仕事とか…」
「もう定時は過ぎてるし、別にこれは明日で問題ないし…」
一条先生は時計を指さし、パソコンを指さした後、俺の課題を指さした。
「それも明日にしよ、よし!行こう!」
俺の肩をポンと叩き、そのまま引き上げ、俺のカバンを背負った。
「ほら置いてくよー」
まるで後藤先輩のように速足でサークルの扉へ向かう。
いつもの日常だ。
今日知ったことは、若すぎる俺にはどう心で整理すればいいか分からない。
でも、気づいた。一条先生はそんなことを望んでいない。
今まで通り、このまま、俺たちは一条先生と大学生活を送っていければいい。
今は、それでいいんだと思う。
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「じゃあ、温かいきつねうどん…1つ」
「僕はね、うどんは絶対、冷たいやつしか頼まない。」
謎に意気揚々とメニューも見ず、そう宣言する一条先生は店員を呼ぶと、きつねうどんと、ざるうどんを頼んだ。
「どんな時もですか?」
「どんな時も。」
「風邪ひいた時も?」
「風邪ひいた時もだねぇ。」
一条先生がそこまで何かにこだわる姿を見たことがないので俺は正直驚いた。
「北海道の冬を経験したら、さすがに温かいうどん食べたくなりますよ。」
「でも、北海道の人は冬にアイスクリームをたくさん食べるんでしょ。」
俺が思っていた回答とあまりに違いすぎて吹き出してしまう。
「後藤先輩に洗脳され始めてます、先生。」
「へ?僕そんな変なこと言った?」
「やっぱり後藤先輩の質問の返し、変だと思ってたんですね。」
「あっいや、そういう訳じゃないよ!?全然」
慌てた様子で身振り手振り否定する一条先生はやはり、大人のようで子どものようだ。
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「いや~お腹いっぱいになったし、美味しかったね。」
「すみません、ご馳走になっちゃって。」
「すみません、じゃないよ。ありがとうございます。でいいの。」
「じゃあ…ありがとうございます。」
「よくできました。」
二人で夜道を歩くのも何度目だろうか。もはや友達と帰るより、多い気がする。
「それに寺下くんにも後輩ができる時が来るんだから、その時はカッコつけなよ~」
一条先生はツンツンと俺の肩をつつく。
そんな他愛もない話をしている間に俺の家につく。
「じゃあ、また明日ね。」
「はい、ありがとうございました。…また明日。」
俺の言葉を聞いて頷いた一条先生は帰路へ向っていった。
一条先生が両親に「また明日」を言えなかった分、俺がたくさん言おう。そして、ちゃんとまた明日会おう。そう思った。
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