第5話 ポルターガイストが止まらない

 リビングに戻った俺と一条先生は、後藤先輩が横山さんの背中をさすって落ち着かせている最中だった。


「破片は、俺達で片づけました。」

「すみません。」

 横山さんは俯いたまま涙声でそう返事した。

 一条先生はローソファーで小さくなった横山さんの前に跪いた。


「この部屋はポルターガイストが起きる。引っ越しした方がいい。」

 横山さんは何も言わなかった。

「ご実家は遠いのかな。」

「大学から、2時間程です。」

「そう…」


 横山さんはゆっくりと顔を上げ、一条先生を見た。

「先生、私、怖いです。引っ越ししてもまた起きるんじゃないか、って。」


 未熟な俺はポルターガイストが何かよく分からないまま、ここに来たが、確かにそうだ。何かが憑りついて起きる現象なのだとすれば、横山さんの気持ちも分からなくもない。


「大丈夫だ。もう、次の場所では起きない。僕が約束するよ。」

 一条先生は横山さんの手を握り、そう告げた。

 その瞬間、横山さんはまるで子どものように、泣き出した。


 後藤先輩が背中をさすり、一条先生は優しく微笑んだ。

 でも俺は、感じ取ってしまった。一条先生の微笑みの奥にまた、あの憂いがあることを。


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 次の日、丁度授業が終わった頃、一条先生から電話がかかってきた。

「もしもし、寺下くん?」

 いつも通りの明るい声だ。

「…はい、そうです。」

「ちょっと急ぎでお願いがあってさ、この後すぐ頼めるかな。」

「お願い、ですか?」

「簡単なお願いだよ。」

 電話の奥で一条先生を呼ぶ声が聞こえる。

「内容はメールで送るから、ごめんね。何かあったら電話して。それじゃあ。」

「えっ、あ」

 俺が何か答える隙も無い間に電話が切れてしまった。


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「先生、お願いってこれで合ってますか?」

 俺は一枚のコピー用紙を渡した。

「そうそう、ありがとう。急に頼んじゃってごめんね。」

「いえ…。」

 その時、講義終わりの後藤先輩がサークル部屋に入ってきた。

「先生、せっかくポルターガイストが起きない原因が分かったのに、横山さん呼んでこなくていいんですか。」

「うん。むしろ呼ばないで欲しい。」


 一条先生は俺が渡した紙を見ながら淡々と答えた。

 今まで依頼者に立証と検証の結果を伝えなかったことは一度もなかった。

「どうして!きっと横山さん知りたがってますよ。」


 後藤先輩が机を叩く。しかし、一条先生は動じることなく、紙を机に置いた。

「これは僕たちが思っているより深刻な問題なんだ。もちろん、今から説明するけれど、楽しい話じゃない。ちゃんと聞いて欲しい。」

 一条先生の真剣な眼差しに、俺と後藤先輩は先生の前の椅子に座った。

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