第5話 ポルターガイストが止まらない
時刻は21時を回り、既に外は真っ暗になっている。
友人の家であれば、たこ焼きパーティーをしたり、袋菓子とアルコールを飲んだりするような時間なんだろうが、とてもそんな雰囲気ではない。
そもそも俺は未成年だし、今日の目的はあくまでポルターガイストの調査だ。
「いつも、寝ている時にポルターガイストが起きると言っていたよね。」
「はい。」
一条先生の横で体育座りをする葉山さんが頷く。
「それは、時間に関わらずってことかな。」
「そうですね、絶対何時に起きるとか、そういう感じじゃないです。」
ローテーブルを囲んで俺たちは座っているというのに、後藤先輩はしきりに部屋をぐるぐると徘徊している。
「後藤先輩、何してるんですか。」
「いやぁ~。可愛い雑貨に溢れてて座ってるのがもったいないなぁって。」
女子の部屋でトイレを借りるよりも、ある意味失礼なのではないかと、思う。
しかし後藤先輩に何か言えば100で返ってくる。いや、150で返ってくるので、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「これとか特に、可愛い。」
後藤先輩が指さしたのは、テレビ台の上に置かれた白い王冠のような平皿だ。
「あぁ、それは…、こっちに引っ越してくるときに母が贈ってくれたんです。」
「へぇ、お母さん優しいね。」
「普段はそこに、小さいぬいぐるみとか、カギとか置いてるんですけど、今日は皆さんが来るので、お皿だけ置いてある状態です。」
まるで牛乳が跳ねたような縁取りをした小さな平皿は、白いテレビ台と同化するように鎮座している。
突然一条先生が立ち上がり、その平皿に近づいた。
しかし、一条先生は平皿を見ているようで見ていない。正確に言うと、平皿の奥を見つめている気がする。
「葉山さん。」
突然、一条先生が真剣な表情で葉山さんを呼んだ。
「はい。」
「寝るにはまだ早いとは思うんだけど、寝れそう?」
「い、今ですか?」
「うん。僕と寺下くんは、ここから動かない。じっとしてるから。」
先生は突然俺の横に来て、体育座りした。
「え?私は?」
「後藤さんもしばらくはここに居て。葉山さんが寝たのを確認して欲しい。さすがに男の僕が女の子の寝室に入るのはまずいでしょ。」
まぁ、たしかにミステリーサークルの調査だとしても何かあったら世間体が許さないだろう。
「…分かりました。すぐには寝れないと思うんですけど…。」
「構わないよ、僕たち夜型人間だから。」
深夜ドライブに同行しただけで俺たちは夜型人間だと思っているのだろうか。
静かに頷いた葉山さんは寝支度を始めた。
「寝る前にホットミルク飲むんですけど、皆さんもどうですか。」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」
「ホットミルクだなんて、もう完璧女子大生だよ…!」
正直ホットミルクの階級がそこまで高いと感じていなかった俺は、断るのも悪いという思いだけで「じゃあ…お願いします。」と答えた。
その時、ガタンッと何かが倒れる音がし、俺たちは音の方向を向いた。
そこでは、キッチンで慌てふためく葉山さんが見えた。見ると移動式のキャスター付き棚が倒れている。
「大丈夫!?」
後藤先輩が駆け寄り、散らばったものを拾い集めている。俺と一条先生も近寄ると、小麦粉らしき粉や、しょうゆなどをはじめとした調味料が散乱している。
「すみません、あっ、拭くもの取ってきます。」
葉山さんがキッチンから離れ、俺たちは戻せるものは、棚に戻していった。
「すみません、皆さんのお手を煩わせてしまって。」
「いや。あるあるだよ!私もすぐ机から物落とすし!」
「それは後藤さんが狭い机で物を広げすぎるからだよ。」
一条先生の呟きに「女子は男子より物が多いんです~」と反論した。
俺と一条先生は目を合わせて肩をすくめた。
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