第5話 ポルターガイストが止まらない

「そして前回の授業終わりのメモに『最近ポルターガイストが起きるんです。』って書いてあってね。」

「ポルターガイスト?」

 その瞬間、ミステリーサークルの扉が開く音がした。


 そこには黒髪の控えめな印象の女性が一人立っていた。

 正直、日本文化学概論が一緒だと言われても、あの規模の教室じゃ出会ったかも覚えていない。


「さぁ、座って。葉山さん。」

 先生に促されると葉山さんと呼ばれた彼女は、一礼して小さな声で「失礼します。」とつぶやき、先生の前の椅子に座った。


 あまりに神妙な面持ちの葉山さんを見て、俺と後藤先輩はなんとなく静かに、長机に散らかした自分たちの物を片付け始めた。ふと一条先生に目をやると、いつものようにメモを取りながら、葉山さんの話を聞いている。


「最近、起きたらカベに刃物が刺さっていたり、寝ていたら皿が勝手に私の真横で割れて…。部屋もラップ音というかパキッという音が鳴ったりして…。」

 想像以上のリアリティある怪異に俺と後藤先輩は目を合わせた。

「それで、調べたら、ポルターガイストかもってネットに書いてあって…、それで先生に相談をしたくて……」


 一条先生は先ほどしまった小さな紙を取り出し、しばらく眺めていた。

「そうだね。今の話を聞く限り、葉山さんの部屋ではポルターガイストが起きてるのかもしれない。」

「やっぱりそうなんですね。」

 葉山さんは顔を覆い、明らかに怯え切っている。

「もし構わなければ、一度葉山さんの家に行っても大丈夫かな。」

「はい、お願いします。」

 藁にもすがるような思いで一条先生を見つめる葉山さんを見て、俺は何となく違和感を感じていた。


「でも、さすがに僕だけが女子学生の部屋を訪ねると体裁が悪いから、あの子たちも一緒に良いかな?」

 突然視線を向けられた俺と後藤先輩は「へ?」と腑抜けた声しか出なかった。

「いいですけど…。」

「そう、よかった。ありがとう。」


 俯く葉山さんはやはり、どこか変だ。

 でも、今は「何が」変なのか、うまく言葉にできない。

 もどかしい気持ちが俺を襲った。

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