第4話 心霊ドライブ
一条先生に急かされ、俺らは大学の駐車場にやって来た。
「これ、昨日僕たちが心霊スポットに行ってきた車なんだけど、ここに手形がついてるでしょ。」
一条先生が指をさした先には確かにはっきりと手形がついている。
「きゃっ!」
一部の女子学生がのけ反る。
「あ、大丈夫。これ、さっき僕がつけたやつだから」
「は?」
後藤先輩の少し威圧感のある声に、俺は思わず肘で小突いた。
「じゃあ実際に、指紋をどうやって落とそうとしたかやってみてくれる?」
「いや、先生の車にやるのはちょっと…」
男子学生が渋ると、一条先生は「まあまあ遠慮せずー」と肩を押し、手形の付いた窓の前まで連れて行った。
男子学生は何かあきらめた様子で、スウェットトレーナーの裾を親指で押し出し、そのまま手形をなぞった。
「こ、こんな感じです。」
そこには少し伸びたが、まだはっきりと手形が残っている。
それを見て一条先生は「うんうん」と頷いている。
「そう、それじゃ取れない。」
「そうなんですか?」
学生たちは驚いた表情で一条先生と手形を見比べている。
「なんてたって、その手形は僕がホットドックを食べた後の最高品質の指紋だからね。」
「はあ?」
「後藤先輩…」
「あ、あぁ…ごめんごめん。」
「基本的に指紋は手の皮脂でできている。つまり油分だね。だから擦っただけじゃ落ちないことがほとんどなんだ。基本的には、こういうものを使って落とす。」
先生はポケットから何かを取り出した。
「メガネクリーナー…と」
「ウェットタオル?」
「そう。これで拭くと…」
手形の半分をメガネクリーナーでなぞり、もう半分をウェットタオルで拭き上げた。
「な、無くなってる!」
「普通の指紋ならたしかに服の材質によっては袖で落ちることもあるだろうけど、ドライブの前にもしコンビニで美味しいものを買ってたりしてたら、手の油汚れは…」
そう一条先生が話した途端「あれ、お前コンビニでアメリカンドッグ買ってなかった?」「そうじゃん」と学生たちがざわつきだした。
一条先生はその様子を見て「これで安心してもらえたかな。」と聞く。
学生たちは「はい!」と笑顔を見せた。
「それならよかった。今回は全て原因が分かったけど、世の中には説明がつかない事象があるのも事実だ。自分の学生が不幸な目に遭うところは見たくないから、夜遊びはほどほどにね。」
先生が学生たちを見つめる目は、優しさそのものなはずなのに、なぜか俺には少し憂いを感じた。
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「結局、ミステリーでも怪奇現象でも無かったですねー。」
後藤先輩は何故か残念そうに長机に突っ伏している。
「怪奇現象なんて無いに越したことないよ。時に取り返しのつかないことになることもあるんだからね。」
一条先生は立ち上がるとカバンから細長い封筒を手にし、俺と後藤先輩の前に置いた。そのまま封筒を手にすると、中からチャリンという音が聞こえる。
中を開けると、お札が何枚かと小銭が見える。
「先生、これは?」
「バイト代だよ。ちゃんと深夜割増料金もつけてるから。」
「えっ、いや…俺はただ」
と言いかけた俺を遮るように、後藤先輩は立ち上がり、先生の手を取った。
「先生って、最高ですね。」
「な、なんか怖いよ後藤さん」
一条先生は後藤先輩の手をそっと離し、俺の方を見た。
「それにモスキート音に関しては君たちが居なかったら突き止められなかったからね。」
「へ?どういうことですか?」
一条先生は、はぁ…とため息をつき、アニメのキャラクターのようにがっくり肩を落とした。
「えっ!?もしかして先生聞こえてなかったんですか!?あのモスキート音!」
後藤先輩の驚き方は純粋なのか、はたまた煽りなんだろうか。
「そうだよ…。言っただろ。僕はおじさんなんだ…」
しょぼくれた一条先生に、未熟な俺はなんて言えばいいのか、分からずただ「えっと…いやあ…」くらいしか言えなかった。
「大丈夫ですよ!先生、顔は若いから!」
「後藤さん、それ励ましになってないよ。」
俺は思わず吹き出してしまった。
「あ!寺下くんまで!僕はもう無理だあー」
机にぺたんと顔をつけ絶望している一条先生を見て、俺と後藤先輩は笑いながら先生の背中をさすった。
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