第4話 心霊ドライブ

「いや~、北海道に来た甲斐があったと言っても過言じゃないなぁ~。」

「せ、先生?」

 突然、旅行に来たかのようにはしゃぐ先生に俺を含め、その場にいた全員が困惑、いや少し不気味に感じている。


「そこの君。」

 突然一条先生は一人の女子学生に声をかけた。

「えっ、私ですか。」

「君は昨日、不気味な音楽が聞こえてきた、と言ったよね。」

「はい…」


 ―――「なんか壊れたテープとか、蓄音機とか…聞いたことないですけど、そういう感じの音楽です。」


「正解だ。」

 満足そうな一条先生に後藤先輩がついに「先生、主語が…」と指摘した。


「あぁ、ごめんごめん。そう、あの場所はある意味"蓄音機"なんだよ。」

 場所が、蓄音機? 何を言っているのか、俺は聞き間違えかと思い、思わず耳の穴に指を入れる。

 一条先生は俺らの戸惑いも露知らず、ノートパソコンで何かを検索し始めた。


「見て、これ。」

 再び見せられたノートパソコンの画面には「【必見】北海道メロディーロード一覧!」と書かれたサイトの記事が映されていた。


「「「メロディーロード…?」」」

「あれ? 北海道の子はみんな知ってるんじゃないの?」

 その場にいた学生全員が首を傾げた瞬間、一条先生はまるで子犬のように悲しげな表情を見せた。


「メロディーロードっていうのはね、道路に細かい溝が刻んであって、そこを車が走ることによって摩擦で音が流れるんだよ。」

「つまり、あの場所で聞いた音楽は、このメロディーロードの…」

「そういうこと。」


 一条先生が記事をスクロールしていくと確かに、心霊スポットと呼ばれていた住所に『楽曲:カントリーロード』と記載されている。


「君は昨日、不気味な"音"ではなく、"音楽"と言っていたね。もちろん、車の走るスピードによって曲の速さは変わるけれど、ところどころ聞いたことがある節があったから、脳内では"音楽"と捉えたんじゃないかな。事実、カントリーロードは誰しもが知る有名な曲だ。」


 俺はその時、幼少期の思い出がふと蘇っていた。両親と墓参りで長距離ドライブをしていた時に、車体の揺れで寝ていた俺は目を覚ました。

「お父さん…なんか変な音するー」

「これはね、メロディーロードって言って、運転する人が眠くならないように、道路が音楽を流してくれるんだよ。」

 ……そう答えた父親の顔は、思い出せない。


「…くん、千景くん。」

「あっ、えっと…」

 気づけば、俺に視線が集まっていた。

「いや、あの、すみません。他のこと考えちゃってて…」

「素直でいいね。」

 一条先生が俺を見て、微笑む。


「つまり、君たちが体験した耳鳴りは、モスキート音だった。そして不気味な音楽は、メロディーロードで聞いた音楽だった。このことから、僕は、君たちは呪われてないと思う」

 ほっとした様子の学生たちだったが、一人の学生は俯いている。


「でも、指紋が…」

「それについても、簡単に説明がつくよ。」

「え?」

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