第4話 心霊ドライブ

 次の日、いつも通り放課後にサークルに寄り、俺と後藤先輩は一条先生に昨日相談しに来た学生たちを集めるよう頼まれた。


「先生、呼んできました。」

「ありがとう、じゃあ座って。」

 一条先生は、長机で作業していたノートパソコンを閉じ、学生たちに座るよう促した。

 少し怯えた表情の学生たちはそれぞれ椅子に座ると、一条先生は、いつものにこやかな表情を浮かべた。

「昨日あの後、僕たちあの心霊スポットに行ってきたんだ。」

 学生たちは驚いたような表情で、一条先生を見つめた。

「やっぱり、君たちの言う通り、耳鳴りもしたし、不気味な音楽も聞こえた。」

「じゃあ…本当に心霊が…」

 学生の一人がか細い声で呟くと、一条先生は静かに首を振った。


「これを見てくれるかな。」

 ノートパソコンを学生たちに向けた後、俺と後藤先輩に「君たちも来て来て。」と手招きをした。

「これは、昨日心霊スポットに行って録音してきた音だ。」

 そう言って、一条先生はスペースキーを軽やかに叩いた。


 …キーーーーーン


 そこに居た全員が顔を歪める。

 一条先生が俺らの様子を確認した後、音を止めた。


「あの場所で聞いた音と一緒かな?」

「はい、耳鳴りの音と一緒です。」

「そう、これは"耳鳴りのような高音"だ。」

「え?」

 学生含め、俺と後藤先輩も呆気に取られている。


「そもそも耳鳴りを全く同じタイミングで、起こすなんて僕はもちろん、医者でも難しい。だからこれは耳鳴りじゃない。"耳鳴りのような高音"でしかない。」

「つまり、それってどういうことですか?」

 学生の一人が身を乗り出して、一条先生の瞳を覗く。

 一条先生は立ち上がって、ピンと人差し指を立てた。

「こんな話がある。夜の公園に若者がたむろして、騒いだりすることに苦情が相次いだ。そして、公園を管理する区役所は、"ある音"を流すことにしたんだ。」

「あ…、もしかして……"モスキート音"ですか。」

「そう、モスキート音だ。」


 一条先生は座り直し、ノートパソコンを操作しながら話をつづけた。

「ネット上に載ってるモスキート音の波形と、実際に昨日録音してきた音を照らし合わせると…。」

 一条先生が再び学生たちに見せた。

「ほとんど一致してる…」

「やっぱり録音機材によって性能差がでちゃうから、全く一緒になることはないけど、ほとんど合ってるよね。」

 その瞬間俺は昨日、外で何かを掲げる一条先生の姿を思い出していた。あれは、機材でその場の音を録音していたんだろう。


「そしてあの場所を管理してる役所に電話して聞いてみたら、決まった時間でモスキート音を流しているって言ってたよ。あの場所は夜間トラックが多く通る。決して広いとは言えない道路で、たむろした学生や車があると事故になりかねない。だから、近所の学生たちが集まりだした頃からモスキート音を流し始めたんだ。」

 それを聞いた学生たちは何だがバツが悪そうな顔でお互い見つめ合っている。


「じゃ、じゃあ。あの不気味な音楽は…」

「それについても説明は簡単だよ。」

「えっ?」

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