第2話 ミステリーサークル
「一条先生ですよね!?」
息を切らしながら教壇前で叫んだその女性の声に、一条先生は明らかに困惑するような表情だった。彼女はさっきの熱烈な一条先生のファンだろうか。
「あの…私、人文学部3年の……後藤、なぎ…さって言うんですけど。」
肩で息をしながら、突然自己紹介を始めた彼女は「ごとう なぎさ」と言うらしい。
「えっと…確か、僕の授業では3年生が居なかった気が…」
頭をかきながら、彼女を見つめる一条先生。異様な光景に圧倒されて、俺は立ち上がることすら忘れていた。
「はい!先生の授業は履修してません!」
「えっと、じゃあどう「ミステリーサークルの顧問になってほしいんです!」
凄いな、彼女は。初対面で且つ教授の発言を遮って「ミステリーサークルの顧問になってほしい」と叫んだのだ。
「え?」
「私、ミステリーサークルをやってるんですけど、顧問の先生が退職しちゃって、それで顧問の先生が必要で!」
「いや、僕もこの大学に来てばっかりだし、その、ミステリーサークル…もよく分からないし…」
「大丈夫です!前の顧問は名前だけで部室に来たこと一回もないんで!」
それは一条先生の回答になってないのではないだろうか。
「よ、良く分からないけど、その、顧問ってのは…まぁ、高校の部活動と違って、何か指導したりしない感じなんだね。」
「そうです!そうです!先生が顧問になってくれないと、ミステリーサークル無くなっちゃうんです、お願いします!」
何度も頭を下げる彼女にしびれを切らしたように、一条先生は腕組をして「う~ん」と渋っている。
「いいよ。顧問、なろう。」
「「えっ?」」
後藤さんと僕の声が重なり、思わず「あっ…すみません」と答えたが、彼女の耳に入る前に「一条先生!!ほんとですか!!」と目を輝かせている。なんなら「ありがとうございます!!」と勝手に一条先生の手を取り、振り回すように握手まで交わしている。
「あっ!でも…」
後藤さんは急に顔を曇らせ、一条先生の手を雑に放し、顎に手を当て、何かを考え込むような表情になった。
「最低でも部員が3人必要であと、2人足りないんです。」
「はっ…?」
一条先生の顔が歪んだ。多分目の前に今まで体験したことのない怪奇現象が起きているからだろう。
「えっと…ってことは、ミステリーサークルの部員は今のところ後藤さんだけってこと?」
「そうです。」
悪びれもなさそうな彼女の顔に何も言えなくなってしまう一条先生が可哀想になってきた。
「でも大丈夫です。私思いつきました。」
「な、何を…?」
「先生は、顧問兼部員。もう一人は~」
突然俺の目の前に人差し指が突き付けられた。
「君!」
「「えっ??」」
思わず、一条先生までもが大きな声を漏らした。
「君が新入部員だ。」
パッチリとした瞳に、見つめられ時が止まった感覚に陥った。
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