第16話
夢を見ているみたいだった。体の中に僕にはあるはずのない魔力を強く感じる。力が湧いてくる。夢の中で僕に声をかけてくれたイルムの姿ははっきりとは覚えていない。勝ち誇った顔をする男たちに絶望のどん底にいるエルザの姿がはっきりと見える。
「エルザ。おはよう」
「レイン!生きていたの?」
「当たり前だ!エルザを置いてなんかいけないさ」
僕は笑顔でエルザの方を見る。エルザの安心し切った顔。僕はこれを見たいと思っていたのかもしれない。
「あのまま死んでおけば楽だったのになぁ!お前らやってしまえ!あいつは動くことすらできないはずだ!」
「了解だぜ!ジルの兄貴!」
「動けないと思うか?笑わせるなよ!こんな鎖で僕は縛って置けない!空間魔法、次元斬り‼︎」
僕は見えない斬撃で鎖を斬る。エルザの鎖と首輪も外した。男たちは目の前でないが怒ったのか全く理解できていない様子だった。イルムと話した後に頭の中に使える魔法の種類が流れ込んできていた。どれも全く見たことのない魔法だった。
「魔法が使えるだと?セリア・ガーネルはそんなことは言っていなかったぞ」
ジルは驚いた様子で、僕の実の母親の名前を言う。
「セリア・ガーネル……だと?」
「そうだ、お前を殺そうとしていたのは実の母親なんだぞ!可哀想なやつだな。はっはっは」
「……」
僕はショックだった。捨てただけならまだ良いものの、僕を殺そうとしていたなんて……。そのせいでエルザを始めとするバイオレット家のみんなも巻き込んでしまった。怒りがふつふつと湧いてくる。
「ふざけるなよ、そのせいでどれだけの人に迷惑がかかったのか分かっているのか‼︎」
僕はブチギレた。こんなに感情を表に出したのは初めてかもしれない。それだけ許すことができなかったのだ。魔力が増幅しているのが伝わってくる。
「こんなガキに負けるわけがないだろ!やってしまえ!」
五人の取り巻きたちはジルの指示で僕に【ファイアボール】、【ウォーターランス】、【エアカッター】、【ロックブラスト】、【ファイアランス】を打ち込んできた。
「アンチマジック‼︎」
五人の取り巻きの渾身の一撃を僕は手を払っただけで消し去る。アンチマジック、これはあらゆる魔法を打ち消す能力を持つ。弱点として、直接魔法に触れなければ打ち消すことはできないらしい。不意打ちとかには弱い魔法だ。
「何っ?」
五人の取り巻きは後ろに下がった。
「身体強化!空間転移!」
僕は一人の取り巻きの目の前に突然姿を現し、顔面を全力で殴る。強化された拳の威力は強すぎるため、男は吹っ飛んでいく。そして地下室の壁に激突して、気絶した。他の取り巻きたちも同じ方法で気絶させていく。
「あとはお前だけだ!罪を償え!」
「罪を償う?何を言っている。これが仕事なんだ。この世界合法的なものなんだ!アブソーブマジックフィールド展開‼︎」
地下室全体を包むように展開されは薄灰色の結界。中にいる人の魔力を奪っていくものらしい。僕の魔力も急激に減っていくのがよく分かる。エルザは魔力を奪われて苦しそうにしている。早くなんとかしないとエルザが死んでしまう気がした。
「エルザ。この中にいれば安心だ」
僕はエルザを囲むように結界を張る。
「……うん。ありがとう。えへへ」
エルザは僕に微笑む。地下室全体と行きたいところだが、それは不可能らしい。
「どうした?苦しいだろ?」
「いや……全く苦しくない」
元の魔力量が多いのか、吸収されても何ともなかった。魔力がゼロと言うのは嘘だったみたいだ。多すぎるせいで、表示されなかっただけ……。
ジルは魔力を人から奪い自分の力に変換している。長期戦になれば僕の方が不利だ。短い間で蹴りをつけないといけない。ジルはナイフを手に取り、僕に迫ってくる。
「早いっ……」
多くの魔力を吸収して人間離れした速度だった。僕は空間転移でナイフを避けて、ジルの後ろに姿を現した。そして拳を叩き込む。ジルは僕の行動を予測していたのか、体の向きを百八十度回転させて、僕の拳をナイフで受け止める。
「これでも斬れないのか……その能力は厄介すぎるぜ!」
身体強化された僕の手は鋼よりも硬い。ただのナイフでは傷一つつけることができないだろう。ジルはニヤリと笑っている。
「なぜ、笑っている!」
「俺とやりあえるやつは初めてだからよぉ。楽しいんだ」
ジルは僕の拳を弾いて、距離を取る。
「僕は楽しんでいるつもりはない!終わりだ!次元斬り‼︎」
ジルの右手は見えない斬撃によって、切断される。僕はナイフを持っていた利き手を狙った。これで諦めるだろうと思ったからだ。
「お前の負けだ!大人しく罪を認めろ!」
「俺が負けただと……舐めたことを言ってるんじゃねぇ!ブラックホール‼︎こっちに来い!小娘‼︎」
ジルは手からブラックホールみたいなものを左手から出現させて、エルザのみを引っ張った。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
エルザは悲鳴を上げながら、男の手の中に収まる。
「こいつを殺されたくなければ、お前が降参しろ!」
ジルは隠し持っていたナイフでエルザの首を軽く斬って、僕に降参を迫る。エルザの首からは血が出ていた。エルザは耐えてはいるものの、痛そうな顔をしている。顔色も良くない。
「腐ってやがる!」
「大切な人が人質になれば、大抵のやつは降参するだろ!これも立派な戦術だ!」
「そうか……生かしてやろうと思ったが、もういい。お前ら全員まとめて死ね。グラビティ‼︎」
ジルも含めて、目を覚ましていた取り巻きの男たちも全員まとめて、重力操作で重力を重たくして、動けなくする。僕はエルザをジルから助け出した。
「さよなら!インパクト‼︎」
僕がそう言うとジルたちは圧力によって体を押し潰され、破裂した。もうジルたちの姿はなく、肉片と血が残るだけとなった。
「エルザ……大丈夫……」
僕はそれだけ言い残すと気を失ってしまった。
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