レイン覚醒
第14話
朝になり、ライラとリーナは僕とエルザが寝ている寝室の中に入ってくる。カーテンがゆらゆらと揺れて、風が部屋の中に吹き込む。ベッドには赤色で玉のような形のもの所々に付着している。ベッドの上にはカイル様がレイン様に上げた剣がのっていた。剣は鞘から抜いてあり、何かあったのではないかと思った。
「リーナすぐにカイル様を呼んできなさい!」
「急にどうしたんですか?」
「理由はあとで説明します!早く!」
「は、はいっ!」
血相を変えて、慌てるライラ。リーナは何が起きたのか全く理解できず、急いで部屋から出ていった。ライラはベッドに近づく。
「これは血……?一体、何が起きたの……?」
ライラは呟く。ライラ以外ここには居ないので、返事はもちろん帰ってこない。カーテンを開ける。人が通れるくらいの穴が空いている。窓ガラスからは焦げ臭い匂いがする。リーナの前では平静を装っていたが、正直なことを言うとエルザ様とレイン様のことが心配で心配で居ても立っても居られない精神状態だった。
(もう会えなくなってしまったらどうしよう……)
ネガティブな想像ばかりが、頭の中をぐるぐると回る。
「このままじゃいけない……」
ライラは頬をバシッと叩いて、気持ちを切り替える。ネガティブなことばかり考えていては、正常な判断ができなくなってしまう。今はカイル様に相談して、指示を仰ぐことにする。
リーナがカイル様を連れて、部屋に戻ってくる。リーナが慌てていたことにより、カイル様以外にもレイナ様、お父様、お母様の姿も見える。
「ライラ。状況を説明しなさい」
「はいっ。今朝、エルザ様とレイン様を起こしに向かったところ、部屋の中には誰もいませんでした。布団についている血を見るに、昨日の夜に何者かの襲撃に遭ってしまい交戦の末に。拐われてしまったのではないかと思います」
ライラの心臓はバクバクだった。何を言われても覚悟はできていた。しかし昨日は全く気づくことができなかった。ライラは自分の不甲斐なさに気を落としてしまっている。
「エルザ……レイン……」
レイナ様はベッドにうつ伏せになり、静かに体を震わせている。その姿を見ることはライラにはできなかった。カイル様が優しくレイナ様の背中をさする。カイル様が離れるとお母様が「大丈夫です。絶対に見つかります」と言って、代わりを務めていた。
「すいませんでした」
落ち込んでいるライラを庇うようにリーナは謝罪した。ライラも一緒に頭を下げる。こう言う時のリーナは心の支えになる。(私もお姉さまの支えになる)と聞こえてきた気がした。少しだけ気が楽になった。
「ライラ、リーナ。謝らずとも良い。結界を張っているからと安心していた私の責任だ。ワイズ、結界の様子を見てきてくれるか?」
「承知いたしました」
お父様はカイル様に返答をするとどこかに空間転移した。魔法が日常的に使われているこの世界の法律で家や屋敷には魔法防御の結界を張ると義務付けられている。普通の魔導士ならば侵入することは不可能のはずだった。
数分が経ち、お父様はカイル様の隣に姿を現す。いつ見てもこの魔法はすごいと思ってしまう。お父様は唯一の特異魔導士だ。誰もあの魔法を使うことはできないとされている。
「ワイズ。どうだった?」
「はい。調査をしたところ人が通り抜けられるほどの穴が開いている場所が見つかりました。おそらくですが、特殊魔導士が使う闇属性魔法のアブソーブマジックによるものでしょう」
アブソーブマジックとは相手の魔法を吸収して、自分の力にすると言うもので闇を使う特殊魔導士の中で極めて凶悪で使える人は極小数と言われている。
「アブソーブマジックだとっ!舐めた真似をしやがって!私の娘と息子に手を出して、ただで済むとは思うな!」
カイル様は近くにあった机を叩く。鈍い音が部屋中に響く。あんなカイル様は今まで一度も見たことがなかった。ライラはその姿を見て畏縮してしまう。
「カイル様。今は抑えてください!みんな様が畏縮していますよ」
「……すまない。感情的になってしまった……」
カイル様はみんなに頭を下げる。お父様はカイル様の教育係をやっていたこともあり、こう言う時は止めに入ってくれる。お父様の尊敬しているところの一つだ。
「ワイズ。すぐに騎士団を屋敷の広場に集めろ!結界の修復、並びに強化も任せる」
「承知いたしました。すぐに取り掛かります」
ワイズは再び空間転移を利用して、屋敷の敷地内にある騎士団の詰め所に向かった。
「レイナ。絶対に二人は助けて出す。だから安心してくれ」
レイナ様に優しく声をかけて、手を差し出すカイル様。レイナ様は目を潤わせながらこくりと頷いて、カイル様の手をとった。ライラが将来なりたいと思っている夫婦の形だ。
屋敷の広場に騎士団の人たちが綺麗に整列をしている。隊列の真ん中あたりにいるのが、騎士団長のアゼル・ローランド。リーネルを所領としている辺境伯家の三男だ。辺境伯家で幼い頃から鍛えられており、腕が立つ。ライラはレイン様を抱き抱えて、屋敷に走ってきた日のことを思い出ていた。
「よく集まってくれた!感謝する」
カイル様は騎士団の人たちの前にある演説台に立って言う。気が気ではないはずなのに堂々と大きな声で話すカイル様はかっこよかった。
「昨夜、私の娘のエルザと息子のレインが何者かに拐われた。皆には二人の捜索に当たってほしい。二人を無事に助け出してくれ……」
カイル様は頭を下げる。最後に言った言葉はカイル様の心からのお願いだ。
「了解しました!」
騎士団の人たちが一斉に敬礼をする。統率の取れた動きは見惚れてしまうほどだ。さすがはアーネストが誇る最強騎士団と言える。アゼルの指示によって、騎士団はいくつかの小隊に分類される。各小隊長の指示で次から次に屋敷から街に向かっていった。
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