誘拐された

第12話

「何なの?あの子は‼︎自分だけ幸せになって‼︎」


 声を荒げるのはレインの実の母、セリア・ガーネル。アーネストに買い物に行った際に女の子と幸せそうに食べ歩きをしていたレインを見かけていた。


「落ちこぼれの癖に何で私より幸せなのよ‼︎」


 嫉妬心を抱いていた。レインの情報がどこから漏れたかは分からないが、街に出ると領民から可哀想な目を向けられていて、どうかなってしまいそうだった。レインが出ていった後、夫のリンドは屋敷に全然、帰ってこなくなっていた。


「夫が帰ってこなくなったのも、全てレインのせいよ‼︎レインが邪魔だわ。殺してしまおうかしら。ふふふ……ふふふ」


 何かを企むような笑みを浮かべるセリア。セリアは正気ではなかった。セリアはすぐにガラの悪そうな五人組に依頼をした。


「この女の子はどうします?」


 レインと女の子が打っている写真を見ながら、女の子を指差して笑っているリーダーの男。


「あぁあ。その子ね……貴族に売って仕舞えばいいじゃない」

「分かったぜ!久しぶりに腕がなるわ!」


 そう言い残して屋敷を出ていく男たち。セリアは不敵な笑みを浮かべているだけだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エルザから貰ったネックレスを僕は付けていた。このネックレスは一生大事にしようと誓った。屋敷まで戻ってきた僕とエルザは中に入っていく。


「エルザ様、お帰りなさいませ。うまく行きましたか?」

「ねぇ、聞いてライラ。頑固なレインのせいで、サプライズが成功しなかったの」

「それは残念でしたね」


 帰って早々僕のことをライラさんに言いつけるエルザ。それでも嬉しそうにしていたので、僕は何とも思わなかった。


「エルザ、本当にごめん」


 僕はエルザに誠意を持って、両手を合わせて頭を下げる。


「今日、ずっとそばにいてくれたら許してあげる」

「仰せのままに。エルザ姉ちゃん」

「恥ずかしいから、姉ちゃん呼びは辞めて」

「いいでしょ。姉さんなんだから」

「ふんっ。勝手にすれば」


 僕がエルザをからかうと顔を赤くしながらそっぽを向く。照れているようだ。そんな姿をライラさんは優しい笑顔で見ていた。


「エルザ様。お勉強の時間です」


 昼食を終えて、食堂から出た時にライラさんから声を掛けられる。


「今から行くわ。レインも付いてきて」

「は〜い」


 僕は微笑みながらエルザの後を着いていく。あの一件でバイオレット家のみんなを信頼することに決めた僕は気持ちが楽になったことに気がつく。僕は幸せだった。今までにないほど満たされていた。

 エルザの部屋で勉強が始まる。今日の勉強題目は貴族と領民の関係性についてだった。ライラさんが説明をしてくれている。


「私たち貴族は領民の収める税金で生活ができています。その為、領民のことは大切にしなければいけません。もし領民の反感をかうことになったら貴族としての役目を終えると心得てください。領民あっての貴族です」

「ライラさん。質問です」

「何ですか?レイン様」

「もし領民が悪いことをした場合はどうしますか?」

「そう言う場合はしっかりと罰を与えなければなりません。領民を大切にと言っていますが、ルールを破るような領民がいた場合、正すことも貴族の仕事です。それができなければ街の治安は悪くなり、衰退していくだけです」

「分かりやすいです。ありがとうございます」


 僕は机の上に広げてあるノートにライラさんが言ったことをしっかりとメモする。人間の記憶は儚いもので、すぐに忘れてしまう。それを防ぐためにはメモを取ることが大切だ。


「はいはーい。エルザも質問します」

「何でしょうか?」

「もし、反感をかうような行動をとってしまった場合はどうするの?」

「すぐに自分の非を認め、謝ることです。時間をかければかけるほど修復が難しくなっていきます。自分は悪くない、あいつが悪いんだと、考えることは絶対にしてはいけません」

「分かった」


 エルザも僕の真似をしてノートにメモを取る。最初に勉強を一緒にした時、エルザはこんな行動は取っていなかったはすだ。心境の変化でもあったのだろうか……。

 勉強を終えて、休憩の時間になる。エルザは「疲れたぁ」と言いながら机に伏せた。僕はまだまだ余裕があったので、メモした事をもう一回見返して、復習をしていた。


「お飲み物でも持ってきますね」

「……うん。お願い」

「よろしくお願いします」

ライラさんは部屋から出ていく。

「ねぇ、レイン。見たー?エルザ頑張ったよ」

「見てた。エルザがメモを取るなんて驚いた」

「レインの真似をしただけだもん」

「それなら復讐もしようか」


 僕はにやけ顔でエルザに言う。


「えー。疲れたからもう少し後で」


 エルザは嫌がらなかった。嫌がる反応が面白いから言ってみたのに嫌がるどころか後でやると言っている。当てが外れて僕は少しだけがっかりしてしまった。それでもエルザが真面目に勉強をしているのは良いと思った。

 しばらくしてライラさんが飲み物を持って、戻ってくる。僕とエルザの前に置かれたのはキンキンに冷えたオレンジジュースだった。


「ぷはぁー……生き返る〜」


 頭を使った後のビタミンCの摂取は最高だった。ライラさんはクスクスと笑っている。エルザは飲み物を飲みながら僕と同様で復習をしている。


「エルザ様、次は魔法訓練の時間です」

「分かった。レインもくるでしょ?」

「うん、行くよ」


 ライラさんに連れられ、屋敷の外にある練習場に向かう。魔法を教えているのもライラさんらしい。


「私が見本を見せます。エアカッター」


 ライラさんがそう言うと風が手を囲むように吹き始めた。そして手を前に出すのと同時に風の刃を的まで飛ばす。風に触れた的は粉々になった。窓はすぐに修復されて元通りの姿に戻る。


「次はエルザ様の番です。火の魔法からやってみましょう」

「はいっ、ファイアボール」


 僕を助けてくれた時にエルザが使っていた火の魔法だ。火球は的まで一直線にとり、当たった瞬間に炎上する。


「合格です。次は水の魔法」

「はいっ、ウォーターランス」


 これも魔物にとどめを指す時に使っていた魔法だ。水の槍は的を見事に貫いた。


「さすがですね。次は私と同じ風の魔法を使ってください」

「はいっ、エアカッター」


 全部、僕が見たことのある魔法ばかりだった。ライラさんと同様でエルザが飛ばした風は的を粉々にする。


「素晴らしい。では最後に土の魔法をお願いします」

「はいっ、ロックブラスト」


 岩の破片がエルザの目の前に浮き上がる。そしてエルザの手を動きに連動するように岩の塊が的に発射される。的は穴だらけになった。


「見事です。優秀ですね」

「えへへ、ありがとう」


 エルザは本に書いてあった知識を借りるとフォースキャスターと言うらしい。この世界にも四人しか存在しておらず、レアな存在ということになる。その為、いろんな人に狙われるみたいだ。街に出る時も影から護衛がエルザのことを見守っていた。その後も魔法の訓練は続き、僕は見守ることしかできなかった。


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