街に出かける

第10話

 リーナはレインを起こすために部屋に来ていた。何回ノックをしても返事が返ってこない。リーナはレインが寝ていると思い部屋の中に入っていく。


「レイン様。朝ですよ」


 リーナはレインが部屋にいないことに気づいた。顔が青ざめる。リーナは慌てて部屋から飛び出す。


「お姉様ぁぁぁ。レイン様がいなくなってしまいましたぁぁぁ……うわぁぁぁ……わぁぁぁぁ……」


 リーナは廊下を歩いていたライラの胸元に飛び込む。ライラはリーナがここに来た頃に指導係をやってもらっていたので姉のように慕っていた。 


「よしよし、泣かないの、リーナ。お母様に聞いてみましょう」 

「……うん」


 ライラは優しく頭を撫でる。ライラはリーナが落ち着いたことを確認すると使用人を仕切っている立場にあるお母様の元に向かう。お母様なら屋敷のことを全て把握しているはずだからだ。お母様の部屋の扉をノックする。


「入っていいわよ」

「失礼します」


 ライラとリーナは一言言うと部屋の中に入っていく。部屋の中にある席に座っていたのは、空色のロングヘアに五十歳に見えないくらいの美貌をしている女性だった。


「ライラ、リーナ。朝からどうしたの?そんなに慌てて」

「すいませんでした。わ、私の不注意でレイン様がいなくなってしまいました」


 リーナは深々と頭を下げる。ライラも同じように頭を下げてくれた。叱られると思った。リーナの体は震えていた。


「あぁあ。その事なら問題ないわ」

「えっ?」


 リーナは頭を傾げる。全く怒っていないローズ様、状況を飲み込めなかった。


「二人ともついてきなさい」


 ローズ様に言われて、後をついていく。ローズ様が向かっていた部屋はレイナ様のところだった。


(どうしてレイナ様のところに?)


 リーナの頭の中には疑問が浮かぶ。


「レイナ様はまだお休みになられていますので、静かにしてくださいね」

「はいっ」

「分かりました」


 ローズ様の言葉にリーナとライラは返事を返す。ローズ様が静かにレイナ様の部屋の扉を開ける。ベッドには眠っているレイナ様。そしてレイナ様が抱きしめていたのが、レイン様だった。


「レイン様がなぜここに?」

「理由は分からないわ。でも普段なら起きている時間にレイナ様の部屋に伺ったらレイン様と一緒にお休みになられていたわ」


 リーナは驚いた。エルザ様がこんな行動をとっているところを見たことがなかったからだ。それに幸せそうに眠っている二人を見て、なんだか癒される気がした。リーナたちは静かにレイナ様の部屋を後にする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕は母親に包み込まれているような温もりを感じていた。昨日、レイナ様に本を読んで貰っていつの間にか眠ってしまっていたようだ。レイナ様は動く気配がない。僕はレイナ様が起きるまで、寝て待つことにした。


「レイン、レイン。朝ですよ」


 優しく体を揺らされて、僕は右手で目をこすりながらゆっくりと目を開ける。レイナ様が起きるまで、起きていようと思っていたのだが、横になっていたらいつの間にか二度寝していたらしい。


「レイナ様……おはようございます……」

「おはよう。レイン」


 優しく微笑むレイナ様。僕も自然と笑顔になる。レイナ様の部屋の机の上には二人分の着替えが綺麗に置いてあった。


「ローズったら……」


 レイナ様は呟く。


「レイナ様、どうしたんですか?」

「何でもないわ。レイン、着替えますよ」

「はいっ」 


 僕は寝巻きを脱いで、用意されていた着替えを着た。子供の前という理由で、レイナ様は堂々と下着になる。僕には前世の記憶があるので、極力見ないようにしていた。しかし精神年齢十七歳の思春期の男だということは変わりないので、チラ見はしてしまう。大きな胸に綺麗なボディーライン。男の子大事なところが反応している。

 着替えを終え、僕はレイナ様に鏡の前で寝癖を直してもらっていた。本来は侍女がいるはずなので、レイナ様自らこんなことはしないはずだ。


「はい。綺麗になりました」

「レイナ様、ありがとう存じます」

「いいのよ。私も準備をしますからそこを譲ってくれる?」

「すいません。どうぞ」


 レイナ様は自分の身支度を整える。僕はその間ベッドの上でくつろいでいたレイナ様を待っていた。


「レイン、待たせたわね。食堂に行きますよ」

「はいっ」


 僕はレイナ様と手を繋いで、食堂に向かう。こんなことをしてもらったのはいつぶりだろう。向こうの世界でも親とまともに話していなかった。学校でも常に孤立。僕は満たされていた。昨日と同様で、食堂の入り口ではワイズさんがいた。僕とレイナ様は挨拶を交わす。


「ローズ。今朝はありがとう」

「いえいえ。ゆっくりとお休みになられていましたので」


 昨日は見なかった顔。レイナ様と話している女性はローズさんと言うらしい。


「おはよう。リーナ」

「おはようございます。レイン様」


 昨日とは違って、緊張はしていない様子。笑顔がとても可愛らしい。レイナ様はローズさんに僕はリーナに席まで案内してもらい椅子に座る。


「レイン、今日はレイナと一緒だったのか」

「はい、カイル様。一人で眠れなかったので、一緒に寝てもらいました」

「そうか、そうか」

「カイル、レインの寝顔は可愛かったわよ」

「そうなのか、レイナ。私も見てみたいな」


 レイナ様に寝顔を見られていたなんて、恥ずかしくなってしまう。みんなの笑いが飛び交う中。エルザは一人だけ不満そうな顔をしていた。


「エルザ。どうしたの?」

「レインのバカ……エルザの部屋に来て欲しかったのに……」


 膨れ顔をするエルザ。


「そんなことを言わないの!エルザ」

「だって……だって……」

分かりやすく気を落とすエルザ。ヤキモチを妬いているように見えた。

「エルザ。レインが困っているわ。やめなさい」

「……はい」


 レイナ様に叱られて、エルザは大人しくなった。食事を終えてエルザはすぐに僕に寄ってくる。

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