バイオレット侯爵家の養子になった
第7話
エルザは僕を連れてどこかに向かっているようだ。お母様の時とは違って、優しく引っ張ってくれるエルザ。それだけでも安心して着いていくことができる。
「エルザ様。どこに行かれるのですか?」
空色のロングヘアをなびかせて、誰もが一目惚れしてしまいそうな容姿をしている女性はエルザに話しかける。メイド服を着ており、この屋敷で雇われていることは一目で分かる。女性は僕を見るとお辞儀をした。僕も女性にお辞儀をする。
「パパ様のところ」
「エルザ様。許可をいただいてから向かうべきではないですか?」
「それもそうね。ライラ頼める?」
「勿論です。お任せください」
足早にこの場を後にするライラさん。僕とエルザはライラさんが帰ってくるのを待った。
しばらくしてライラさんは僕とエルザの前に姿を現す。
「ライラ。どうだった?」
「会ってくださるそうです」
「ありがとう、ライラ。行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」
ライラさんは優しく微笑んでいた。僕は再びエルザに手を引かれて、歩き出す。エルザは扉の前で止まる。エルザは扉をノックした。
「パパ様、パパ様。エルザです」
「入りなさい」
男性の声が返ってくるのを確認すると、エルザは扉を開けて中に入っていく。
「大丈夫だよ。行こ」
「うん」
部屋に入ることを躊躇してしまう。怖かったのだ。体も震えてしまっている。そんな僕に対して、エルザは優しく声をかけてくれた。手の握りが少しだけ強くなる。「守ってあげるから」と言うエルザの意志を感じた。僕はエルザに引っ張られて入室する。
高そうな服を着ていて、狐色の髪でオールバック。そして薄茶色の瞳が僕たちを見つめる。非常に整った容姿は女性を虜にしてしまうだろう。
そんな壮年の男性が、社長が使用しているような執務机の裏にある椅子に座っていた。この部屋は男性が仕事をする部屋なのだろう。部屋のサイドには本が綺麗に敷き詰められており、ジャンルごとに分けてある。どれも気になる本ばかりだった。
「エルザ。その子はどうした?」
「森で魔物に襲われているところをエルザが助けました。魔力がなく、属性適性がないと言う理由で親に家を追い出されたみたいです」
「それは大変だったな」
優しく微笑む壮年男性。隣にいた茶色の髪に少しの白髪が見える整った容姿の中年男性から何かを受け取り、それを見る。中年男性は壮年男性に信頼されているらしい。格好を見る限り、この屋敷の執事をやっているのだと思う。
「君、名前は?」
「はいっ。レインと申します」
「そうか、そうだよな。苗字は言いたくないよな」
「すいません……」
「いいんだよ」
僕の素性をしっかりと調査しているような返事。壮年男性の言う通りで、苗字を言ってしまうと両親のことを思い出して悲しくなってしまう。だから言わなかった。それが分かっている様子だった。
「ワイズ。この子をバイオレット家の養子に迎える。ガーネル家の動きをしっかりと監視しておけ」
「承知いたしました。カイル様」
「レインよ。今日からレイン・バイオレットと名乗るが良い」
「分かりました。ありがとう存じます」
「パパ様。ありがとうこ存じます」
僕とエルザは深々と頭を下げる。バイオレット家の養子として育てられることになったが、不安な気持ちの方が強い。また捨てられてしまうのではないかと考えてしまうからだ。僕とエルザは部屋から出ていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人が部屋から出ていったことを確認して、口を開く。
「なぁ、ワイズ。魔力がないことはあり得ると思うか?」
壮年男性は言う。壮年男性の名前はカイル。
「いいえ、ありません。きっと何かの手違いかと」
「そうだよな……それなのに可哀想に」
「そうでよね、カイル様。私の考えることを申してもいいですか?」
「ちょうど、ワイズの意見を聞きたいと思っていたところだ。許可する」
「カイル様にレイン様は属性適性がないと報告しましたね」
「確かにそうだが、どうかしたのか?」
「はい。まだ覚醒していないようなので、推測なのですがレイン様は私と同じロストマジックの使い手かと」
「やはりそうだよな、ワイズが精霊の義を行った時と事情が似ている」
カイルは難しい顔をする。
「はい。それの影響で属性適性がないと出たのではないかと思われます」
「そうなれば、大事だぞ。しっかりと守らねばならない」
「心得ております」
ワイズは一礼すると、カイルの執務室から出て行こうとする。
「それと、ワイズ。三時間後くらいに私の部屋にレインを呼んでくれるか?ここにある本を読みたそうな顔をしていた」
「かしこまりました」
そう言い残すとワイズはカイルの執務室から出ていった。
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