第49話ギルド戦3
フレデリカは焦燥感に駆られていた。
「まずいね……」
隣のユキナが呟いた。ユキナも同様に焦りを覚えているのだ。
もとから不利な戦いであることはわかっていた。
人数が一人足りない。相手よりも平均レベルが低い。
今までわかっていた弱点に加えて、ギルド戦では対モンスター戦よりも前衛が必要になることが多く、前衛が二人しかいないというのも大きな問題になっている。
それでもなんとか条件を整えて。
イリアにもパワーレベリングをしてもらって。
特に力を入れてパワーレベリングを施されたフレデリカはレベル100になった。ユキナはレベル82、ラフィも71だ。
自信になった。
勝てるんだというが確信に満ちていた。
けれど、現実はそう甘くはなかった。
「どうした?今になって怖気づいたか?」
ユキナよりも刀身の長い刀を担いだ《ピース》の男が挑発する。
敵の防御陣は四人。
ハンナに『スキルシェア』をしてもらった『鑑定』で確認すると、全員レベル80以上。
挑発してきた男に限ってはレベル108と表示されている。フレデリカよりも上だ。
どうやら相手は『鑑定阻害』のスキルを共有はしていないようだが、それは自分たちも同じ。今回は速攻で決めるために、守りに強い『鑑定阻害』ではなく攻めに強い『鑑定』を共有している。
「セイラ」
フレデリカがこの場にいないセイラの名前を呼ぶ。
ギルド戦では幾つかの通話モードがあり、特殊なスキルや魔法がなくても遠隔でやり取りできるようになっている。
『フレデリカ、こっちは三人だよ』
「こっちは四人。伏兵はいなさそうだね」
今回事前に定めたルール上での通話モードは、「オーダー通話」。オーダーとなる一人のプレイヤーを定め、そのプレイヤーとのみ各プレイヤーが通話できるモードだ。
「とりあえず作戦通りに。ただこっちも簡単には打ち破れなさそう」
『私たちもきついかも。あのリーダーの人レベル120なんだけど』
「頑張ってとしか言えないかな」
『うん。できるだけなんとかしてみるよ』
不甲斐ないリーダーだ。そう卑下したくなる気持ちを抑え、胸を叩き、自身を鼓舞する。ここで自分がマイナス思考になってしまうと、勝てるものも勝てなくなる。
「ラフィ、できるだけ回転率の高い魔法で攪乱!ユキナは私とカバーしあえる位置で戦うよ」
人数不利、レベル不利で一対一などできるわけもない。できるのは最大限の連携を見せることだけだ。
「行くよ!」
その合図とともに、フレデリカとユキナが地面を蹴る。二人同時に並んで走り出せたのはここ最近の特訓で連携力を大きく向上させた効果だ。
ラフィも同時に魔法を発動。魔法を直接当てにいくのではなく、地面に着弾するように打つことで粉塵を発生させる。
これで前衛二人が詰めるまでの数秒は魔法を気にせずに進むことができる。
粉塵の向こう、僅かに見えた影。
フレデリカの突き出した槍がその影を貫いたかに見えた。
「遅いな」
それは寸でのところで躱される。
だが攻撃は止まらない。
フレデリカの攻撃隙を補うように、ユキナの刀が振るわれる。
それは予定された正確で綺麗な動き。スキル名を口にせず、特定モーションだけでスキルを発動させたのだ。
ガキン、と金属同士が強くぶつかり合う音。スキルを発動させたユキナの攻撃は僅かに敵を押し込めたが、打ち破るほどではない。
刀の男を守るように魔法が飛ぶ。
避けるため、二人は大きく下がった。
「おおっと、強化魔法がなかったら危なかったな」
敵の構成は前衛、魔法使い、サポーター、ヒーラーの四人。
レベルの高い前衛で前を抑え、魔法使いが援護、サポーターが付与や強化を行い、ヒーラーによるHP管理。それぞれが異なる役割を十全にこなしている。
幸いなのは前衛が一人のため手数が少ないことか。しかし魔法使いの魔法援護は正確にこちらだけを狙い、味方には被弾しないように徹底していた。
隙はない。ないなら作ればいい。
「『ピルム』!」
槍術スキル『ピルム』。投槍を召喚し、槍による長距離攻撃を行うことができるスキルだ。
狙うはオーブ、と言いたいところだが、射線上には刀の男がいる。このスキルでは刀の男に大きなダメージを与えることはできない。
「行け!」
放ったのは男の射線上を僅かに逸れた場所。そこにいたのは敵の魔法使いだ。
基本的にこのゲームにおいて、INTは中・遠距離、ATKは近距離で使うことが多い。特に後衛はATKの高い攻撃が飛んでくることは少なく、そのため魔法ダメージを軽減するMDFにはある程度固めていてもDFのステータスは薄めのプレイヤーが多い。
フレデリカのスキル『ピルム』の参照している数値はATK。もちろんダメージ判定は敵DFとの数値でなされることになる。
『ピルム』じたいはそれほど威力の高い攻撃ではないが、DFの低い魔法使いはこれに注力して防がなければ大ダメージを受けることになってしまう。
そうして生じた隙。
相手のサポーターも魔法使いへの防御魔法の援護を行ったため、すぐには刀の男のサポートはできない。
スキル名を叫び、フレデリカ、ユキナが強襲する。
ラフィもまた弾幕を張るように後衛、オーブに向かって魔法を放つ。
「いいねえいいねえ!俺に本気を出させようってか!」
精錬された連携。レベル100以下のプレイヤーたちとは思えないプレイヤースキル。
それを目の当たりにしてなお、刀の男はその顔に不敵な笑みを浮かべる。
「だがお前らにこの経験はあるか?『恐嚇』!」
スキル『恐嚇』。このスキルの影響を受けたプレイヤーは一定時間AGIが15%低下する、という至って単純な効果のスキルだ。
しかしその効果は慣れていないプレイヤーほど絶大。急な身体の重みを感じたフレデリカとユキナは連携のタイミングが崩れる。
刀の男はレベルの高いフレデリカの攻撃を刀で防御。それでもスキルを使っていたフレデリカは刀の男にダメージを入れられるはずだったが、槍を受け流され、相手の態勢を少し崩せたのみ。
遅れて繰り出されたユキナの攻撃はヒット。しかしデバフのせいかクリーンヒットとはならず、即座に距離を取られてしまう。追撃をしようにも、デバフとレベル差のせいで一切が許されない。
ラフィの追撃を受け切った後衛は刀の男と合流し、後衛のヒーラーが全体に回復。
そのタイミングでシェアしていた『鑑定』の効果も切れる。
成果は相手が回復しきれなかった分のHPを削ったことと、オーブまでの距離を少し詰められたことか。そのうえ刀の男はステータスを防御系のDFにも寄せているのか、ダメージも予想より少ない。二割ほどだろうか。
対してフレデリカとユキナは有用なスキルが軒並みクールタイムに突入、ラフィも魔法を連発させたせいでMPが大きく削れてしまった。
自分たちが費やしたリソースに対して、得たアドバンテージが少ない。
思わずフレデリカから舌打ちが飛ぶ。
「俺に一割もダメージを与えることすらできないと思ったが、なかなかやるじゃねえか!《Valkyrja Wyrd》!」
「それは皮肉?」
「褒めてるんじゃねえか!」
刀の男の言葉に嘘はない。
だが同時に自分たちが負けるとは微塵も思っていないのだ。それが二割というダメージへの感覚の差。
「あんたたちにゃこのゲームは最後かもしれないが、なかなかやる相手としてギルマスの名前くらいは覚えておきたいな!」
「名前を名乗るならまず自分からって教わらなかった?」
刀の男はかっかっかっ、と笑って、声高々に名乗りを上げる。
「それもそうだ。俺の名前はバル。《ホビットの探検》のバルだ!」
「私はフレデリカ。それと、私たちはまだ最後じゃないよ」
「そうかフレデリカ!口だけは結構だが、なら俺の攻撃を受け切れるかな!ロアー、ルロンド、ラダガス!」
その言葉とともに、刀の男――バルが攻勢に転じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます